幕間 精霊長同士の話し合い
「さて、契約が終わったからこれからの事を話しましょうか」
「これからですか?」
「そう。契約したからアロの記憶を見る事が出来るわ。だけど、その記憶に引っ張られないで」
「??」
「分からないのも無理はないわね。アロの記憶を見てからにしましょうか」
「え、ええ」
テラとの契約が終わって、アロを支える仲間が増えた。これで、秘密を共有出来る。今までは私一人だったから、少し不安だったのよ。前世の記憶があるアロを支えるの。だって、聞いた事もないからどうすれば良いのか分からないのよ。まあ、この事を知っているのは私だけじゃないんだけどね。プーマ達は知っているとは言え、ここにはいないからね。何かある時に助けはない。
それに、『変革を齎す者』と聞いて、更に不安になったのよ。何なのよ、『変革を齎す者』って。オクヤマ様は一言も仰ってなかったわよ!? それを聞いていれば、心の準備が出来たのに。まあ、聞いていたところで何も変わらないわね。それに、幸いにしてアロにはその気はない様だけどね。
でも、油断は出来ないわね。これまでの事を思うと。
「ちょっと、キューカさん! 何ですの、これは!?」
「分かったから、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか! 何ですか? あの高い建物は!? どうやって作るんですか?」
「そこ!?」
「え?」
「「……」」
「んんっ! まずは最初から順を追って話しましょうか」
「え、ええ、お願いするわ」
「まず、アロにはもう一人の記憶、つまり前世の記憶があるわ」
「あれって、前世だったのですか?」
「オクヤマ様との記憶を見てないの?」
「その時のアロは寝込んでいましたから、アロを通してオクヤマ様との記憶はありませんでしたね」
「ああ、そう言えばそうだったわね。まあ、そう言う事よ」
「『そう言う事よ』って、随分と簡単に終わりましたわね」
「そこは重要だけど、その先の事を話し合いたいのよ」
「その先と言うと?」
「アロには別の記憶があるわ。貴女も見て分かったと思うけど、とても魅力的よ」
「ええ、そう思いますわよ」
「でも、それに捕らわれないで欲しいのよ。アロにはアロでいて欲しいの」
「でも、あの記憶があればこの世界が良くなると思いますけど?」
「そう思うわ。だけど、アロはその為に生まれた訳じゃないの。アロには好きな様に生きて欲しいのよ」
「……そうですか」
納得、出来ないわよね。私だって色々と試したい事があるんだから。それでも、記憶にある事をしないと駄目なんてないんだから。寧ろ、それをするとアロである必要なんてない気がする。
「でも、本当は違うのでしょ?」
「違うって?」
「記憶にある事を試したいと思っているのでは?」
「うぐっ」
「図星みたいね。そうよね、あそこにあるのは見た事もない物ばかりで、興味がないなんて嘘よねえ」
「興味がないなんて言ってないじゃない! そ、そりゃ私だって、色々と試したいわよ? もしかしたら、アロだけじゃなくって周りにも良い影響があるんじゃないかって」
「だったら」
「それでもよ。それをすると、アロは記憶の中にある物を再現するだけになってしまうわ。アロが何の為に生まれたか分からないじゃない。それは余りにも悲しいと思わない?」
「そ、それは……そうですわね」
「分かってくれたようね」
ふう、やっと納得したか。ま、テラの言う事も分からないでもないんだけどね。記憶を引き継いでいるからアロじゃない、引き継いでなくてもアロはアロなんだよ。そこはハッキリさせないと、アロをただの便利な物を作る存在になってしまう。確かにあの記憶にある事をやれば、周りに良い影響があるでしょう。でも、あの記憶でだって苦労しながら作り上げた物ばかりだ。その苦労の過程を飛ばして、最後の物だけを作るってのは駄目だと思う。
苦労して、試しながら徐々に進んだ方が良いと思う。急な変化は耐えられないと思う。それに重要な事だけど、記憶にある物は作れないと思う。ダイスケが実際に作った物なんて、どれだけあるんだか。作り方は知っていても、どうやって動くのとか材料は何かとか知らない物を多いだろう。
「で、でもアロ一人で周り全員が幸せになるなら良いんじゃないかしら?」
「はああ。まだそんな事言うの?」
「だ、だって、諦められませんよ」
「でも、私たちが黙っていれば誰にも知られない事よ? そもそも、作れるかどうかも分からないだし。こういうのは徐々に進めた方が良いと思うのよ。急な変化に対応出来ないんじゃないかな?」
「そうですか? あっ!」
「な、何?」
まだ納得出来ないって顔から、急にニヤッと笑い出した。何なの? 急に笑い出して怖いわね。
「ふふん。私、覚えているんですよ」
「な、何をよ」
「記憶にある料理を作った事を」
「!!」
「忘れる筈ありませんよね? 私には駄目だと言っておきながら、キューカさんは既にやっているではありませんか」
「そ、それは……あ、あれよ」
「何ですか?」
「アロが何か作れないかと言ったから、協力しただけよ」
「ふーん、そうですかあ」
「う、疑ってるわね? 記憶を見たから分かるでしょ?」
「ええ、分かります。分かりますよ。アロが協力を求めたら良いって事ですよね?」
「そ、それは……」
良いの? それって屁理屈の様な……。いや、アロから協力する分には良いのかな? でもでも、それだと私たちが誘導する事も可能な訳だし。
「あー、もう! どうすれば良いのよ!?」
「アロから頼まれれば協力するって事で良いのでは?」
「料理の時はアロから頼まれたから、協力したけどさ。それ以外の時は思い出さない様に、記憶を封印してたのよ!?」
「どうしてそんな事を」
「だから言ったでしょ? 記憶に捕らわれないで、アロにはアロとして生きて欲しいって」
「それは分かりますよ。でも、少し位なら良いんじゃありません?」
「少し少しと言って、段々と増えていくんでしょ?」
「それは、何とも言えませんわね」
「分かったわよ。アロから頼まれれば協力する。でも、私たちからはあれこれしたいってのはナシ。あくまでもアロの生きたい様にする。これでどう?」
「まあ、それが妥当でしょうね。私は前世の記憶があるなんて、知りませんでしたからね。アロが選ばれたと知って、その人物が何をするのか興味があるから契約した訳ですしね」
まあ、これが妥協点かしらね。見た事もない物が目の前にあるのに、それを利用出来ないなんてね。しかも、それが魅力的で興味をそそられる物なら尚更ね。余り、強く言っても逆効果でしょうね。
「ねえ、今思ったんだけどさ」
「何ですの?」
「私たちがこうやって、あれしたいこれしたいと言ってアロに協力させるのが『変革を齎す』って事じゃないの?」
「「……」」
「あはは。私たちが気を付ければ良いのよ。そうよね?」
「そうですわよ」
だ、駄目だわ。これじゃあ、『変革を齎す』ってのがアロじゃなくって、私たちになりそう。まあ、私たちの事は見えないからアロがやってる事になるんだけど。それでも、アロはそんなつもりはないって言ってるしねえ。これは、本当に私たちが気を付けないと駄目ね。
でも、本当に出来るかしら。




