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救援

 「やっぱり父さんには敵わないかあ」

 

 仕留めたばかりのグリエの血抜きをしながら、そんな事を言ってくる。

 

 「やっぱりって何だい、やっぱりって」

 

 「俺だって結構狩りの腕は上がったと思ってたんだよ。だけど、久しぶりに父さんと狩りに出掛けたら、まだまだだなって思うよ」

 

 「そうねえ、私も自信なくしちゃうわ」

 

 今日は久しぶりにトプロとミラと久しぶりに狩りに来ている。俺から見ても二人の腕は上がった様に見えるんだけど。そんな二人から見て、俺はまだ上って事か。まだ、父としての凄さはまだ保てるかな。

 

 「二人だって腕は上がってるよ。だけど父さんだって、ただ長生きしてる訳じゃないさ。毎日狩りをしてるし、それに精霊術だって二人よりも多いし、多くの年月を掛けて磨いて来たんだよ?」

 

 実際、同年代の子たちと比べても勝ってるはずだ。他の精霊と契約してるって滅多にいないからね。

 

 「そうなんだけどね。だけども、って思っちゃうわけさ。精霊だって土と水と契約したのに。それでもまだなのかってね」

 

 「それだよそれ。それが聞きたかったんだよ。いつの間に他の精霊と契約したんだい?」

 

 「そうねえ、家を出た後に暫らく兄さんと狩りをしてたのよ。その時にね、一緒に他の精霊と契約しようかって誘われたのよ」

 

 「そうなんだよ。確かに樹の精霊術だけでも生活には困らないさ。だけど、目標が父さんだからね、少しでも近づきたくて森を出たのさ」

 

 俺が目標かあ、嬉しい事言ってくれるねえ。まあ、複数の精霊と契約したって、そう簡単には抜かせないんだからな。でも、土と水? 攻撃なら火や風が良いと思うんだけどな。

 

 「それにね、こうやって一緒に狩りに出た時に驚かせたいってのがあったのよ」

 

 「十分驚いたさ。だって子供の頃、散々森の外の事を話しても興味なさそうだったから。外に出るなんて思ってもみなかったよ。でも、何で土と水なんだい?」

 

 「そうだな。森の外には出たけど、外で生活するつもりはなかったから。森に関係する土と水を選んだんだよ。後は、ここから出て行くと土と水が近かったってのも理由かな」

 

 「そっかあ。これはスイにも話してあげないとね。驚く顔が見れるぞ。じゃあ驚かせついでにもっと狩ろうか。お、噂をすればスイから連絡だ。……うん。うん。え? うん。分かった。今すぐ向かうよ」

 

 「父さんどうしたの? 何かあったの?」

 

 「うん。魔物化したルスが出たって」

 

 「それだけ?」

 

 ミラがたかが魔物化したルスが出た位で連絡するのかと疑問に思っている様だ。

 

 「それ自体は問題じゃないんだ。友達を逃がす為にアロが囮になったらしいんだ。それで、私たちにも狩りの手伝いをして欲しいって事らしい」

 

 「大問題じゃない! 父さん、何のん気にしてるのよ! アロはまだ子供なのよ?早く行ってやらないと手遅れになっちゃうかもしれないのよ!?」

 

 俺が問題じゃないって言った事に、ミラが猛反発してくる。のん気とは言う物の、スイからの報せだってアロが危ないから早く! ってよりも私たちが先に狩っちゃうから早くしないと活躍できないわよって感じだったし。

 

 「のん気とは言うけどさ、スイからもアロの心配よりも、私たちが先に着いて狩っちゃうから獲物がないかもよって感じだったんだよ」

 

 「母さんも何言ってるのよ!? 大事な息子でしょ?」

 

 「大事な息子だ。それはスイも私も変わらないよ」

 

 「じゃ、じゃあ」

 

 「お前たちもそうだった様に、アロも厳しく育てたんだ。だから、正面から闘うんじゃなくて逃げに専念すれば大丈夫だよ」

 

 「ま、まあ厳しく育てられたけどさ。だけど、魔物化したのだって初めてなんじゃないの? それに、もしかしたらって事があるかも知れないじゃない!」

 

 「そうだよ、父さん。アロを信じてるのは良いけど、心配しないってのは違うと思うよ。初めて魔物化したヤツと出会ったら、足が竦んでいつもと同じ様に動けてないかも知れないし」

 

 「そ、そうか。そうだな。すまん、私の基準で考えてたな。よし、じゃあスイに遅れないように行くか。それで、格好良いところを見せようじゃないか」

 

 そうだよなあ。俺だったらオールスが現れても問題ないけど。アロはまだ子供で精霊術が使えないんだったな。それでも、厳しく育てたから何とか大丈夫だと思ったんだけど。二人はそうじゃないって思ったのか。うん、そう言われると心配になってきたな。

 

 「よし、一番乗りする為に急ぐぞ! 獲物はそのままでいぞ。お前たち、遅れるなよ?」

 

 

 

 二人が去ってからどれだけ時が過ぎただろうか。まあ、それを考える暇なんてないんだが。今はアイツに近づかれない様に、直線ではなく円を描く様に走り回っている。時々、弓を射って注意をこちらに向ける。一体何本刺さってるのか分からないけど、倒れる素振りどころか、衰えてない様に感じる。俺は走り回って疲れていると言うのに何とも不公平だと思ってしまう。

 

 最初の頃は樹の上に登って弓を射ていたんだけど、それは直ぐに止める事になった。理由は簡単で、アイツが突進して樹を倒してしまうのだ。そのお陰で、最初は凄い焦った。樹から樹へと移る事も考えたんだけど、倒れる樹からちょうど良い枝がなくて地面に落ちてしまった。それからは生きた心地がしなかった。落ちた瞬間にアイツが突進してくるし、距離は近いしで。でも、森の中を曲がりながら移動するのが苦手なのか、段々と距離は離れていって、今は少し安心な距離を保って弓まで射てる。

 

 「くそっ、何射当てれば良いんだよ!」

 

 俺は愚痴を漏らしながらも、弓の手と足は止めない。父さんに移動しながらの弓の扱いは教わったから、何とか出来ている。ルスよりも大きく移動も速いから怖いけど、直前にルスに追っかけられたから恐怖が麻痺してるのかも。それに、今は狩られない事を第一にして助けを待ってるのも大きいかも。

 

 「とは言っても、衰えるどころか余計に向かって来てるんだよなあ。休ませでくれるはずもないし。どうしたもんかな」

 

 そんな今考えなくても良い事を考えてしまったからか、アイツによって倒された樹に躓いてしまった。

 

 「あっ!!」

 

 後ろを向きながら弓を引いていた体勢だったから、両手が使えない状態だったので、受身を取る事さえできずに盛大に転んでしまった。

 

 上半身を起こして、振り返るとそこにはアイツの足があった。

 

 「ぐっっ!」

 

 突進の勢いそのまま蹴り飛ばされてしまい、樹にぶつかってそのまま倒れてしまった。これまでに感じた事がない痛みで、呼吸が上手く出来ないし視界がぼやけてきた。何とか逃げなきゃと思い、上半身だけは起こすことが出来て樹に寄りかかる。ぼやける視界に捉えたのはゆっくりとこちらにくるアイツだった。

 

 「(ああ、食べられるのか)」

 

 もう声を出す事も出来ないらしい。震える手で腰の小剣を取り、最期の足掻きをしようとした所で意識がなくなってしまった。

 

 

 

 『GRUOOOOO』

 

 「アロは殺させはしないぞ! 大事な息子なんだからな! さあ、第二回戦と行こうじゃないか!」


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