冒険者兼王族
「デル様自らとは……ううっ」
「これこれ、何も泣く事なかろう。在位五十年のせっかくの祝いだぞ、全国民で祝わないでどうする。それに、こんな時くらい王族として国民に何かをしないとな」
「あ、ありがどうございまず」
「ほら! まだまだあるから、遠慮なんかしてないで、どんどんと取りに来るのだぞ!」
「おい、あれ今日で何人目だ?」
「さあ? 五人からは数えてないな。数えたいが数える暇がない」
「だよなあ。デルは良いよなあ」
「お二人とも、デル様を見てないで手伝って下さいよ!」
「はいはい、分かってるよ」
今、何してるかって? そりゃ決まってるじゃないか。炊き出しだよ。食糧を持ってくるだけで良いんだけど、デルがどうしてもって言うから調理にも参加している。で、言い出したデルは何をしているのかと言うと、料理を盛った椀を手渡す係りだ。
うん、何を言いたいのか分かるよ。言い出したのに、一番簡単なヤツかよ!? ってな。でも、今まで調理をした事がないヤツが入ると、それだけで手間が二倍三倍に膨れ上がる。だから、調理には邪魔になるから、調理とはかけ離れた係りをやってもらっている訳だ。厄介者扱いだが、それが俺達を含めここにいる精霊官達の共通の思いだ。
でも、一番簡単な係りを任せたのに問題が起こった。いや、起こっているだな。それは、デルが王族で顔も知られているって事だ。最初はデルがいるなんて、思いもしなかったんだろう。でも、シムさん達が各町を馬車で移動して、式典の宣言をした時にデルも一緒だった事を覚えている人がいたんだ。その人が余りの驚きに椀を落として、跪いちゃったんだよ。
そこから、周りから何だ何だと集まってきて、その人が涙流しながら『王族であるデル様が我らの様な民にまで~』とか何とか熱く語るもんだから、さあ大変だよ。炊き出しでタダなのに、遠慮して近寄ってこない。来たら来たで、泣きながら有難そうに両手で椀を受け取る。邪魔になるから調理から遠ざけたのに、これじゃあ話が違うじゃないか。
まあ、式典の意味を考えれば、王族のデルがこうやって炊き出しに参加するってのは良いのかもな。ただし、炊き出しをする側から言わせてもらえば、足手まといでも調理の方が良い。これじゃあいつまで経っても終わりゃあしない。
「アローニさん! 何ぼーっとしてるんですか!? 手伝って下さいよ」
「分かったよ、やりゃあ良いんだろ、やりゃあ」
コライの時とは比べ物にならない程、多い。これはデルがいるせいなのか、式典だからなのかどっちなんだろか。来る人は多いし、何度も来るから調理が間に合わない。調理をしている精霊官に聞いたら、いつもだったらある程度作ったら後は配るだけらしい。だから、今回は異常らしい。その人が言うには、式典初日はこんなに多くなかったそうだ。いつもより少し忙しかっただけらしい。でも今は……。狩りをしてる方が楽だよ。
「いやー、何でも経験してみるものだな。民とこうして直接触れ合えるのは良いものだな」
「そうですね!」
「『そうですね』じゃねえよ」
「どうしたのだ?」
「どうしたもこうしたもないぞ。デルは良いよな、調理に邪魔だからって簡単な手渡しだけなんだから」
「ちょ、ちょっとナックさん!?」
「俺だって調理が苦手なのに、そっちに回されなかったんだぞ。お陰で休む暇もない」
「そうは言うが、追い出したのはそっちじゃないか」
「そうなんだけどさ。デルがやって良かったーって言ってるのを聞いたら、何だか腹が立ってきてな」
「何だよ、それは。私ではどうしようもないじゃないか。アロも同じか?」
「んー、俺はデルが調理をしよがしまいが関係ないからな。どっちにしろ俺は調理担当だろうし」
「そうか」
「でも言わせてもらうと、式典だからいつもよりは忙しいらしい。それでも、今日は今までで一番忙しかったとさ。デルは初めての事で、しかも国民と触れ合えて良かっただろうけど、こっちは忙しかったんだよ」
「そ、そうか。それはすまん。……ん? それは私が謝る事なのか?」
「そうじゃない。そうじゃないけど、触れ合えて良かったって言ったけど、隣にいるルークも国民だぞ。ついでに言うと、調理してた精霊官もだぞ」
「それはもちろん分かっている。そちらにもって意味だったんだけどな」
「そうは聞こえなかったんだよ」
「む。そ、そうか」
炊き出しが終わったのが、夜だ。と言っても、終わらせるしかなかったと言った方が正しい。簡単な話で食糧がなくなったからだ。幾らタダとは言え、そこまで食糧は用意出来なかったんだ。それに、炊き出しは今日だけじゃない。
で、代官屋敷で疲れ果てて、飯を喰い終わった時にあのデルの言葉だ。今はラウンさん達はいなくて、俺達だけだ。ルークも疲れているはずなのに、デルの言う事だから否定する事も出来ない。それに、ナックが一言言っただけ。だけって言うけど、俺も感じてた事だ。俺が言う前に良く言ってくれた! って感じだ。
「で、どうする?」
「どうするとは?」
「このまま続けるかって話だよ。精霊殿からの依頼は、食糧が足りなくなって困っているってだけだ。今日ので、組合と精霊殿の印章はある。金貨も払った。だから、これ以上する必要はないだろって話だよ」
「……さっきのを言われた後だから、続けたいとは言えないじゃないか」
そう言ったデルの表情は、口を尖らせて如何にも不満ですって顔だ。冒険者になったとは言え、この国では冒険者よりは王族なんだな。それに、デル自身も王族としての意識が強い、と。
「それって冒険者としてか? それとも王族としてか?」
「……王族として、だな」
「はああ。デルは王族としての意識が強いんだな。特にこの国だと」
「それはそうだろ。折角の祝い事なんだぞ? 全国民で祝いたいと思うのは、何も不思議な事ではあるまい」
「冒険者だったら、印章を貰ったら終わるだろうな。続けても精霊殿からの印象は良いけど、精霊と確実に契約出来るとは限らない」
「それでも続けたいと言ったら?」
「今日の事で分かったと思うけど、幾ら冒険者達が狩って来ても足りない。デルがいると分かれば今日の様になるだろうし、食糧も今日以上用意出来るか不明だ。何より、俺たちもそうだが、精霊官達が疲れてるだろう。数日とは言え、寝て起きて炊き出しの繰り返しだ。しかも、デルがいるから尚更忙しい。でも、王族のデルに忙しくなるから来ないで、とは言えない。俺が直ぐに思い付くだけで、これだけの問題があるぞ」
デルは新しい事、国民と触れ合えた事で良い経験が出来たって思ってるだろう。それは間違いじゃないと思う。思うけど、それを続ける場合の事も少しは考えて欲しい。冒険者としてなら止める方が良いし、王族としてなら続けても良いだろう。何しろ、狩った獲物は全て炊き出しに使われるんだ。狩っても報酬はない。報酬は出ないのに、続ける冒険者なんていないだろう。
厳しい事を言ったけど、これで良いだろう。デルは悔しそうにルークは何か解決策がないか考えてそうで、ナックは安心したのか腕組みを解いてだらしない顔だ。幾ら俺とナックが精霊術を使っていても、慣れない事は身体に無理がくる。もちろん精神の方もだ。精霊術が使えないルークはもっとだと思う。あの場にいた精霊官達は契約してるか分からないけど、仲間の事を考えられないのは駄目だろう。
前に気遣いをもっとしろって俺に言ったけど、そっくり返したいよ。炊き出しをしてる側も受け取る側も国民だ。どっちか一方にしか目がいかないのは、気遣いとは程遠い。しかも、王族ならどちらにも差を付けちゃ駄目だろ。
「(そんな事言ってえ、ちゃんと解決策も考えてあるんでしょ?)」
「(……考えてあるって言うか、思い付いただけだ)」
「(それを言えば良いじゃないの)」
「(言ったら絶対にやるだろ)」
「(嫌なの?)」
「(そりゃ嫌だよ。俺達は代官屋敷に寝泊り出来てるから良いさ。でも、もしラウンさんの護衛がなかったら、寝泊りと飯を自分達で出さないと駄目なんだぞ。報酬も出ないのに、やる事じゃないよ)」
「(でも、雇われているじゃないの)」
「(そうだけど……。報酬を無視してまでやる事じゃないと思うんだよ)」
「(そこはほら、デルの国って事で、ね?)」
「(何が『ね?』だよ。何も得る物がないのに、やらないよ。冒険者としては正しいと思うけどね)」
「(まあ、冒険者としてはアロが正しいでしょうね)」
「(だろ?)」
「(それでも、デルは冒険者になったばかりだし、なによりこの国の王族なのよ? 民の事を考えたら当たり前じゃないの?)」
「(それに付き合わされるのは俺達なんだけどな)」
「(それでもよ。もしかしたら、戻って来れないかもしれないし)」
「(……はああ。分かりましたよ。でも、言うだけだぞ、言うだけ。それで良いよな?)」
「(ええ、それで良いわ)」
キューカに説得されて……渋々であるけど思い付いた事を話す事にする。
「実はさ……」
言いたくなかったんだよなあ。唯一の解決策とは言わないけど、これに飛びつくだろ。デルは喜ぶだろうけど、ナックは不満になるだろう。ルークはどちらかと言えば、俺達寄りだろ。口ではデル寄りだけど、身体は疲れているはずだ。そういう意味でも、言いたくなかった。はああ、どうしよ。




