次の国への準備
俺達が契約してから、約二十日経った。その間は、精霊術に慣れる為に依頼を幾つも請けていた。依頼を請けて精霊術に慣れるじゃなくって、慣れる為に依頼を数多く請けたって感じだ。そのお陰で、慣れてきたようだ。俺とナックは二人? 目って事で慣れるのは早かった。ただ、ルークとデルの二人は初めてだから、精霊術を自分で制御するのに苦労している。今までと同じ様に動くと、予想よりも大きく外れるから怪我も多かった。だから、今は契約精霊に制御を頼んでいる状態だ。今は仕方ないけども、早く自分で出来る様になってもらわないとな。
あ、依頼を数多く請けているけども、位階は上がってない。その理由はもちろん、デルだ。あいつがいるから、誰も試験官なんて引き受けてくれない。だから、Ⅱに上がる資格はある状態までだ。それと同じで個人での位階も同じだ。デル以外は上げられない事もないんだけど、デルが上げられない状態だから見送っている。それと、グループに入る時は個人の位階の差が二までだけども、入った後はどんなに離れても良いらしい。
「さて、今日もやるか」
「良いけどさ、それよりも次の国に行かないか?」
「あー、それもそうか。でも、残ってるのは証が出来るまでだからな」
「それならば、おじい様の所に行って確認しようじゃないか」
「それもそうだな。頼みに行っただけで、その後は行ってないからな」
「そうだな。もしかしたら、出来てるかもしれないしな」
「おじい様なら出来てそうだな」
「出来てるのは良いんですけど、払えるかどうか不安で……」
ルークはそう言うけど、大丈夫だと思うけどな。俺達の武器だって、払えないって事はなかった。……まあ、同じ位階の人だったら難しいとは思うけどね。それでも、プロさんだから大丈夫だろう。頼んだ時にエメラルダの価格を知った上で、相談してるからな。
「大丈夫だろ。おじい様には払えないかもと言ってあるんだ。それを知っていて、払えない様な価格にするとは思えない」
「だと良いんですけど」
「おじい様の事を信じられないのか?」
「い、いえ! とんでもないです! でも」
「そんな事を言うなよ。ルークは二度しか会ってないんだぞ。それで信じろってのが可笑しいだろ。それに、頼んだ時に安くするとは言ってたけど、実際に物を見てからじゃないと安心出来ないだろうが」
「む。そ、そうか」
「ナックでもそんな事を言うんだな」
「何だよ、そんな事って」
「いや、ルークの事を気遣えるんだなって思って」
「おい、それどういう意味だよ」
「そのまんまだけど」
「お前、それは酷いんじゃないか? 俺はアロよりは気遣いが出来ると思うぞ」
「そ、そうかあ?」
「だって、そうだろ。契約して最初の鍛錬の事を覚えてるか? あの時アロは一人で突っ走ってただろ。二人についてたのは俺だぞ」
「え、そうだっけ?」
え、そうだっけ? ……憶えてないな。あの時は契約出来た事が嬉しかったから、突っ走ったのか? あれ、どうだったっけ。
「(憶えてない様だけど、ナックが言った事は確かよ)」
「(そうだっけ?)」
「(そうよ。私の時よりも少し厳しかったと思うわよ。あの時はナックがついてきたけど、今回は誰もついてきてなかったでしょ)」
「(た、確かに)」
「(ついてきてなかった、と言うよりもついてこれなかったのよ)」
ううむ。そう言われればそうかも。走り終わったら、後ろには誰もいなかったな。
「どうだ? 思い出したか?」
「思い出したけど……」
「思い出したのに、まだ俺は気遣えないって言うのか?」
「いや、まあ、そうじゃないけど」
「じゃあ、どうなんだよ」
「はい、その通りです」
何でかナックが胸を張っている。勝ち負けじゃないのに、負けた気分になってくる。これって勝負じゃないよな。
「もう良いか。早くおじい様の所に行こう」
「「お、おう」」
デルが何だか良い感じに纏めた? けど、スッキリしないな。まあ、別に張り合ってた訳じゃないから良いけどさ。
「おじい様! いますか?」
「……おう! ここにいるぞ。ちょっと待っておれ」
プロさんの鍛冶屋に入ったら、やはりと言うか誰もいなかった。俺達が来る時に限っていないのか、それとも本当に誰も来ないのか。いや、それはないか。客が来なくて暇なら、作る必要なんてないんだし。いや、暇だからこそ作るのか? そう言えば、鍛冶が好きだとか言ってたな。
「それで、今日はどうしたんじゃ?」
「前に頼んでいました、グループの証はどうなってるのかと思いまして」
「おお、あれな。出来ておるぞ。ちょっと待っておれ」
そう言って、奥から木箱を持ってきた。大きさは俺達が着けている盾よりは少し小さいかな。あの中に頼んでいた証が入っているんだろう。
「これなんじゃが、確かめてくれ」
そう言って開けた木箱には、綺麗な緑色をした翼があった。翼は両側を広げている状態ではなく、片側だけを頼んだ。銀色の下地に緑色のエメラルダが薄く輝いている。エメラルダの翼と注文したけども、ルークの事を考えて出来るだけ少なくしてくれた様だ。それでも、緑色ってのは分かる。
「おお。格好良いな」
「そうですね。もっと緑色が濃いのかと思ってました」
「うむ。流石おじい様ですね」
「で、どうじゃ? これはお前さん達が満足する物か?」
「ええ。これは満足のいく一品ですね」
「ほほ。そうかそうか」
「これを着けるんですね。何だか、同じ物を着けるって仲間みたいですね」
「何言ってるんだ、仲間じゃないか」
「いや、そうなんですけど。何て言ったら良いのかな。こう、上手く言えないんですけど……」
「いや、何となく言いたい事は分かる。私もそう感じた。同じ物を身に着ける事で一体感が増すというのか」
「同じ物を身に着けるから一体感が増す、と。なるほどね」
仲間としての一体感、か。そうだな、同じ物を身に着けるって事はそうなるのか。これを着けるからって訳じゃないけど、下手な事は出来ないな。まあ、今までだって下手な事をした憶えはないんだけど。
「プロさん、想像してた物よりも良い物をありがとうございます」
「何言ってんだ。これ位は当然だ」
照れてるのか、鼻を擦っている。前に剣とか弓の強化をしてもらった時に、お礼はしたんだけど、照れる事はなかったよな。何が違うんだ?
「後、四つだけじゃないみたいですけども」
「ああ。それはな、買い取ったエメラルダが余ってたのと、これから仲間が増えるかもしれねえだろ」
「なるほど、確かに」
そりゃそうか。この先、仲間が増えない保証はないよな。最初の国で二人増えた訳だし。まあ、行った国で必ず増やさないと駄目なんて事はないんだし。
「でも、多く作ってもらったのは良いんですけど、その分も払わないといけない訳で」
「ああ、その事か。これはワシからの贈り物って事でタダで良いぞ」
「「「え!?」」」
「おじい様、流石にそれは……」
「ええんじゃよ。折角デルが冒険者になるんだ。ワシから何か贈らせてくれ」
「しかし……」
俺達にとって、高いよりは安い方が絶対に良い。だけど、タダってなると嬉しいやらモヤモヤするやで。何だか落ち着かない。
「プロさん、材料費だけでも結構しましたよね? しかも、加工費だってするのにタダって訳にはいきませんよ」
「お前さんもか。折角、タダになると言うのに払わせろ何て変な事を言うの」
「いやー、流石にタダってのは……。式典の時は祝いって事でタダ飯に何の抵抗もなかったんですけどね」
「じゃあ、これも祝いって事にせんか?」
「『せんか?』って。何の祝いですか? それに、そんなにタダにしたいんですか?」
「ワシは作る物に自信があるから、安くしてくれと言われても絶対に断る」
「だったら……」
「そのワシがタダで贈ると言ってるのじゃぞ? 素直に受け取ってくれんか? じじいの頼みと思って、な?」
じじいの頼みだ何て言って。そんな上目遣いで見られても、なあ。大体、タダにするなら俺達の方から頼むものだろう。それを作ったプロさんから言うか? しかも、頼むって……。作った物に自信があって、安くは絶対にしないって言ったのに、自分からタダにするって変じゃないか? 何かタダにする事で良い事でもあるのか?
「(それはないんじゃないの? ただ、単純に贈りたいだけだと思うわよ)」
「(それでもさ、鍛冶師として生活してるんだぞ。金は必要だろ?)」
「(アロだって、森を出る時に外套を贈られたでしょ? 家族の様に付き合いがあるデルが冒険者として国を離れるんだから、何かしたいんじゃないの?)」
「(ああ、なるほどね。それは確かに。じゃあ、折角だし貰っておくか)」
「はあ、分かりましたよ。有難く貰いますよ」
「おお、そうかそうか。そりゃ良かった」
タダだって言うのに、どうしてここまで嬉しそうにするのかね。
「でも、タダで貰う訳にはいきません」
「ん? でも、さっき」
「はい。これはタダで貰います。ですが、俺達は色んな国を回りますので、ここに戻った時に旅での話しと珍しい酒を持ってきます。それでこのお礼とさせて下さい」
「おっほほほ。そうかそうか。なるほどの。そりゃ楽しみじゃ。じゃあ、その時まで楽しみに待っておかんとな」
うん、これで良いだろう。折角タダになるんだから、素直に貰っておけよと言いたいのは分かる。分かるんだけど、払わないでこんな見事な品を受け取れない。まあ、タダになる俺達が払うって言うのは変だよな。




