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幕間 判断は如何に

 時はアロ達がシム達と出会う少し前。

 

 

 「陛下、この様な手紙が届いております」

 

 「手紙? そこに置いてくれ。急ぎで読む必要があるのか?」

 

 「いえ、それが判断出来ませんので……」

 

 「? まあ、良いか。丁度今は何もしていない」

 

 「はっ」

 

 執務室で仕事をし、昼過ぎに少し休憩をしていたらシバが手紙を持ってきた。手紙自体は珍しい事じゃない。王となれば、手紙の一つや二つくるものだ。しかもそれは、シバ達が事前に確認しているから、急ぎなのかそうではないのかを判断する。だが、今回はどうやら違う様だ。判断が出来ない内容って何だ? 怖くて、とてもじゃないが読めないぞ。まあ、私が読まなくてもシバ達が読んでるから意味はないけどな。

 

 「誰からだ? えーっと、プーマ・パラマ・レント……。おお、アイツか! 手紙なんて今まで寄越した事ないのに、一体何だってんだ?」

 

 

 「シバ、この手紙を出した者を探し出してくれ」

 

 「陛下、探して一体どうされるつもりですか?」

 

 「折角、昔の仲間の子がここにいるんだ。会おうと思ってな」

 

 「畏まりました。では、日程等はこちらで調整しても宜しいでしょうか?」

 

 「うむ、任せる。バフ達何人か同席させるつもりだが、こちらは後で会議があるからその時にでも言うつもりだ」

 

 「畏まりました。それでは失礼します」

 

 早速、シバは手紙の主を探しだす為に出て行った。まあ、冒険者になると書いてあるから、組合に行けば分かるだろう。それでも、どんな人物なのか調べる必要はあるだろう。昔の仲間の子だからと言って、最初から信じる訳にはいかないからな。

 

 それにしても、今この時にか。まさか、降臨なされた事と関係あるのか? 確か、森人族だったよな? ちょっと待てよ。その者は森人族で昔の仲間の子も森人族、と。これは関係あると見て良いのか? いや、それにしても都合が良すぎるだろ。では、違うか? ……判断するには情報が少ないな。それにしたって、なあ。何かあると考えたたくもなるだろ。うむ、会ってからだな。

 

 

 

 「それで、レトリー報告を聞こう」

 

 「はい。降臨なされた事はどこの国も神殿も隠している様です。その中でも掴めた情報は、『武器は弓』と『男』です」

 

 「因みに、それはどこからの情報だ?」

 

 「はい。『武器は弓』はヴァーテル、『男』はミラージです」

 

 「良く教えたもんだな」

 

 「はい。これも外交を担当している者として、当然です。と言い切りたいのですが、ヴァーテルは力こそ全てと言い切る国ですから、何か起こっても対応出来ると思っている様で案外すんなり話してもらえました。ミラージは商人がそれとなく聞きまわっていたので、その者から。ただヴァーテルはともかく、ミラージは信じるのは待った方が良いと思います」

 

 「それはどうしてだ?」

 

 「はい。まず商人であると言う事、それとミラージの神殿で確認が出来ていないので。それを問いただそうにも、一商人ですからね」

 

 「うむ、それは確かにな」

 

 さっきの立ち話以上の事は出てこないか。完全に信じる事は出来ないが、完全に嘘とまでは言い切れないな。何しろ、私達には確認する手段がないんだからな。

 

 「それで、何か気付いた事はあるか? バフは間近で見ていて、何か感じる事はあったか?」

 

 「あの場では全力を出していないので、判断出来ませんな。ですが、あの若さであの力の使い方は賞賛すべき事ですな」

 

 「なるほどな。まあ、森人族が外に出るんだから、契約はしているだろうしな。それでなくとも、アイツ等の子なんだ。鍛えているだろう」

 

 「それともう一つ報告する事が」

 

 「うむ、何だ?」

 

 「クリスタとペルルの軍からの報告なのですが、動物・魔物の群れが発生し、対処した者の中にあの者達も入っておりました」

 

 「魔物の群れだと!?」

 

 「ご安心を。国中を調べさせましたが、この二箇所以外では発生していません」

 

 「そ、そうか。それは安心だな」

 

 魔物の群れが発生したなんて、聞いたから思わず立ち上がりそうになってしまった。もし、危ないんだったらバフが対処なり慌てているだろう。まあ、慌てている姿なんて想像出来ないけどな。

 

 「それとクリスタの軍からの報告ですが、『力ある精霊と契約している可能性がある』との事です」

 

 「力ある精霊? それはどの程度なんだ?」

 

 「本人に聞きだせる筈もないので、想像だそうです。ただ、対処した場には大樹が出来上がったそうです」

 

 「た、大樹!?」

 

 今度こそ、立ち上がって口を間抜けにも開けたまま塞がらない状態だ。大樹って、あの大樹だよな。アイツ等と行動してた時に、大樹なんて作り出したか? いや、ないな。そもそも大樹ってどの位なんだ? 大樹にはどの程度の精霊が契約したら出来るんだ?

 

 「へ、陛下?」

 

 「あ、ああ。すまん。それで、他に何か報告する事はあるか?」

 

 「陛下はあの者がそうだとお思いなのですか?」

 

 「うむ、私はそう思っている。都合良すぎるとは思うが、ここまでくるとそうとも言い切れん」

 

 「だから、デルを仲間にしようと頼んだのか?」

 

 「んー、それは少し違うな。あの者に会ったら、昔を思い出したし降臨なされた時の言葉も過ぎった。後は、デルが冒険者に憧れているのは知っていたからな。その後押しもしてやりたくてな」

 

 「なんじゃ、シムは心配性じゃのう」

 

 「そりゃ心配するだろうが。王族とは関係なく好きに生きて欲しい。だが、一人で冒険者でとなると、それはそれで心配だ。だから、少しでも信用出来る者に預けたかったんだ」

 

 「それもあるだろうがな。今の報告を聞いて、一緒に行動させるのは良いと思うぞ。何かあったら、デルを通せば良いんだからな」

 

 「ロイドもそう思うか? まあ、あの者がそうと決まった訳ではないが、近くにいるといないでは対処が変わるからな」

 

 違ったら、違ったで良いんだ。アイツ等の子だと言う事で、他の者よりは信用出来るだろう。それに、戦いも見せてもらったから一緒に行動しても足手まといにはならんだろう。寧ろ、デルの方が足手まといか。

 

 「その大樹がどんな物なのか分からないので、直接見に行こうと思います」

 

 「おいおい、そんな気軽に言うなよバフ」

 

 「我は式典に合わせて国中を回る予定ですので、その時にでもと思いまして」

 

 「ああ。そう言えばそんな事になっていたな」

 

 「陛下。ご自分の事ですので、忘れないで下さい」

 

 さっき注意されたばかりなのに、また注意されてしまった。祝おうとは思うが、どうにも勝手に進んでいくから他人事の様だな。注意しないとな。

 

 「すまんすまん。それでは、その大樹を見れるのだな。では、ついでにレントの森にも寄るか」

 

 「ついでって。陛下、あくまでも式典が優先でお願いします。レントの森、訪問は予定が合えばと言う事で」

 

 「うむ、その辺は任せる」

 

 「それで、他はあるか?」

 

 「「……」」

 

 「うむ。では会議はここまでとする。何度も言うが、誰かなのかを特定する事は重要だ。だが、だからと言って普段の仕事を手を抜く事のない様にな」

 

 「分かっております」

 

 そう。確かに重要だ。重要だが、そちらばかりに気が入ってしまって、他を怠るのは違う。まあ、改めて言うまでもない事だな。さあ、今は式典に向けて仕事をしないとな。今度忘れると、何を言われるか分かったもんじゃない。

 あ、そうだ。良い事思い付いた。

 

 

 「こうやって、外に出て町を回るのも良いな。昔を思い出すぞ」

 

 「そうですね。もし次があれば(わたくし)も一緒ですわよ」

 

 「悪かったって。今度があればもちろん一緒だ」

 

 「お願いですわよ。それに、今度があれば何て言いますけど、絶対に外に出るでしょうに」

 

 「あははは」

 

 どうして分かったんだ。退屈ではないが、冒険者時代と比べるとどうしても、な。

 

 「あのコライステーキ美味しかったなあ。帰っても食べれるかな?」

 

 「それは大丈夫よ。うちの調理人に作り方を教えていたわよ」

 

 「そっかあ。それは楽しみだな」

 

 式典で国中を回る事を決めて、今は三つ目のクリスタまで来た。コライ、ペルル、ここクリスタだ。もちろん大樹も見た。あの大きさは、確かに普通じゃない。しかも、平然とやってのけたらしい。

 

 

 「陛下、王都からお手紙が届きました」

 

 「ほう」

 

 クリスタの代官屋敷で休んでいたところに、シバが手紙を持ってきた。私が国中を回っているから、私の判断が必要な時は報告書がくるのだ。だが、手紙か。

 

 「なになに……」

 

 

 「シバ、バフ達を集めてくれ」

 

 「畏まりました」

 

 ふう、何て事だ。これは確実じゃないか?

 

 

 「シム、何かあったのか?」

 

 「あったから、呼んだんだ。クセンからの手紙でな。テラ様が契約したそうだ。しかもアローニ君と」

 

 「「!?」」

 

 そりゃ驚くよな。驚くなって言うのが無理な話か。あの大樹を見て、多分そうかなって思ってたところにこれだからな。

 

 「絶対とまでは言えないが、その可能性は出てきたと思うが。どうだ?」

 

 「テラ様が、か。理由は分からない、よな」

 

 「それは、な。ただ、契約しないで話だけをして、デル達の契約が終わったらもう一度呼んで契約したそうだ」

 

 「も、もう一度だと!?」

 

 「ああ」

 

 「何をそんなに落ち着いているんだ!? あの場に二度も呼ばれるなんて聞いた事がないぞ。どうなっているんだ」

 

 「どうなっているかは分からん。ただ、これだけは事実だ。アローニ君がテラ様と契約した」

 

 「これは確実ですね」

 

 「マフもそう思うか?」

 

 「ええ。テラ様が契約した事もそうですが、ここに到るまでに見たあらゆる事がそうだと言っている様です」

 

 「もっと具体的に頼む」

 

 「すいません。『世界に変革を齎す者』これは彼自身が起こす事だけだと思っていました。ですが、そうではない場合もあるのかなと」

 

 「そうでない?」

 

 「はい。コライでの料理大会は彼の考えを元にしているので、変革を齎す者に当てはまっています。ですが、魔物の群れはどうでしょうか。群れが発生する事は暫くの間、なかったと思います」

 

 「それはそうだが。それが関係するのか?」

 

 「はい。群れ自体は彼が起こさせる事は無理でしょう。しかし、その対処に当たっていた軍からは、意識の改革や訓練の見直し等の意見が出ていると聞いています」

 

 「バフ、そうなのか?」

 

 「はい、その様な報告は受けています。精霊と契約するとか、何人か交代で王都での訓練をしてみたいとか、です」

 

 「なるほど」

 

 変革を齎す者、か。アローニ君が意識してやるのではなく、周りが変わるのか。それは確かに変革だな。しかも、本人は気付かない所で。これは、難しい事になったな。

 

 「もう決まった様なものだが、レントに寄ってから判断しよう」

 

 「「はっ」」

 

 「それにしても、シムよ。デルを一緒にさせて良かったの」

 

 「まあ、な。私の目に狂いはなかったと言う事だ」

 

 ふふ。これは難しいが面白い事になったな。アローニ君がそうか。何かあってもデルが近くにいるんだ。こちらに有利になる様にしなくてはな。さあ、楽しみが増えたな。


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