厳しいです
誤字修正 (2018/7/13)
「闘技場での戦いか、どうする?」
「どうするって言われても、俺等にはどうする事も出来ないだろ? 戦うしかないんだから」
「そうなんだけどさ」
そう。戦うしかないんだ。でも、個人とグループ両方だろ? しかも、ただ勝てば良いって訳じゃないんだろ? 楽しませるって簡単に言うけどさ、必死に戦うだろうから楽しませるって考えは吹き飛ぶよなあ。まあ、武器は訓練用だから死ぬ事はないんだろうけどさ。
「今からその事を心配しても仕方あるまい。やれる事をやるしかないだろ」
「やれる事って言っても、鍛錬くらいだろ? 鍛錬を馬鹿にしてる訳じゃないけど、狩りの腕が鈍るのは困るんだよ」
「そうだが、依頼がないと仕方ないだろ。勝手に狩りに出て、組合と町から睨まれるのだけは避けなければ。もし、睨まれたら次の町への許可どころか、追放もあり得るんだぞ」
「え!? そんな事ってあるんですか?」
「少ないがあるにはある。余り公にはしていないが、我が国にもあるんだ。この国でないはずがないだろう」
追放か。冒険者になってから、結構経つけどそんな説明なかったぞ。……なかったよな? 俺が聞き逃してるって事はないよな?
「なあ、それって説明されたか?」
「いいや、俺は聞いた覚えはないな」
「だよな。デル、本当か?」
「私が嘘を言っていると?」
「いや、そうじゃないけどさ」
「そう言ってるじゃないか。第一、嘘を言って私に何の得があるんだ? こんな事で嘘を言っても意味ないだろ。それに、余り公にはしてないって言っただろう」
「ああ、すまん」
余り公にしてない、か。という事は、冒険者になりたてには教えないって事か。あ! ヘラクさんがいつか話してた、あの事と関係あるのか? それだったら、俺達が知らないのも納得出来るな。
「それで、どうします?」
「どうしますって言っても、今まで通りに依頼と鍛錬しかないだろ」
「考えたんですけど、狩りの依頼があれば請けてなければ鍛錬。で、その鍛錬なんですけど、他の冒険者とやっても良いのかなって思いまして。きっと他の冒険者達も許可をもらう為に闘技場で戦う訳ですし」
「他の冒険者、か。確かに俺達だけでやるよりは、何か新しい発見とかあるかもな」
「そうですよね。今まで対人戦ってした事がないので、少しでも参考になれだと思うんですよ」
「ただなあ……」
幾ら他の町への許可が必要だからと言って、他の冒険者と協力するかな。基本的に冒険者って他と関わりたがらないからな、俺も含め。だから、対人戦の経験は積めるけど、必要以上に俺達の情報は渡したくないよな。
それに、勝つ必要がどこまであるのか疑問だからな。
「何か不安でも?」
「不安……というか」
そこで俺は自分の考えを伝えた。伝えたけど、情報を与えるよりは対人戦の経験の方をとったみたいだ。それに、向こうも同じ様な事を考えているだろうから、全力でって事はまずないんじゃないかと。
「俺は色んな人と戦ってみたいな。退屈だし、興味があるし」
「そうですね。これからの事を考えると、狩りよりも対人戦の方が多くなりそうですし。何より刺激になると思うんですよね」
「私も賛成だな。仲間での鍛錬は意味がないとは言わないが、どうしても変化がないからな」
「皆が言うなら、他の冒険者に声を掛けてみるか。でも、ここに来てまだ少しだけど、他の冒険者から声なんて掛からなかったぞ」
「「「……」」」
他の冒険者も目的は同じだろうから、誘いの声がないのは変だよな。中には他の町に行く予定がない人達もいるだろうけどさ。それでも、誘われないって事はそういう事だろ。
この町の闘技場での戦いを経験しているか、他の町でも似た様な試練があるんだろ。だから、勝つ事が絶対じゃないって知ってるんじゃないかな。他の冒険者と一緒に鍛錬する意味を見出さないってのも分かるし。
「お前、中々やるな!」
「これでも冒険者なんでね! 位階は低いけど」
「はは! 位階が低くたって強けりゃ良いんだよ!」
結論から言うと、冒険者への誘いは成功した。成功したと言っても、今戦ってるグループだけだ。他の冒険者は俺の予想通りの答えで断ってきた。そりゃそうなるよな、と思って諦めて自分達だけで鍛錬しようとしたら一組のグループが話しに乗ってきた。
それが、ロートの四人組だ。頭は人族で、他は人族とクローコー族と鯱人族の男だけのグループだ。彼等は俺達よりも上のⅣだ。俺達がⅣに上がれる寸前までいったからといって、俺達と強さは変わらないと言う訳ではない。
彼等と気安く言ったけど、全員俺達よりも年上だ。上は八十後半で下は三十半ばだ。それなのに何故Ⅳなのかと言うと、一度解散したそうだ。このグループの頭であるボウさんは暫く個人で活動してたそうだ。すると、自然と同じ様な人達が集まってグループを組んだとか。同じ様な人って言うのは、戦いが好きな人達って意味だ。
今、ナックと戦っているユンさんは鯱人族で年は三十後半らしい。らしいってのは、年に拘りがなくいつ生まれたのか忘れたとの事だ。そのユンさんはナックよりも縦も横もある。使ってる武器は両刃の斧だ。
「ほら、これはどうだ!」
「ぐっ! お、重い」
何と言うか、反則というか出鱈目だと思う。だって、斧と言ったら、木を切る小さいのを想像するだろ? 実際に、今まで武器屋で見て来た物もそうだった。だけど、あれはないんじゃないかな。刃の両端の長さは俺が両手を広げてもまだ先端に届かないくらいだし、地面に突き立てるとユンさんの腰ほどまである。柄も含めるとユンさんより少し長い。
あれだけの大きさだから、重量は相当なはずだ。それなのに、一撃一撃が速くて重さを感じさせない。武器に振り回される事もないから、中々隙がない。ナックだから受けても平気な様だけど、ナック以外は軽く吹き飛ぶだろうな。あんなのと対決するなら、受けるなんて考えないで、避ける事を第一にするな。
反則だよ。
で、待ち切れなくなって戦い始めたのはデルとクスさんだ。戦い始めたのは良いけど、ナック達とは対照的で睨み合ってばかりだ。ユンさんが筋肉の塊って感じなのに対して、クスさんは何と言うのか丸い。背はルークより低くてデルよりは高いって感じだ。で、横はデルの三人分くらいありそうだ。もちろん重さもデルの二人分以上はありそうだ。
そして手に持つのは、クスさんが隠れる程の大きな盾だ。しかもそれを片手で持っている。大きさと言い厚みと言い、相当重い筈なのに軽々持っている。まあ、慣れてるってのもあるんだろうけど、それで動きが鈍くなる様なら使わないだろうし。
で、もう片方の手に持つのは棍棒だ。ただの棍棒じゃない。先端には鎖で繋がっている棘の球がある。棍棒部分は腕の半分くらいの長さで、鎖や球も含めると腕より長くなるだろう。あんな痛そうな武器はプロさんの所でもなかった。
「どした? 攻撃しないのか?」
「……出来てればとっくにしています」
「ふーん。相手を観察するのは生き残るには必要だ。だが!」
「!! くっ」
「相手がいつまでも動かないとは思わない事だな!」
驚いた。あんなに大きくて重そうだから、鈍いと思いきや素早い突進をしている。見た目が鈍そうなのに素早いとか反応が遅れるよ。盾を前面にして突進するのはヘラクさんと同じなんだけど、見た目で騙されるから驚くよ。しかも、重量はクスさんの方があるんじゃないかな。あの突進はヘラクさんと同じかあれ以上だろうな。
ヘラクさんもだけど、あの体格で突進してきたら迫力あるだろうな。契約する前だったら、絶対に固まって動けないだろうな。当たったら最期、死が待っている事が確実だな。
「お前さん達、中々やるな」
「それはどうも」
「アイツ等ばかり楽しみやがって。俺もやりたくなってきたぜ」
「ははは」
楽しむって。武器は普段使ってる物だから、死ぬ可能性もあるのにな。それなのに、楽しむって凄いな。本当に戦いが好きなんだな。俺はここまではなれないな。
「お前さん達、タルパから来たんだよな?」
「はい、そうですよ」
「だったら、精霊術を使ったらもっと強いって事か」
「それを言うならボウさん達もですよね」
「まあな」
そう。今回は精霊術の使用はなしにしている。精霊術を使わないで、どこまでやれるのかを確認する為だ。後は、何が出来て何が出来ないのかを秘密にする為だ。俺達から誘ったとは言え、全部曝け出す必要はないんじゃないかと。それはボウさん達も分かっているみたいで、精霊術を使わない提案をすんなり受けてくれた。
まあ、あれだけ鍛えたのに通用しないってのは予想外だ。俺だったらって考えると、どうやって攻撃すれば良いのか分からなくなる。ユンさんの連続攻撃には、クスさんの壁の様な盾にはどう対処すれば良いのか分からない。俺の武器が弓ってのもあるんだろうけど、相性が悪すぎるだろ。でも、相性の事を言ってたらいつか魔物に殺されちゃうだろうな。
それでも、精霊術を使えば何とか勝てると思うのは負け惜しみかな。
「(それ以外、何があるって言うのよ)」
久しぶりに話し掛けてきたと思ったら、冷たい一言だな。悲しくなってくるよ、まったく。




