料理大会でもやっぱり
「さあ、今日も狩るか!」
どうして狩りをしているのかだって? そりゃ、食糧が足りなくなるからだよ。ラウンさんはもちろん、リアンさん達料理人も準備はしてたさ。それでも予想外の事があると、その準備はあっという間になくなってしまう。まあ、その予想外の事ってシムさん達の事なんだけどね。言うまでもないけど、自分の金じゃないと分かると普段食べられない様な物から食べ始める。しかも大量に。
そうなると、料理大会も盛り上がらない訳がない。だけど、ここで問題が発生した。料理大会に出ているリアンさん初め、料理人達が作るだけで食べられないのだ。王都でも同じだったんだけど、食べたくなったら食堂を閉めれば良かった。儲けたい人達は食堂を開けてはいた。だけど、この料理大会は作る側から食べる側になりたいからって理由で閉められるものじゃない。まあ、忙しすぎて閉めるなんて言ったら、騒ぎになるのは間違いないだろうけど。ラウンさんに聞いたら、この料理大会は五日間を予定しているそうだ。初日が終わった後にリアンさんの所に行ったら、疲れてた。いや、疲れ果ててたって感じだった。何度もしかも一度に注文する数が多すぎて、食事を満足に摂る暇がなかったそうだ。
作ってるリアンさんもだけど、ストラさん達も同じだった。食堂に来る人数を大幅に超えて対応が追いつかなかった様だ。それでも、この料理大会の間は何とか乗り切ると言って無理にでも食事を摂って明日に備えるそうだ。
「と言っても、俺達はⅠだからな。薬草とか香草を多めに採取して、肉はついでだな」
「何だ、良いのか?」
「今回は良いんじゃないか? 個人で狩っても良いけど、今回はデルが一緒だからな」
「あー、なるほどな」
「何だ? 私がいると駄目なのか?」
「今回は前の試しの時と違って、俺達の位階はⅠだろ? だから、位階に合わない獲物を狩る事は難しいんじゃないかってな」
「じゃあ、いつも通りにうっかりでいこうぜ」
「それも止めておこう。組合は俺達がⅢだった事は知ってるだろう。だけど、うっかりなんてやったら、ラウンさんに今度こそ怒られるぞ」
「あー、それは嫌だな。あの時は、何とか俺等が悪くないって事で終わったけど、今回はそうもいかないだろうな。デルは試しじゃなくて、正式に仲間になったんだからな。個人で狩るとしたら、せめてデルの位階がⅡに上がってからだな」
「おお、何だかお二人が普通に見えてきましたよ」
「うむ。短い間だが普通じゃないとは思ったが、ここにきてそれを覆すとは」
それは酷くないか? 俺達を見る目が驚きで一杯だよ。そりゃ普通、とは言えないかもしれないけどさ。そこまで外れてるとは思わないんだけどなあ。
「おい。アロは良いとして、俺を含めるなよ」
「おい。いい加減に普通じゃないって認めろよ」
「嫌だ。普通じゃないって思われたらどうするんだよ」
「どうするって、どうもしないだろ。俺を見てみろよ。普通じゃないって少しだけど認めてるし、思われてもいるだろう。だけど、何もないだろ」
「そう、か? そうだったか?」
「だろう?」
ふふん。普通じゃないって思われても、何も変わらないよ。俺達が変わらなければ良いだけの事だ。周りは……気にするだけ無駄だな。
「あの~、お二人は気付いてないでしょうけど。普通じゃないってもう思われてますね」
「「え」」
「え、と言われても。デル様と一緒何ですから、位階は関係なく普通じゃないって思われますって」
「「あー」」
驚きから一転、納得した目でデルを見る俺達。俺達が、ってよりも王族のデルと一緒だからって事か。それは納得するしかないだろうな。今までの王族がどうなのか知らないけど、冒険者になるのってどうなんだ? まあ、シムさんは冒険者になってたけどさ。後、プロさんは鍛冶屋をやっていると。……ん? この二人だけだけど、デルが冒険者になって旅をするのは変じゃない気がしてきたな。
「おい、何だその目は。王族とは言っても、自分からなりたいと言ってなった訳ではないんだぞ。それに、王族が通用するのは我が国だけだろう」
「だから、安心しろと?」
「うむ。それに、王族がいるグループだから普通じゃない。よりも、凄いグループがいるらしいぞ。その中には王族も混じっているらしい。普通じゃないと思われるなら、こっちの方が良いだろ?」
「「「おー」」」
「デルが良い事言ったな」
「だろう」
背は低いのに、腰に手を当てて胸を張ってるから妙に大きく見えるし偉そうに見える。いや、実際に偉いのか? んー、デルが何をしてるのか知らないから判断出来ないけど、偉いのはシムさんでデルじゃないだろ。多分。
「じゃあ、早くそう見られる様に、低い依頼から地道にやるか」
「そうだな。何と言っても俺達はⅠだからな。早くⅢに戻りたいな」
「とは言っても、我が国にいる間は無理じゃないか?」
「そうか?」
「他の冒険者がどうするのか分からんが、父上達が他の町を回ると知られれば着いて行くだろう。何しろ、タダなんだからな。しかも今回の様に食糧が足りなくなったら、組合に依頼を出す。しかも報酬付きだ。こんな状況では、試験管は見付からないだろう」
「「「あー」」」」
そりゃ、そうか。そうだよな。タダ飯タダ酒。食糧がなくなったら報酬付きで依頼が出る。出すのは宿代くらいか? 位階は上がらないかもしれないけど、貯えは出来る。位階に拘らず、この国だけでやっていくなら、ありかもしれないな。
「じゃあやれる事をやるか。薬草を採取するけど、リアンさんにもポムを持っていかないとな」
「だな。獲物を見つけてもランだけだな」
話はそれまでにして、狩り……じゃなくて採取をやった。今更薬草採取なんか嫌だと言っていたナックも、今回は文句を言わずにやっている。まあ、そりゃそうか。あの時はⅢなのに、Ⅰの依頼をしろと言われたんだ。今回はⅠだから文句を言いようがないからな。
「それはそれで、『様』を付けるなよ」
「っ、はい」
「あの! お兄ちゃん達は王族だったんですか?」
「「え?」」
採取が終わり町に入ろうと思ったら、テトラちゃんに声を掛けられた。そう言えば、前に来た時は会わなかったな。だからか? デルと一緒にいるから王族だって? そんな訳ないだろ。最初に会った時に森人族って言ったよな。え? 言ってなかったか? どっちだろ。いやいや、それは言いとして。
「だって、王様と一緒にいたから」
「あー、なるほどね。でも、違うよ。初めて会った俺達二人は森人族だよ。だから、王族じゃないよ。ただ、一緒にいたのは冒険者として雇われたからね」
「あー、なーんだ。驚いちゃったよ」
緊張した顔で近付いてきたかと思えば、違うと言えば一気に安心した顔になった。まあ、そうなるか。王族だなんて言ってないのに、王族のしかも一番偉いシムさんと一緒だったんだもんな。俺達も王族だって思うのは当然かな。でも、そんな安心してるテトラちゃんに言わなきゃいけない事がある。
「でもね、ここにいるデルは王族だよ」
「!!」
安心した顔から一転、また緊張した顔になって、ぎこちなくデルの方を恐る恐る向く。身体まで緊張で強張って、一本の棒の様に伸びてしまってる。こりゃ悪い事を言っちゃったかな。
「(そりゃそうでしょ。ったく、小さい女の子をからかうなんて、趣味悪いわよ)」
「(別にからかった訳じゃないよ。ただ、事実を教えただけだよ)」
「(そんな事言ってぇ。言うとしても、今じゃないでしょ、今じゃ。見てみなさいよ、驚きすぎて目が点になってるじゃないの)」
「(そりゃ今じゃないとは思ったけど、言っちゃったんだよなあ)」
「(はああ、あのねえ)」
キューカから盛大な溜息が聞こえる。契約精霊からの溜息ってのも変な感じだけど、実際そう感じ取った。
「こら、民をからかうもんじゃないだろ。ごめんな、私は王族の一人でデルと言う。今は冒険者でアロ達の仲間だ。だから、そんなに緊張しなくて良いんだぞ」
二人は歳はデルが倍以上なのに、並べば背は同じ位。これは種族の違いだろう。同じ位なのに、テトラちゃんの頭に手を乗せて、諭す様に話し掛けている。笑顔まで見せちゃって、俺達に笑った顔なんて見せた事あったか? ……、まあ、デルの笑顔なんて見ても嬉しくないけどな。
「はい、分かりました」
「うむ。ところで、それは何なのだ?」
「あ、これはバナナって言います。最近売り出し始めた甘い食べ物です」
「ほう、甘いのか。うむ、じゃあ今持っている物を全て買おう」
「え? ……あ、ありがとうございます」
「おい、そんなに食えるのか?」
「私だけで食べる訳じゃない。母上達は甘い物が好きだからな。それに、初めて見る物だ。試さない理由にはなるまい」
「なるほどね」
俺も暇つぶしとは言え買って食ったからな。あ、思い出したら食いたくなった。最近は肉ばかりだからな。
「テトラちゃん、まだ残ってるなら俺も買うよ」
「はい。ちょっと待ってて下さいね。畑を見てきますので」
テトラちゃんは猛然と畑の方へと走っていった。持っていたバナナはデルじゃなく、ルークに渡してだけど。もしかして、ルークはデルの仲間って思われてない?




