まだ行けません
ボウさん達を誘って鍛錬を始めて、数日が経った。
まだ勝ててない。
数日だから、仕方ないと思うかもしれないけど悔しい。
悔しいもんは悔しい。
鍛錬が終わったら、どこが駄目であの時にどうすれば良いのか反省会をする。その時にはボウさん達はいない、もちろんだ。
それに、ボウさんから「自分たちで反省会をする意味があるんだ」と言われた。それに「どうしてお前さん達が強くなる手助けをする必要があるんだ」とも言われた。
これには納得するしかない。人に言われたからこうする、ってよりは悩んで迷って自分達で決めた方が身につくと思うんだ。
実際、ナック達もボウさん達から助言を求めていなかった。これは自分達で解決すべき問題で、しかも戦ってる相手からどうすれば勝てるのか何て聞く方が変だとも。
後は、勝つにはどうすれば良いのか話すのに、そこにその相手がいるのは情報を前もって与える事になるって事もある。
「今日も勝てなかったか」
「仕方ない……って諦められないよな。負けは負けなんだけど、それを素直に受け入れる事とは違うよな」
「だよなあ」
「それでも、初日よりは良いじゃないか。私なんて、初日は何も出来なかったから、少しずつ勝負らしきものになってきてる実感はあるぞ」
「ああ、デルはなあ」
三人共にデルに同情の目を向ける。あれは勝負の中でも最低だろ。デルがした事と言えば、クスさんを観察しただけだろ。その後は言うまでもないだろ。
「壁に押し付けられたデルは、あれ以上の負け方はないだろ」
って、言うなって雰囲気をナックが見事に壊してくれた。
「じゃあ、ナックは何が出来たんだ?」
「えっと、回り込むとか?」
「それで成功したのか?」
「……してない」
「ふふん」
デルが勝ち誇るのも分かる。初日に話してたクスさんへの対処方は、ナックがやってみた。やってはみたけど、回り込めなかった。回り込もうとすると、クスさんはその場で回転するだけ。
クスさんからは積極的に動こうとはしなかった。デルの時の様に突進をしないで、待ちの体勢になったんだ。そうなると、あの大きな盾の前に攻め手が少なくなってしまう。
特に戦いの時間は決めてなかったけど、どちらも攻め手を欠いて終わった。結果は引き分けになるんだけど、グループでの役割を考えると勝者はクスさんだろう。クスさんは防御を主としていて、攻撃は他の人に任せている為、攻撃を防ぎきれば勝ちと言える。
一方、俺達には明確に役割はない。ないけど、俺達の中で一撃の攻撃力が高いのはナックだ。だから、ナックの攻撃が通じないと言う事は全員の攻撃が通じない事と殆ど同じ意味だ。
「まあ、今は良いだろ。負けて改善点があるって事は、俺達はまだ強くなるって事なんだから。前向きに考えよう」
「そうだな。この悔しさを何時かは返したいもんだな」
「そうですね。何時とは言えないですけど、勝ちたいですね」
「そうそう。ボウさん達と戦ってなかったら、闘技場でも負けてたかもしれないんだ。そう考えると、誘って正解だったな。ありがとうな、ルーク」
「っ! いえいえ! 俺は何も考えないで言った事なんで」
「そうは言うけど、そのお陰で強くなる機会が得られたんだ」
「は、はぁ」
そうこれはルークの手柄だろ。俺は誘っても意味がないって思っていたから、誘うだけ無駄だと思ってたし誰も誘いに乗らないと思ってた。それが、ボウさん達だけとは言え誘いに乗ってくれた。
しかも、俺達の自信を壊す程の人が釣れたんだ。ボウさん達にも戦い以外の目的があるにしろ、今では良かったと思える。これで俺達は強くなれる可能性を見付けたんだ。上には上がいるって事を。
「まあ、ボウさん達との事は今日は忘れよう。折角、狩りに参加出来るんだから」
「それも、ボウさんからの紹介なんだけどな」
「それを言うなよ」
「「「ぷっ」」」
いつ組合に行っても狩りの依頼はなかった。あるのは、エバさんの依頼の様な農業や商会などの誰でも出来るとは言わないけど軽作業だ。冒険者の位階が高くてもそれに見合った依頼がないから、請けるしかない。
狩りなどの危険が伴う物は町にいる兵士がやるか、戦える町の人達でやってしまうから依頼が組合まで来ないんだ。
それでも、冒険者としては狩りをしたい訳で。他の冒険者も狩りがしたい筈なんだ。狩りの方が危険ではあるけど、稼ぐには一番だからね。そこでボウさんの話に戻る。
ボウさん達は冒険者ではあるんだけど、この国を拠点としている。この町だけじゃなくて、国全体ね。今はティンにいるけど、普段は町から町へと移動してるらしい。この国が拠点ってのもあるんだろうけど、兵士やもっと上の軍の偉い人達にも知り合いがいるらしい。
ボウさん達は時々兵士に混じって、狩りに行く事があるらしいんだ。だから、ボウさんの紹介だと兵士側も受け入れてくれるみたいだ。有難い事だ。その代わりに組合を通しての依頼ではないから報酬はなしだ。まあ、今は報酬なしでも狩りをしたいから、その話に乗ったってわけ。
因みに、ボウさん達の位階はⅣだ。個人でもデューイさんのⅥが最高だ。信じられないと思うけど、そうなんだ。まあ、その理由は昇格の為の依頼がそもそもないから仕方がない。
国全体の事は詳しくは分からないけど、と前置きしてから、一応この国では上位に位置するって言ってた。
道理で勝てない訳だよ。……納得した訳じゃないけど、少し安心したのは事実だな。
『お前さん達がボウのヤツが言ってたヤツか』
『はい』
『アイツの紹介だから連れて行くが、邪魔はするなよ』
『分かってます』
入り口で冒険者カードの提示とボウさんからの紹介だと言うと、中に入る事を許された。で、中にいる偉い人に挨拶はしろと忠告も受けた。
で、この人はこの町の軍で一番偉い人らしい。クローコー族だと思うんだけど、顔が怖い。身体も大きいし顔が怖い。至る所に傷があって、怖い。
ボウさんに言われた場所は、町の中央にある闘技場の傍の軍の施設だ。闘技場には入った事がないけど、外観は円形で高さもあり結構大きな建物だ。闘技場では人を集めて盛大にやるらしいから、そのせいもあるんだろう。柱や入り口など、色んな装飾が施されている。その素材は全て岩で出来ている様で、それも相まって圧倒される造りになっている。屋根はなさそうだ。
その脇に軍の施設がある。こちらは四角で高さはないけど横と奥行きが結構ある。それと装飾はない。その代わりに力強さがある。上手く説明できないけどね。特徴と言ったら、平坦な所はあるにはあるんだけど、起伏や水場もある。これは町周辺の地形を再現してるんだろう。
因みに闘技場、庁舎、軍の施設の三つは中央の盛り上がった位置にある。
「何て言ったんだ?」
「ボウさんの知り合いだけど、邪魔だけはするなってさ」
「そうならない様に努力するか」
そりゃそうだな。ボウさんからの紹介だからと言って、全てを信頼する事は出来ないだろ。俺だったらそう考えるな。頼みは聞くけど、本人の能力は信頼しない。で、どうするかって言うと……。
『お前たち! 今回はこいつ等を一緒に連れて行く!』
『うす!』
『しかーし! 実力も分からず背中は預けられねえよな!』
『うす!』
『じゃあ、やる事は分かってるな!』
『うす!』
『じゃあ、準備にかかれ!』
『うす!』
え? 何? 何事? 偉い人が訓練場にいる兵士に向かって大声で叫んだかと思えば、兵士たちも大声で応えたら直ぐに動き出した。
「なあ、何が始まるんだ?」
何となく、答えは分かっているけど聞かずにはいられない。
「私達の事を紹介したんだ」
「それだけですか? それだけの為に大声で紹介ですか?」
ルークは分かっていない様で、首を傾げている。ナックは……分かってるな。
「付け加えると、一緒に行く者の実力が分からないのは嫌だよなって」
「それって……」
「ああ、そうだ」
ルークも分かったようだな。戦いは避けられないって。実力が分からないって事は、分かる様にすれば良い。ただ、まさか全員と戦わないよな。流石に全員は無理だぞ。これから狩りに行くんだぞ。全員はないよな。何人か代表と戦うんだよな?
「なあ、何人と戦うのか聞いてくれ」
「これから狩りに行くんだぞ? 流石に一人だろ」
「いいから、念のためだよ」
渋々だけど、さっきの怖い顔の人に聞いてくれる様だ。実力を見るのは分かる。分かるけど、何だか心配になっちゃうんだよな。あの怖い顔だと。
『戦うのは分かりました。それで何人と戦うんですか?』
『何人? 何甘ったれた事言ってんだ!? 俺達が満足するまでに決まってるだろうが』
『……えっと、この後に狩りに行くんですよね?』
『そうだぞ』
『それだと、ついていく前に潰れちゃいますが』
『そうならねえように、早めに満足させるんだな』
『……分かりました』
「それで何人だ?」
「決まってないそうだ」
「「「はあ!?」」」
「彼等が満足するまでだそうだ」
「「「!!」」」
えー、満足するまで? どうやったら満足するんだ? しかも、全員と戦わないと満足なんてないんじゃないか?
嬉しそうな顔でいそいそと動き出したかと思えば、そういう事か。まるで、ボウさん達みたいだな。これって、狩りに行けるのか?




