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試練って?

 「なあ、いつまでこの町にいるんだ?」

 

 「この町に着いた時に組合から説明されたの覚えてないのか?」

 

 「されたけど、あれって他の町に行くなら組合で活動するだけじゃ駄目ですよってだけだったろ?」

 

 「そう……だっけ?」

 

 「そうですよ。他の町に行きたいなら、条件があるから詳しくは庁舎で説明を聞いてくれって言ってましたよ」

 

 「あー、そうだったか? 覚えてないな。まあ、二人がそう言うならそうなんだろうな。じゃあ説明聞きに行くか。説明はデルに任せるか」

 

 「おい。そこは全員で聞くべきだろうが」

 

 「もちろんそのつもりだよ。でも、俺達だと聞き取れない言葉があるだろうから、任せるんだよ」

 

 「まあ、それなら良いがな。だが、私に任せるばかりじゃなく、覚える努力はしろよ?」

 

 「分かってるって。じゃあ行くか」

 

 この町に着いて、十日は経ったかな。町に入る時に審査をする兵士から、この国や町での注意はされた。その時に組合や庁舎、お勧めの飯屋や宿屋の場所を聞いた。聞いたけど、庁舎へは一度も行ってない。特に用事がある訳でもないので、行く必要を感じなかったんだ。

 組合でも次の町へ行くには、許可がいるって説明されたんだけどな。直ぐに庁舎に行って確認してないんだよな。直ぐに次の町に行く予定もなかったし。

 

 

 

 「ここが庁舎か」

 

 いつもなら組合に行って依頼を選んでる時だろう。それが今は目的の庁舎の前にいる。それは、町を囲む壁に負けてない威容だ。土地が盛り上がってる所ってのもあるんだろうけど、それでもだ。しかも横も奥も結構ある。そんな庁舎の中に入っていく。

 タルパでこれと同じ様な物って、クリスタとコライかな? まあ、クリスタのは遠目で見ただけだから比べられないんだけどね。後、流石に王都のとは比べらものにならないけどな。

 

 「どこで聞けば良いんだ? 文字読めないからデル」

 

 「はいはい。分かってるよ。えーっと、二階だな」

 

 「じゃあ案内してくれ」

 

 

 「次の方ー。今日はどういった用件ですか?」

 

 「この町に着いてまだ日が浅いんですけど、次の町に行くにはどうしたら良いのですか?」

 

 庁舎の二階に上がると、そこは受付がたくさんあった。受付の人も俺達みたいに説明を聞きに来ている人も種族はバラバラだ。待っている間は立ちっぱなしかと言うとそうじゃなくて、背もたれがない椅子が幾つも置かれていた。しかも、木や石だけで出来てる訳じゃなく、座面に何か毛皮が敷かれていて柔らかかった。流石にクライブ程じゃない。

 

 俺達の対応をしているのは、魚人族だと思う。種族は何ですか? と、いきなり聞けないだろう。でも、前に見た海豚人族に似てるかな。全体的に黒っぽくてつるっとしていて、首から下は白っぽい。特徴は歯が多いって事かな。

 

 「冒険者ですか?」

 

 「はい。それは関係があるんですか?」

 

 「ええ、ありますね。冒険者だと戦う事に慣れているでしょうから」

 

 「それって、どういう事ですか?」

 

 「では、詳しく説明しますね」

 

 

 この町に来てまだ間もないって事で、丁寧に説明をしてくれる様だ。何を言ってるのか分からないから、後で聞かないとな。

 

 

 「まず、分かっていると思いますけど、この町は隣のタルパとの国境線に近い町です。近いという事で人、物の交易が盛んで国では大きい部類に入る町です」

 

 「はい、それは分かります。それと冒険者と何が関係しているんですか?」

 

 「慌てないで下さい。これから説明しますので」

 

 「ああ、すいません」

 

 「では続けますね。人の出入りが多いと言う事は、良い影響と悪い影響が出てきます。その悪い影響を国全体に及ぼさない為に、国境線に近い町で審査をする訳です」

 

 「なるほど。分かる様な気がします」

 

 「分かって頂けますか。中には『悪い事をする様に見えるのか!?』って怒る人たちがいますからね」

 

 「その為の審査か。それで、冒険者との関係は?」

 

 「この国は一言で言うと戦士の国です。兵士としての階級でなくとも、戦う術はほぼ全員が身に付けていると言って良いでしょう。ですので、戦いで見極める事になります」

 

 「戦い、ですか。それは一人で挑むのですか、それとも……」

 

 「両方です」

 

 「……両方、か。それは何人で挑んでも良いんですか?」

 

 「何人までと決まりがある訳ではありません。ですが、大体の方は冒険者のグループ毎に挑まれますね。それに即席で組んでも連携が取れなければ意味がないでしょう。後、審査する側も挑む人数にある程度合わせて増えます」

 

 何やら難しい顔で話し合っている。所々の単語は拾えるけど、何を話してるのか内容が分からない。デルが難しい顔をしてるって事は、他の町に行く許可が厳しいって事だろう。あー、自分で話してる訳じゃないから何だかモヤモヤするな。話してる内容が分からないってのが大きいだろうけど、知らないうちに勝手に話が進むってのは良い気分じゃないな。こりゃ、早めに言葉を覚えないとな。

 

 この国だけの事じゃないんだ。ここで違う言葉の覚え方のコツを掴めば、他の国の言葉でも通用するんじゃないか?

 

 「ちょっと、すいません。仲間にも内容を伝えたいので……」

 

 「ええ、良いですよ」

 

 受付の人と話してたかと思うと、後ろでただ座っていただけの俺達に向き直った。

 

 「他の町に行く条件が分かったぞ」

 

 「何なんだ?」

 

 「戦う事だ」

 

 「戦う事? 随分と簡単なんだな。それって、勝たないと駄目なヤツか?」

 

 「いや、そうではない。戦う事が目的らしい。勝ち負けは関係ないみたいだ」

 

 「ふーん。じゃあ、適当に戦って終わりって事で良いのか?」

 

 「いや、そうとも言えない」

 

 条件は戦う事で、勝ち負けは関係ない。でも、戦えば良いって事でもない?

 

 「訳が分からないな。結局、どっちなんだ?」

 

 「この国に来て感じてると思うが、冒険者がいらないくらいに依頼が少ないだろ。それは、全員とは言わないが戦う術を身に付けているからだ」

 

 「うん。ん? それが関係あるのか?」

 

 「戦う術を身に付けている事と同じ意味ではないが、国民の性格として好戦的なんだ。もちろん、国の性格も好戦的だ。だから、どうしても考え方が戦いに寄ってしまう」

 

 「だから、どうなんだ?」

 

 この言い方だと、ナックも焦れてきてるな。そりゃ、そうだよな。さっきから何を言っても結論が分からない。

 

 「そう焦るな。後、この町は国境線に近い町だから、審査が他の町に比べると厳しいんだ。それは、良からぬ者が国全体を勝手に歩かれては困るからな。そういう国と町の背景もあるんだ」

 

 「だから、何なんだ?」

 

 「だからと言う訳ではないが、戦いで人を見極めるんだそうだ。そして、戦うのも見るのも好きなんだ」

 

 「見るのも? 戦うだけじゃなく?」

 

 「ああ。だから、戦うってのは適当じゃ駄目なんだそうだ。どこかに楽しめる場面がないと」

 

 「楽しめる? それって誰かが見るって事か?」

 

 「戦う相手ってのは町の兵士で、中央にある闘技場で戦う事になってるそうだ。そして、観客を集めるのだそうだ」

 

 「見られるのかあ。それで、許可をするのって誰なんだ? まさか、観客が楽しめたら良いとかって事じゃないよな?」

 

 「ちょっと待て、そこまでは聞いてない」

 

 そこまで言うと、受付の人に向き直り、話の続きをしている。

 

 んー、戦いで見極めるか。タルパでは町の行き来は自由だったし、精霊との契約の審査だって戦いはなかった。審査とは言ってたけど、何もやってないに等しい。

 

 ……まあ、あれはデルがいたからこそなんだろうけど。それでも、戦って見極めるって事はなかった。町の中で戦ったのって、群れが襲ってきた時とデルと戦った時だけかな。しかも、あれは許可をもらう為じゃないからな。仕方なくと言うか、流れというか。

 

 「分かったぞ」

 

 「何だって?」

 

 「闘技場で戦うのは今から、大体二(つき)後だ。ここも我が国と同じだから、正確には四十五日後だな。そこで観客を入れて戦う。相手は町の兵士だ。だが、勝ち続ければ冒険者同士って事もあるらしい。それと、決めるのは代官と軍の指揮官らしい」

 

 なるほど。観客は入れるけど、決めるのは代官と軍の関係者なのか。その人がどういう人なのか分からないから、楽しませる戦いってのが分からないな。

 

 「それで、結局どうしたら良いんだ?」

 

 「簡単に言うとだな」

 

 「簡単に言うと?」

 

 「次の町に行きたいからとかじゃなくて、純粋に戦いを楽しめだそうだ。これは一種の祭りの様な物で、民にとっては娯楽の一つなのだそうだ」

 

 「難しい事を考えずに、戦えって事か。それは単純で良いな」

 

 そうだよな。許可をもらう為に戦うんだけど、難しい事を考えてたら怪我しちゃったら意味ないな。

 

 「それで他に何かあるか?」

 

 「闘技場の開催は四十五日後で、最初の対戦相手は町の兵士で……。あ、後は戦うのは個人とグループの両方だそうだ」

 

 「え!?」

 

 今まで黙ってた所から声が聞こえてきた。もちろん、それはルークだ。そんなに驚く事か?

 

 「そんなに驚く事か?」

 

 「だって、アローニさん達とも戦うかもしれないんですよね?」

 

 「まあ、勝ち続ければそうなるだろうな。でも、ルークは余裕だな」

 

 「な、何がですか?」

 

 「対戦相手の兵士に勝つ気でいるんだからな。しかも、どう戦う相手を決めるのか分からないけど、勝ち続けるって思ってるんだからな」

 

 「そ、そんなんじゃないですよ!?」

 

 俺達と戦うかもしれないって心配する位には、自分に自信があるって事か。鍛錬はしてるし、力はついてきてると思う。だけど、狩りもしないし鍛錬の相手が俺達だけだと、どれだけ強くなったのかいまいち分からないからな。これは良い機会かもな。ルークだけじゃなく、俺達にとっても。


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