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金持ちって

 「ここまで来るのに長かったと感じるのは俺だけか?」

 

 「いや、俺もそう思う。主にアロのせいだけどな」

 

 「何でだよ!?」

 

 「料理大会、デル」

 

 「そ、それは……。でも、デルの事は俺のせいじゃないぞ。俺じゃあどうしようもなかったぞ」

 

 「確かにな。アロとデルの親父さんが仲間だったから、こうなったんだけど。まあ、別に急いでる訳じゃないから良いけどさ」

 

 「あの、お二人はそう思っていますけど、これでも早い方だと思いますよ」

 

 「そうか?」

 

 「はい。金貨一枚を稼ぐのって、結構大変ですよ。俺一人だったら、まだ集めきってないですね」

 

 「ふむ、なるほどな。その点は恵まれてたな」

 

 「おい。さらっと私が悪いみたいに言うなよな」

 

 「いや、悪いとまでは言ってないぞ。ただ、デルと会わなければ今頃は契約も終わって、この国を出ていたな、何て言ってないぞ」

 

 「それは、悪いと言ってるのと同じじゃないか。大体、父上とアロの両親が仲間だったからこうなったんだぞ」

 

 「こうなったとは言うが、冒険者になるつもりはなかったのか?」

 

 「そ、それは……」

 

 俺達はコライでシムさん達と別れて、王都に戻ってる最中だ。やっぱりと言うか、冒険者の多くはシムさんに付いていくらしい。とは言っても、護衛で雇われたとかじゃなくって、勝手に付いて行ってるみたいだ。まあ、タダ飯タダ酒が確実だから、行くのは分かる。それに、行った先では絶対に食糧が不足するだろうから、狩りをする。しかも、それは王家からの依頼だから報酬ももちろん出る。これで行かない訳にはいかないだろう。俺達みたいに、色んな国を旅したいってのは少ないだろうしね。

 

 で、その歩いている間に他愛のない事を話しているってだけだ。内容に意味は特にない。ただ、歩いているだけってのも暇だから話してるだけだ。あ、そうそう。料理大会を各町でやって、最後は王都で国一番を決める案は、シムさん初めラウンさんにも話した。いつ、とは言えないけど面白そうだから考えてみるとは言ってた。今回はコライだけだったけど、これが国全体となると何を準備したら良いのかさっぱりだ。後、既にラウンさんの所には他の町の代官が何人か来ていて、料理大会の事を聞いていったそうだ。どうやら、自分の町でもやりたいらしい。今回はシムさんが全部タダ! と宣言したから、予想を超える人だったけど、それがなくても多くの人が来る事は想像出来る。だから、町の活性化と言う意味でもやりたいらしい。何より、楽しいのが良いらしい。

 

 「ナック、その辺で良いだろ。デルが仲間だろうがそうじゃなかろうが、契約まで来たんだ」

 

 「まあ、な。からかっっただけだ」

 

 「おい、暇だからって私をからかうなよ」

 

 「で、どうなんだ?」

 

 「どうって、何がだ?」

 

 「だから、冒険者になっていたかどうかって話だよ」

 

 「それは……なってないと思う。憧れではあったけど、自分がなろう、なれるとは思ってなかったし思わなかったな。アロ達と会わなかったら、あのままだったろうな」

 

 「ふーん。憧れてはいてもなれないんだ」

 

 「うむ。こう言っては何だが、アロ達と違って王族としての身分がある以上、危険な事は避けるものだ。だから、アロ達と会えた事は良いキッカケだったな。憧れは憧れのまま終わってただろうな」

 

 「ふーん、そんなもんか。でもさ、国王だったのに、鍛冶屋をやってるプロさんはどうなんだ? 王族が終わるって事はないのか?」

 

 「あー、おじい様は特別だと思う。おじい様が王の時の側近はまだ王宮で働いている。それに、王族には終わりはない。王族として生まれたからには、死んでも王族だ。それこそ、奴隷になったとしても、だ。ま、その場合は元王族とはなるがな」

 

 「ふーん、何だか面倒な話だな。じゃあさ、プロさんは初代、シムさんは三代目。二代目はどうなんだ?」

 

 「んー、二代目とは会った事がないんだ。名前はヤーツ・ロンブリー様と言って、領土拡大や内政に力を入れていて、今の礎を築いた人だ」

 

 「ふむ、それで?」

 

 「……これは一応秘密にしてあるんだが、王位を父上に譲られた後は旅に出てしまってな。生きているのか死んでいるのか、分からないんだ」

 

 「「「え!?」」」

 

 「そんな事言っても良かったのか?」

 

 「うむ、良いだろう。それに、秘密とは言ったが、広く国民に公表していないってだけだ。だから、秘密とも秘密じゃないとも言える」

 

 「そんな事を軽く言うなよな。周りに誰もいなかったから良い様なものを」

 

 「だからだよ。周りに誰もいないからこそ、話したのだ。それに、仲間にだったら、これ位は話しても大丈夫だろ」

 

 「そんなもんか?」

 

 「そんなもんだ」

 

 しっかし、初代も二代目も王様じゃなくなったら結構好き勝手してるんだな。あ、シムさんもか。あの人は王様になる前だけど。そう考えると、

 

 「デルが冒険者になるのって、特別変な事じゃないんじゃないのか?」

 

 「そ、そんな訳……ないか?」

 

 「だって、そうだろ。初代からシムさんまで結構自由にやってないか?」

 

 「いやいや、流石にそれは言いすぎだ。王族は私を含め四人だけじゃないんだぞ。他の王族の大体は国を出ないでいる。中には他国に嫁いだ人もいるが」

 

 「へー、他国に嫁ぐねえ。そんな事もするんだ」

 

 「我が国は王族だとしても、他国との婚姻関係を強要はしない。嫁ぐ事で国にとって有益になるとしても、優先するべきは個人の幸せと考えているんだ」

 

 「ふーん」

 

 「『ふーん』って、アロから聞いてきたんだろう。興味ないのか?」

 

 「だって、なあ」

 

 「おう。俺等の森ではそんな事はないし、比べるだけの王族の事を知ってる訳でもないし」

 

 「そういう事だ」

 

 「はあ、なるほどな。改めて分かった。お前達には王族とか貴族とか国とかの知識も興味もない事が。やはり、これからは関わるとしたら私が助言しよう」

 

 「そうしてくれると、有難い。その時は頼りにしてるぞ」

 

 

 「ところでさ、グループ名どうする?」

 

 「どうするって、緑の布を腕に巻く事で決まったんじゃなかったか?」

 

 「そうなんだけどさ。あれから少し考えてな、グループで共通の物を身に付けるのは良いと思うんだ。だけど、Ⅰに戻った事だし新しい名前にしたいと思ってな。それに、この国にいる間に変えておくと、シムさんやルークの両親にも無事だって事が分かりやすいだろ?」

 

 「うーん」

 

 「それに、組合の人も言ってただろ? 変えるなら位階が低い方が良いって」

 

 「ああ、言ってたな」

 

 「だから、どうかな?」

 

 「アロがそんな気遣いをするとは。何か悪い物でも食べたのか?」

 

 「をい! それは酷くないか?」

 

 「すいません。俺も思っちゃいました」

 

 「お前達ねえ」

 

 ったく、人が折角良い事を思い付いたと思ったのに。俺ってそんな気遣いが出来ないヤツって認識なのか? それともからかわれてる?

 

 「そんな事を言うって事は、何か良い名前があるのか?」

 

 「これ! ってのが思いつかなくて。それで相談したんだよ」

 

 「なるほどねえ」

 

 「「「うーん」」」

 

 三人共歩きながら、腕組みをして唸っている。ナックは目を閉じて、ルークは空を見ながら、デルは顎に手をやって前を見ている。考え事をしてるだけなのに、こうも違いが出るんだな。

 

 

 「翼」

 

 「「「え?」」」

 

 「翼なんてどうでしょうか? これから色んな国を旅します。冒険者として名を上げて、その名前がここまで届くように。どうでしょうか?」

 

 「翼、か」

 

 「翼。うむ、良いじゃないか」

 

 「俺も良いと思うぞ。でも、ただ翼ってのもなあ。もう少し何か欲しいな」

 

 「もう少しか。うーん」

 

 「それではエメラルダはどうだ?」

 

 「エメラルダ? 何だそれ」

 

 「うむ。我が国で取れる鉱石の一種なんだが、緑色をしているんだ。だから、前のヴェールと意味は同じかなと思ってな」

 

 「エメラルダの翼、か」

 

 「おお、何だか良さそうだな。それで、そのエメラルダってのは手に入りやすいのか?」

 

 「いや、それがな。余りにも綺麗な緑色をしているんで、着飾る人達に人気でな。母上も好んで着けている」

 

 「だから、どうなんだ?」

 

 「そう焦るな。着飾るくらいに綺麗なエメラルダは中々手に入らないが、中には宝石には向かない物もある。それならば、手に入りやすいだろう」

 

 「そうか、それなら良いか。エメラルダの翼か。うん、悪くないな」

 

 「じゃあ、それを翼の形に加工してもらわないとな。誰かいるか?」

 

 「おじい様に頼んでみよう」

 

 「プロさん? あの人って鍛冶屋だろ? 出来るのか?」

 

 「それは大丈夫だ。鍛冶屋と言っても、武器防具だけを扱っている訳ではない。それに、こんな事を頼めるのはおじい様だけだろ」

 

 「ああ、それはあるな。どこに行ってもデルがいたんじゃあ、頼むのが申し訳なくなるよな」

 

 「ありそうだな。デルとこうして一緒にいるのだって、良くない視線を感じるしな」

 

 「だから、それは仕方ないですって。王族と一緒にいるってだけで注目されますから。しかも、その中には農家の子が混じっているとなると。そりゃ、もう」

 

 その時の事を思い出したのか、身震いをして両腕で身体を抱きしめている。

 

 「それで、物にもよるとは思うけど、どれくらいで買えるんだ?」

 

 「私も価格については詳しくなくてな。恐らく拳と同じ大きさだと金貨で四枚はするんじゃないか?」

 

 「金貨!? しかも、四枚!?」

 

 「う、うむ」

 

 その価格に驚き、ルークがこれまで聞いた事がない様な声で叫び、それに驚いたデルが仰け反ってる。うん、その気持ちは分かる。グループの証として身に付ける物が金貨四枚だもんな。しかも、それはプロさんへの加工賃は含まれていない。俺達の装備品よりも高いぞ。まあ、精霊樹はプロさんも見た事がないって言ってたから、もっと高いとは思うけどさ。

 でも、精霊と契約するのに必要な金貨よりも多いってどうなんだ?


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