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慢心 弐

 俺たちは目的の親ルスを捜して、いつもの池の周辺より奥に入っている。境界線があるわけじゃないのに、いつもと違う雰囲気に感じてしまう。それに呑まれない様にさっきの会話があったんだけど。そのお陰か俺も含めて極度の緊張は解け、程よい緊張感になっている。もし、親ルスを狩れない時を考えて小物のランや果実等を採取している。

 

 「二人とも、見つかったか?」

 

 もう何度目か分からない問いをする。それの応えはきまっている。

 

 「いないな」

 「いないね」

 

 結構、奥に入ったと言うのに見つからないなんて。大きいから直ぐに見つかると思ったんだけどな。今日の処は狩りをするべきじゃないと言う事なのかな。

 

 「二人とも、どうする? 結構奥に入ったから、このまま奥に行き続けると戻るにも時間が掛かるぞ。今日の処は止めるか?」

 

 「そうだな。何が何でもルスを狩らないといけないって訳ではないからな。これ以上は流石に深入りだ。それに、獲物なら狩ってるからな」

 

 「そうだね。私も戻るのに賛成。ルスは別の日で良いんじゃない? 罠とか作っても良いしね」

 

 二人とも引き返すのは賛成の様だな。まあ、実際これ以上は深入りだしな。ここら辺が限界だろう。それに、まだ儀式まで日はあるから、それまでに狩れれば良いんだしな。帰ったらルスに効果的な罠とかを聞いた方が良いかな。いや、それだと驚かせる事は出来ないか。じゃあ、また工夫でも考えるか。

 

 「じゃあ、引き返すか。途中で見逃してきた獲物は狩って帰ろうか。それ位は仕事しないとな。キューは主に果実と野草な」

 

 そうして俺たちは池に戻ろうとして、振り返った。すると、今まで見つけられなかったルスらしき獲物を発見したのだ。まだ遠めではあるけど、あの姿かたちはそうだろう。

 

 「キュー、あそこにいるのルスか?」

 

 キューは狩りは得意じゃないけど、目が良いのだ。俺が指差した方向を見ると、俺と同じ答えになったようだ。

 

 「んー、そうだね。ルスだね。でも、親じゃなくて子供だね」

 

 「流石キューだな。俺なんて親か子なんて分からなかったぜ」

 

 ナックはそう言うが、俺だって分からなかったんだ。キューの目が良すぎるんだよ。

 

 「子供がいるって事は近くに親がいるだろう。いなくても、あいつの追っていれば親の所に行くだろう。そういう訳で、とりあえずあいつの周りを探してみよう」

 

 二人は無言で頷いた。それから俺たちは右周りで探す事にした。

 

 子供と親を探すためにずいぶんを大回りをしたけども、ようやく親を見つけることが出来た。子供を円の中心とした場合、ちょうど四半進んだ時に発見した。位置としては子供と俺たちの延長線上にそいつはいた。大きな樹の洞で気持ち良さそうに寝ていた。洞の広さは分からないけど親が2頭もいる事はないだろう。もしかしたら子供はいるかもしれないが。

 

 さっきの子供はまだ近くには来ていないので、狩る作戦を話し合う。

 

 「さてと、ようやく見つけた訳だが。どうやって狩る? 何か案はあるか?」

 

 「そうだな。あの大きさで突進してきて、当たったら怪我だけじゃ済まないだろう。だから接近は避けて、やっぱり弓じゃないか?」

 

 そうだよな、俺もそう思ってた。あんな大きなヤツに接近攻撃して、暴れられると対処できないしな。

 

 「そうだね、弓にしよう。私は近づくなんて考えられないよ。幾ら大人しいって言っても、攻撃されたら暴れるし。親ルスなんだから、一撃で死んじゃうよ」

 

 「うん。俺も弓で狩るのは賛成だ。三人固まらないで、ルスを囲む様に位置取りするんだ。キューを真ん中にして、俺とナックが左右な。それで、キューだけは樹の上に位置してくれ。洞にいるから狙いづらいけど、最初の一射はキューにお願いしたい。どうだ?」

 

 「私だけ樹の上で安全ってのは個人的には嬉しいけどさ。狙いづらいなら、果実とか投げて洞から出せば?」

 

 うん。俺もそれは考えたんだけどね。それには問題があるんだよ。

 

 「洞から出すってのは良いと思うけど、狙いやすくなるからな。でも、洞にいれば、逃げ出せない様に出来るぞ。何より、一射目を慎重に狙えるってのが良いな。それに、動くルスに矢を当てられるか?」

 

 「俺も洞から出した方が良いかなって思ったんだけど。ナックが言った様に、洞から出さない方が俺たちにとっては有利かなと思ったんだ」

 

 「そ、そう言われると確かに。動く獲物に当てる自信ないからなあ。じゃあ、最初は私として、後はどうするの?」

 

 「そうりゃ決まってるだろ。矢を射るだけだよ。他に何があるんだ?」

 

 「いや、まあそうなんだけどね。何か策があるのかなって」

 

 「ないよ。俺たちが幾ら作戦を練ったところで、あいつがその通りに動いてくれるとは限らないしな」

 

 「そうだな。ルスに限らず、思い通りに動くなんて滅多にないぞ。まあ、大体は攻撃してきたヤツに突進なんだけどな」

 

 うん、そうなんだよなあ。攻撃されて突進して来るヤツもいれば、逃げるヤツもいるからな。同じ種族でも対応が違うしな。

 

 「作戦とも言えない作戦はここまでで。俺たちが左右に分かれるから、準備ができたらキューに合図を送るよ。そしたら、キューの準備が出来たらいつでもいいから射掛けてくれ。キューの弓が当たったら狩りの開始だ」

 

 

 俺は直ぐに弓を射掛けられる様に足場を固めた。周囲を見渡して、他に獲物がいない事を確認してキューに手を挙げて合図を送る。洞の中は見れない位置だが、弓に矢を番えて途中まで引いた体勢で維持する。緊張してるのか、周囲の音がやけに聞こえる。耳を研ぎ澄ませている訳でもないのにだ。自分の鼓動で、獲物に気付かれるんじゃないかって位大きく聞こえる。

 

 どれだけ、時が経っただろうか。分からない。この緊張下で時の感覚が鈍ったのだろうか。相変わらず鼓動は大きいし、何だか口の中も乾いてきている。キューは何をやってるんだ。もうとっくに準備は終わってるだろうに。この状態はいつまでも続けられるもんじゃないぞ。もしかして、ナックの方で問題が起きたのか? じゃあ、合流するか? ……いや、冷静に考えてみよう。分かれてから、まだそれ程時は経ってないはずだ。その証拠に陽が傾いていない。だから、これは俺が緊張に負けて焦れてるんだ。そうだ、焦る事はない。獲物は洞で寝ているんだ。作戦で決めたじゃないか、キューが最初の一射目って。

 

 その時は突然訪れた。今まで静かな森だったのに、一頭のルスの大きな悲鳴とも怒声ともとれる声で騒がしくなった。

 

 『PYUGYAAAAAA』

 

 そいつは大声を上げながら、洞の中で暴れている様だ。様だとは、攻撃されたのに出てこないからだ。

 

 俺たちはじっと待った。出てこないなら出てこないで、また弓を射掛ければ良いんだ。でも、暴れている状態のヤツの前に出て行くのは得策じゃない。今、ヤツを狙える位置にいるのはキューだけだが、キューも出てくるのを待っている様だ。

 

 散々暴れて気が済んだのか、やっと出てきた。ヤツの背中から血が出ている。体毛が黒茶なので、分かり難いが折れた矢が刺さっているので血だろう。足取りは遅く洞から出た所で止まり、鼻息を荒くして周囲を警戒している様だ。止まっている今なら当てられると思い、弓を力の限り引いて射た。

 

 『PGYUUUU』

 

 今度は右肩辺りに当たり、また暴れるかと思いきや俺目掛けて突進して来た。まだ距離はあるから、次々に矢を射る。だけど、巨体が突進して来る恐怖に、上手く当てられない。二人も射掛けて当たってはいるけど、目標は俺のままだ。震える手で何度も射るが、真っ直ぐ飛ばないし、当たっても軽傷の様でちっとも速度は衰えない。このままじゃあ駄目だと思い、逃げる事にした。ただ、逃げるのではなく、直線で追って来れないように樹の密集している所を選んで逃げた。それでも、アイツ方が速い様で、どんどんと差が縮まってくる。振り向くのが怖い位だ。振り向いたら最期、足が竦んでしまうだろう。だから、走り続けた。

 

 こんなにも必死に走ったのはいつ以来だろうか。はあはあと荒い息づかいをしながらも、この後の事を考えていた。考えていたと言っても、特別な事じゃない。二人が残っているであろう、洞に行くつもりだ。

 

 「二人とも! 洞に連れて行くから準備してくれ!」

 

 俺は息を切らしながら二人に大声で準備をするように言った。まあ、俺の声が届いていればの話だけどな。

 

 「はあはあ、もうすぐ洞だ。二人は準備してくれてるかな」

 

 目の前には洞が見える。俺の足は悲鳴を上げて、直ぐにでも止まりたい位だ。でも、直ぐ後ろからもの凄い音が近づいて来てるから止まれない。止まったら最期だから。

 

 ここだ!

 

 どおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

 

 凄い音がして、振り向くと樹が倒れるところだった。どうやら作戦は成功した様だ。俺がやった事は、樹に向かって跳んで樹を蹴って反対側に跳んだだけだ。そして、俺がいると思い突進したヤツは樹に激突したと。成功したから良いものの、もしヤツが俺との距離が離れていたら、樹を蹴って反対側に行くのが目の前に着地なんて事もあり得た。何で蹴って反対側に行こうと考えたんだろう。そのまま樹に登れば良かったじゃないか。そう考えると恐ろしくて震えてきて座り込んでしまった。

 

 「アロ! 大丈夫か!?」

 

 二人が直ぐに来てくれた。どうやら、俺の声は届いてたみたいだ。それに応える様に俺は手を挙げて応えた。

 

 「もう! 心配したんだからね! 矢が当たっても致命傷にならないし。アロを追って消えちゃうし」

 

 心配させたのは悪かったと思う。けど、二人の矢も当たってるのに目標を変えないとは思わなかったんだよ。

 

 「まあ、その辺でいいだろ。アロはずっと追い回されて疲れてんだ。今は、狩れた事を喜ぼうじゃないか」

 

 「そうね。今言う事じゃないね。後でたっぷりと言いたい事言うから覚悟してよね」

 

 「ふう、分かったよ。コイツを運んでる時にでも聞くよ。それより、コイツまだ死んでないと思うぞ。多分、気を失ってるだけだと思う。止めはナックに任せるよ」

 

 「良いのか? あんなに苦労したのに最後だけ俺がやっちゃって?」

 

 「良いよ。あんなに全力で走ったからな。暫らくは動けないよ」

 

 そう言うとナックは腰の剣を抜きながら、気を失ってるルスの所に向かった。

 

 はあ、こんな命がけの狩りなんてもうご免だな。早く精霊術使いたいなあ。そうしたら、こんな苦労しなくて済みそうなのにな。でも、何とか最初の目標は達成できたかな。俺は満足感で高揚した気持ちでナックが止めを刺すのを見ていた。


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