料理大会 当日
「初の試みであるこの料理大会。最初の食材は肉だ! どれが一番美味いのか決めようじゃないか! 幾ら飲み食いしても構わん! 全部王家が払うから気にするな! それでは、料理大会の開催をここに宣言する!」
「「「おおーーー」」」
まあ、結論から言うと最初の宣言はラウンさんからシムさんに代わった。俺から言ったんだけど、シムさん、王様からの頼みって言われたらそりゃ断れないだろう。渋い顔をしながらも納得するかと思いきや、どうやらシムさんにどうやって頼もうか悩んでいたそうだ。何しろここにラウンさんよりも上の人、しかも国で一番上の人がいるんだから、寧ろ頼み込むのはこっちだと言ってた。
シムさんから言ってくれて助かったと言われたよ。まあ、俺から提案したんだけどね。そこからは早かった。ベンダーさんを先にコライに行かせて、事情を話して料理大会の流れを変更させたんだ。で、着いたら悩む事なく進んだ。
進んだんだけど、そこに至るまでが面白かった。役人から兵士、コライに住んでいる人達までシムさんが来たって事に驚いて全員跪いていた。コライに入る時に兵士の慌てっぷりは、見てて面白かったけどね。その慌てぶりにはベンダーさんも含まれるんだけどね。
「かーっ。やはり肉に酒は合うな!」
「そうですね、父上」
「兄上、こちらも美味いですよ。どうですか?」
「母様、この柔らかいの好き~」
「そうね。王宮でも作れるか聞いてみようかしらね」
一見、家族の楽しい会話の様に聞こえるけど、ここにいるのは、この国の王様一家だ。内容は置いといて、着てる服とか雰囲気が違う。はっきり言うと、周りに馴染めていない。だって、見渡せば人ばかりなのに、ここだけ避けて座るからぽっかりと丸い円が空いちゃってる。
そりゃ、王様だから護衛の事もあるからこの方が良いだろう。でも、それにしても、なあ。まあ、近くにバフさんがいるからかもしれないけどね。バフさんを見たら、襲おうとなんて思わないだろうし。
「シムさんって偉かったんだな」
「ぶほっ! ちょ、ちょっとアローニさん!?」
何となしに出てきた言葉に、食べてた肉を噴出しながらルークが反応してきた。俺達が見当違いな事を言うと、ルークが反応する。この短い間に出来上がっちゃったな。俺達とは言ったけど、主に俺かな。まあ、驚きすぎてナックに害が及ぶのはどうかと思うけどな。
「きったねえな。こっちに飛ばすなよ」
「すいません。でも、アローニさんが」
「ったく、アロが普通じゃないのは今に始まった事じゃないだろ。そんなに驚くなよ、慣れろ」
「ナック、酷くないか?」
「でも、事実だろ?」
「事実だとしてもだ。それに、俺だけじゃなくってナックもだろうが」
「どうして俺もなんだよ」
「俺と一緒に行動してて、尚且つ俺と殆ど同じ考えだろ? だったら、ナックだって普通じゃないって事になるじゃないか」
「うぐっ」
ふふん、俺の事を普通じゃないって言ったんだ。お返しをしないとな。俺が普通じゃないだって? どこがだよ。そこらにいる人と何が違うって言うんだよ。……まあ、記憶を引き継いでるってだけでも普通じゃないけどな。それでも、その事は誰にも知られてない筈だから。
「ちょっと、話を逸らさないで下さいよ。王様はこの国で一番偉いんです。偉かったではなく、偉いんです!」
ナックを言い負かせて満足してたら、忘れかけていたルークが割り込んできた。
「でもさ、俺等は偉いって言われてたけど、何がどう偉いのか分からなかったんだよ。だって、あの喰いっぷりだぞ」
「それは……そうですけど。で、でもですよ。ここに着いた時に全員が跪いてたじゃないですか」
「それなんだよ。あれを見て、『ああ、シムさんは偉かったんだな』って思ったんだよ」
「だよな。あれは凄いの一言に尽きるな。誰かに言われるでもなく、自然と跪いてるのを見て、凄いんだなって」
「それは何しろ王様ですよ? 死ぬまでに見る事がない人が多いと思いますよ。しかも、こんな間近に。そりゃ自然と跪きたくなりますよ」
うんうん、と一人納得してる顔だ。だけど、そんな王様と近くにいるのに、お前は平気なのか? 周りの人達は、こっちをチラチラと見てるだけで近寄ろうともしないぞ。その視線に気付かない筈がないだろうに。それとも、気にしない様にしてるとか? それに、前に会った時より緊張してないぞ。と言うよりも緊張からかけ離れてるぞ。
「で? そんな偉い王様とこんなに近くにいるのにお前は緊張してないな」
折角、俺が言わないでそっとしようと思ったのに。
「緊張してますよ! ……ただ、意識しない様にしてますし、デル様とも一緒に活動してますから多少は慣れてきますよ」
ほら、思い出しちゃったじゃないか。緊張とは程遠い感じだったのに、顔がピクピクと痙攣しだしたじゃないか。何だか、無理して近くにいるって感じだな。側仕えとして雇われたから、離れる事も出来ない。でも、意識すると緊張で気絶するかもしいれない。だから、意識しない様にしてるって訳か。そんなルークに思い出させるとはな。
「まあ、いいじゃないか。折角の料理大会なんだから、全部喰ってみようぜ。こんなに良い匂いがするんだ。何しろ、タダなんだからな」
「そ、そうですね。じゃあ、行きますか!」
「よし、私も次のを食べ見てるとしようかな」
何でもない事の様にシムさんが腰を上げる。いやいや、自分で取りに行かなくても。一応、側仕えで俺達がいるんだから命令すれば良いのに。
「父上はここで座っていて下さい。私が取りに行って来ますので」
「そうか? ……いや、自分で行くとする。どんな物なのかを自分で見て回りたいし、この匂いの中で待たされるのもな」
「ですが、父上が行きますと民が緊張しますし、歩くのだけでも大変です」
「そうですよ、父上。ここはデルと私が取りに行って参りますので、待っていて下さい」
「む、そうか? じゃあ頼むな。肉は言うまでもないが、酒もな」
「分かってますって。母上はどうしますか?」
「そうねえ。んー、同じのをお願いね」
「あ、あのね、あのね。あたしはこれが良い」
「お前は自分で行ってこい」
「行くなら、あたしのも良いでしょ」
シムさんが待つと言ったのに、デル達が行ったら同じだろうが。そりゃ王様のシムさんと比べると自分達の方が身近だろう。でも、それはデル達側からの考えだ。俺でも分かるけど、どちらも王族だから変わらないと思う。
「それなら、一応側仕えで雇ってるんですから、俺達が行きますよ」
「そうか? では頼む。美味い物しかないと思うが、お前のお勧めをな」
「はい、分かりました」
「では、行くか」
「おい」
「何だ? 父上達を待たせる訳にはいかないんだ。早く行くぞ」
「俺が言ってるのは、お前も待てって事だよ」
「何を言ってるんだ。同じ依頼を請けた仲間じゃないか」
「おっっ。……はああ、そうきたか。じゃあ行くか」
あー、何だか疲れた。こんな短い遣り取りなのにな。ここは王族として待つのが正解だろうが。冒険者として動くのは駄目だろ。それすると、親が子に金を払って雇ってると見られるじゃないか。……あ、合ってるか。あー、ややこしいな。
「それにしても、ここまでのものだとはな」
「何がだ?」
「この料理大会の事だよ。正直、ここまでの大きさだとは思わなかったぞ」
「これ位を予想してたって言わなかったか? まあ、前にここで炊き出しをやった事があるんだけどさ、それよりも多いのは確かだな」
「そうだろ。王都での炊き出しよりも凄いんじゃないか?」
「かもな。でも、王都は町が幾つもあるから、炊き出しも一箇所じゃないだろ。でも、ここは違う。何かをやるなら、この中央広場しかないってのも理由じゃないか?」
「なるほどな」
「後はシムさん達王族が来て、尚且つ全てタダと聞けば誰だって当然だろ」
「そうか、なるほどな。しかし、それもアロが考えた事なんだろ」
「何言ってるんだ? 式典の最中は、国中を回るって計画してたのはシムさんじゃないか。全部、俺が考えたみたいに言うなよ」
全く。何もかも俺が考えた訳じゃないってのに。幾ら俺でも、と言うか記憶があったとしてもここまで考えるのは無理だろうが。それに、考えたのは俺かもしれないけど、実行するのは俺じゃない。ここまでの事を考え、そして実行したのはラウンさん初め役人達だ。考えるのは誰でも出来るとは言わないけど、それを実行する方が重要なんだから、王族としては役人達を褒めないとな。
「だが、それ以外はアロだろ?」
「え? んー、ん?」
俺は言っただけだけど、考えたと言えなくもないのか? いや、俺が言った事だけしかやってないのか? いやいや、そんな事はないだろ。ラウンさん達はもっと考えていた筈だよな。俺は大体の事しか言ってないし。
「そうでも……」
「大体、アロが言った通りだ」
「おい!」
「違ったか?」
「違くない事はないかな?」
「そりゃどっちだよ」
「合ってるし、合ってないって事だよ」
「それはアロが考えたって事じゃないか」
違うと言おうと思ったのに、これだよ。ナックももう少し考えてくれれば良いのに。ここは俺じゃなくって、ラウンさん達が考えたって言った方が良いのに。
あ、でも前に俺が考えたって言ったか? どっちだっけ? 忘れたな、まあ良いか。




