確認
「さて、俺も契約出来たから一緒に確認しようか」
「それは良いが、結局何だったんだ?」
「さあ?」
「さあって、精霊長様とクセンさんは何か言ってなかったのか?」
「ん? んー、特に何も」
言えないだろうが。その精霊長様が俺と契約したなんて。いや、言っても良いのか? キューカの事はナックがサラッと言っちゃったし。いや、止めておこう。あれは俺の意思じゃないからな。今度は誰にも知られてないから、言う必要はないだろう。絶対に隠す必要もないけどな。
「そうか、姉上は何も言わなかったのか」
「そうだけど、何でだ?」
「もう一度なんて言われたのは、アロが初めてだろうから、何か言われたかと思ってな」
「んー。この前も言ったけど、もう一度と言うのには精霊長様に考えがあっての事だからってだけだぞ。終わった後に話したけど、契約出来て良かったね、位だな」
「ふむ、そうか。まあ、姉上も理由は聞きに言ってるだろうしな」
まあ、その精霊長様はあそこにいないんだけどな。理由を聞こうにも無理だ。一度目の後に聞きに行ってたら、分かるかもしれないけどさ。
「(一度目の後に来ましたけど、いつも通りの遣り取りだけですよ。理由は言ってません)」
「(いつも通り?)」
「(契約が終わったらクセンが来て、私がどう感じたのかどの位階の精霊と契約したのかを教えるのです)」
「(へー、そんな事してたんですね。でも、何で俺の事は言ってないんですか?)」
「(神に選ばれた、何て言えるはずないでしょう。そこは誤魔化しました)」
「(ふーん、そうですか)」
「(まあ、薄々気付いていると思いますよ。何しろ、精霊長が変わっているのですから)」
「(あー)」
クセンさんは気付いてるか。そうなると、シムさん達にも伝わるだろう。……伝わったとしても、俺達はこの国を離れているだろうから、何かをされるって事はないだろう。
「(あの者達の事は知っていますけど、何かをする様な者達ではありませんよ。寧ろ、何かをするならば協力だと思いますよ)」
「(あの時も言いましたけど、俺にはそのつもりはないですよ)」
「(そこなんですよね。アロにはその気がなくても、いつの間にか変わってるとか)」
「(いつの間にかって、そんな)」
「(あり得るわよ。料理大会の事を思い出しなさいよ。変えようと思ってた?)」
「(それは……思ってないよ)」
「(でしょ? だから、アロにその気がなくても変わっちゃうって事もあるって事よ)」
「(何だか、納得出来ないなあ)」
「(納得出来なくても、それが事実なんだから認めちゃいなさい。それに、悪い事じゃないんだ)」
「(そうだけどさあ)」
『神に選ばれた』、『変革を齎す者』この言葉を聞いた後だと、何をやってもそれが頭に残るよな。俺にそんなつもりはなくても、か。いや、そればかりを気にしてたら何も出来ないな。俺は俺らしく自由にいくか。うん、それが良い。
「(ところで、不満が一つあるのですけど)」
「(何でしょうか)」
「(それです)」
「(へ?)」
「(どうして、私に対しての言葉遣いがキューカさんと違うんですか?)」
「(どうしてと言われましても……)」
何でだ?
「(それは多分、テラの言葉遣いに釣られてるんじゃないの?)」
「(それはどういう?)」
「(テラの言葉遣いが丁寧だから、アロもそれに釣られていると)」
「(なるほど、それはあるな。キューカと比べちゃうけど、テラ様は何だか固い感じがして)」
「(なるほど。でも、この言葉遣いを直ぐには変える事は出来ないので、キューカさんと同じ様に話してもらえれば助かります。まずは、『様』を付けるのを止めましょうか。まあ、アロに任せますよ)」
「(分かりました)」
どうしてか、キューカと違って言葉遣いが変わっちゃうんだよな。自分では意識してそうなってる訳じゃないんだけどな。
「で、そろそろもう良いか?」
「ん? 俺?」
キューカとテラさ……と話し込んでたみたいで、ナックが止めに入った。そんなに話してたかな。
「そうだ。急に黙ったから、精霊と話してるとは思ったけど、そろそろ戻ってほしくてな」
「ああ、悪い悪い。それで?」
「四人共、契約出来たから確認しないとなって」
「ああ、なるほどな。それで、地の精霊って何が出来るんだ?」
「アロも契約したんだから、精霊に聞けば早いじゃないか」
「いや、そうなんだけどさ。ここはデルに聞いておこうと思ってな。何せ、王族なんだからな」
「そこで王族は関係ないだろう。一般に知られているのは、大地に作用するから土を隆起させたり陥没させたり、硬くしたり柔らかくしたりとかだな」
「なるほどね。それは確かに地の精霊に相応しいな」
「後、あまり知られてはいないが、鉱石の場所を知る事も出来る」
「鉱石の場所、ねえ」
「分かってない様だから言うが、分かるのと分からないのでは大いに違うぞ。グループの証であるエメラルダの場所も分かるんだぞ。契約していない者は、出るまで掘り続ける。だが、契約している者は目的の場所まで一直線だぞ。これの違いは大きい」
「なるほど。それだったら、俺達で見付ける方が早いか?」
「いや、それは無理だ。鉱石の多くは地中深くにあるからな。それに、鉱石は国で管理しているから、無断で山に入り鉱石を掘る事は禁じられている」
「そうなのか。それが出来たら安く出来ると思ったんだけどな」
「仕方あるまい。こればかりは王族だとしても禁じられている。いや、王族だからこそだな」
グループの証も安い物じゃないからな。無駄とまでは言わないけど、安く出来るならそうしたかったんだけども。主にルークにとってな。
「で、精霊術には慣れたか?」
「流石にまだだ」
「いやいや、まだ無理ですって」
「そうか。じゃあ暫くは慣れる為に依頼を請けつつ、稼ぐか」
「だな。それが良いだろう」
「ナックは慣れたのか?」
「俺は二回目だからな、二人ほど苦労はしてないぞ。と言うか、アロはどうなんだ? 契約してからまだ試してないだろうが」
「あー。多分、大丈夫な気がする。俺も二回目だからな」
「それもそうか。じゃあ、組合に行くか」
まだ試してはないけど、何となく出来るって自信がある。本当に、どこからくる自信なのか分からないけど、出来るって。なんとなくだけどね。
「そう言えばさ、依頼の事で煩く言われなくなったよな」
「ああ、それな。俺等は何もしてないよな?」
「デル、何かしたか?」
「ちょ、ちょっと待て。そこでどうして私なんだ? 私は何もしてないぞ」
「デルは何もしてない、と。じゃあ、シムさん達か?」
「それはないと思うぞ。組合は基本的に国とは違う組織って事になってる。だから、幾ら父上でもそれはしないだろう」
「ふーん。まあ、俺達には悪い事じゃないから気にしないで良いか」
「だな」
「ったく、人のせいにしたかと思えばどうでも良いなんて」
「何か言ったか?」
「別に」
「じゃあ、俺も契約した事だから少し厳し目で行くぞ」
「お、おう」
ん? さっきまで余裕の顔だったナックが焦ったぞ。森でやったのと同じ事をやろうとしてるんだけど。焦るほどか? キューカと契約してるのは知られてるけど、だからって焦るほどじゃないだろ。森での鍛錬だって、ナックはついてきてただろうに。
「(ナック達は知らないけど、精霊長二人と契約してるアロが厳し目で行くと言ったら、誰でも焦るでしょ)」
「(そんなものか)」
「ほら、何してるんだ! 遅いぞ! もっと早く走れよ!」
「ちょ、ちょっと待てって! そんなに急ぐ事ないだろ!」
「何言ってるんだ、これ位! 慣れる為にやってるんだから、厳しくするのは当たり前だろう!」
「分かった、分かったよ! でも、二人の事も考えてやれよ!」
「ああ、そのうちな」
ったく。折角契約出来たんだから、これ位は出来てもらわないとな。今までは契約してないからって事で二人に合わせてたけど。これからはそうはいかない。慣れてもらわなければ、俺もそうだけど二人が危ない。いつでも使える様になってないと、咄嗟の時に動けないぞ。
「ぜぇぜぇ。ナ、ナックさん。アローニさんって、こ、こんなに厳しいんですか?」
「ああ。森で鍛錬してた時より少し厳しい位かな」
「こ、これでか!?」
「俺等は小さい頃から森で狩りをしてたからな。だから、これ位は当たり前だ」
「厳しいな」
「でも、アロと同じ事が出来る様になれとは言わないけど、早く慣れないとこの先死ぬ事になるぞ」
「そ、それは、ど、どういう事だ?」
「俺もそうだけどアロは仲間だからって、甘やかしたりしないぞ。常に仲間の心配が出来るとは限らない。それに、冒険者になったんだろ? だったら、自分の事は自分で守れる様になれよ。じゃないと……」
「ど、どうなるんだ?」
「グループから抜けてもらう事になる」
「「そ、それは困る」」
「だったら、早く慣れる事だ。契約したんだから、アロはもっと厳しくするだろうよ」
「「!!」」
はああ。ったく。何で俺が二人の事を心配しなきゃいけないんだよ。俺だってアロみたいに好き勝手やりたいぜ。アロもアロだよ。契約したばかりなんだから、少しずつ慣らしていけば良いのによお。ついてこれないと分かっててやってるだろ、あれ。……もしかして、あれでも少しなのか? ……あり得るな。精霊長様と契約したんだ、今度だって……。いや、流石にそれはないか。
「二人共、走っただけで疲れてどうするんだよ。まだ依頼が残ってるんだぞ」
「「!?」」
は? 何驚いてるんだよ。俺達は依頼のついでに精霊術の確認をしてたんだろうが。ん? 逆か? どっちでも良いか。




