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プロさん

 「こ、これはデル様! よくぞお戻りに」

 

 「うむ。しかし、今の私は冒険者の一人に過ぎん。そんなに畏まる必要はないぞ」

 

 「は! し、しかし……」

 

 「今の私は冒険者だと言ったぞ。コライ代官様の護衛で来た。手続きを頼む」

 

 「はっ! ただいま!」

 

 王都に着いて、門での審査の為に兵士の所に行くと、デルだと気付いて突然跪いたり動きが素早くなる。これに釣られて、周りの人達が近寄ってきて跪く。中には泣き出したり、拝んでる人もいた。出る時も同じだったけど、これが王族なんだな。

 それにしても、冒険者として来ているから冒険者として扱えと言ったけど、それにしては態度が大きすぎじゃないか? その事を言ったら、『冒険者になったからといって、今までの話し方とか態度が変わるはずがない。咄嗟の時はどうしても王族としての自分が出る』って返ってきた。まあ、切り替える必要はないのかもしれないけど、何だか面倒だな。いっその事、デルにこのグループの頭を任せる方が良いのかって言ったら、猛反対された。ただ、反対されただけじゃない。猛反対だ。

 

 ナック曰く、冒険者として先達なんだから俺等のどちらかがなる方が良いだろう。

 ルークは、身分を使って相手に威圧してるみたいみ見えそう。

 デルは、仲間にしてもらう側なんだから、いきなり頭になるのは違うと。それに、狩猟や採集の指示出し等は出来ないから自分には向いてないって言ってた。

 余談だけど、ルークは王族ってのは相手を威圧してるのかって詰め寄られてた。それを焦って違う言い方に変えたりして、何とかデルの気分を損ねない様にしている。それを面白く眺める俺達。もちろん、そこにはデルも含まれる。

 ルークがデルや王族について失言めいた事を言って、それをデルが詰め寄ってルークが焦る。それを三人でニヤニヤしながら見て、それにルークが気付いて安心するという流れがこの短い間に見事に出来上がってきた。

 

 うん。暗い雰囲気や険悪になるよりは、笑って楽しい雰囲気の方が断然良いな。これから一緒に多分長い旅になるから、この短い間で打ち解けられたのは良い経験だな。

 

 

 

 「それではデル様、ワシは一先ず王宮に到着した事を伝えてまいります。デル様はどうされますか?」

 

 「んー、そうだな。私が急いで父上達に会う必要はないだろうから、頃合いを見て勝手に行くとする」

 

 「分かりました、その事も伝えておきます。もし直ぐに王宮に戻られない場合は、代官屋敷がありますので、そちらを使って下さい」

 

 「あの~、それは俺達もって事ですよね?」

 

 「もちろんじゃ。式典の間も護衛として雇っておるのじゃから当然じゃな。それに、今からだと宿はどこも空いていまい」

 

 「助かったあ。前来た時には既に一杯で高い所を紹介されましたからね。コライに行ったは良いけど、宿の事は考えてなかったので」

 

 「ふむ、そうじゃろうな。ま、屋敷の者には言っておくから安心じゃろう」

 

 「あ、それと護衛って事は俺達も王宮に行く必要があるんですか?」

 

 「いや、それは必要ない。送迎はしてもらう事になるが、王宮へは大丈夫じゃ。代官はワシだけじゃないから、連れて行ったら護衛で溢れてしまう。それに、王宮に護衛を連れて行くって事は、何か良くない事を企んでると思われても仕方ないのでな。まあ、王宮にも兵士はいるから安全じゃろ。連れて行くって事は王宮の兵士を信用していない、ひいては王家を信用してないって事にもなりかねない」

 

 「うわ、何だか面倒な話ですね。たかだか護衛の事で」

 

 「面倒、か。まあ、その面倒とは無縁の存在が冒険者だからな。お前さん達はそこまで裏を読まなくていいじゃろ」

 

 「ですよね。まあ、裏を読めって言われても無理ですけどね」

 

 「それが良い。表も裏も読むなんて楽しい事じゃないからな。お前さん達は正直に誠実に活動していれば良いさ」

 

 「ええ、分かってますよ」

 

 「うむ。ではな。それではデル様、失礼します」

 

 うん。ラウンさんの中では、デルは冒険者ではなく王族なんだな。あの時一応納得はしたけど、急には変えられないか。そりゃそうか、デルは冒険者になったけど王族じゃなくなった訳じゃないからな。王族兼冒険者ってとこだな。ラウンさんは王族としての見方が強いってだけで、それが悪いって事じゃないだろうな。

 

 

 「で、俺等はどうする?」

 

 「んー、どうするか。まあ、私は大人しくしてた方が良さそうだな」

 

 「どうしましょうかねえ。組合に行って依頼を請ける事も出来ないですからねえ」

 

 「……あ、そうだ。プロさんの所に行こうぜ」

 

 「ああ。この剣の具合の事も言いたいし、何よりまだ金を払ってないからな」

 

 「そうだったな」

 

 「プロさんって?」

 

 「ルークに再会する前に寄った鍛冶屋の人だな」

 

 「へー、初めて聞きました」

 

 「そうなのか? 麓の町にあるから、新人向けだと思ったんだけど。違ったのかな?」

 

 「まあ、そんなのはいいだろ。早く行こうぜ」

 

 場所を知ってる俺達が先に、ルーク、デルと続く。一番後ろにいるデルからは『プロ? 鍛冶師? いや、まさかな』と呟きがもれてくる。もしかして、デルが知ってる程の人なのか? だとすると、新人向けってのは考え難いか。まあ、行けば分かるだろ。

 

 

 

 「なんか、周りの目が怖いんですけど」

 

 「仕方ないだろ。デルがいるんだからな」

 

 「まあ、良いじゃないか。デルがいるだけで、歩きやすいんだから」

 

 「そんな風にデル様を言わないで下さいよ。デル様からも何か言って下さいよ」

 

 「……」

 

 「デル様?」

 

 「ん? 何だ?」

 

 「だから、道を歩きやすくなるからってデル様を便利扱いしないで下さいって事です」

 

 「あ、ああ」

 

 「どうしたんだ? さっきから黙って。何か気になる事でもあるのか?」

 

 「いや別に何でもない」

 

 「何でもない事ないだろ。急に黙るし、今の反応だって悪いし。これで何もないって言い張るのか?」

 

 「いや、本当になんでもないんだ。勘違いならそれで良いだろうし、な」

 

 「勘違い、ですか?」

 

 「……うむ」

 

 それからは何を話し掛けても反応が悪い。無視じゃないけど、上の空って感じの生返事しか返ってこない。折角、デルがいるから歩きやすいなってからかおうって思ってたのに、調子が狂っちゃうな。デルの事が気になって、周りの事を気にする余裕がなくなっちゃったぞ。まあ、勘違いかもって言ったから後で分かるだろ。

 

 

 

 「ここだ」

 

 「へー、こんなところにあったんですね。知らなかったです」

 

 「俺等も偶然見付けただけなんだがな。ま、その偶然が良かったんだけどな」

 

 「じゃあ、入ろうぜ」

 

 

 「プロさーん、いますか?」

 

 「いつ来ても客がいないんだな」

 

 扉を開けると、案の定と言うか誰もいない。もちろん、プロさんもいない。もちろんって言うのは可笑しいかもしれないけど、それが事実だ。こうやって大声を出すのがここでは当たり前なのかな。

 

 「そんな大声出さんでも聞こえとるわい! 何じゃお前さん達か。ん? 今日は多いな」

 

 「そうなんですよ。まだ手続きはしてないですけど、仲間にする予定なんです」

 

 「おお、そうかそうか。じゃあ、色々と見てってくれ。ん? 何じゃ、デルじゃないか」

 

 「え? 知り合いなんですか?」

 

 「知り合いと言えば知り合いじゃな」

 

 「お久しぶりです、おじい様」

 

 「おじい様?」

 

 プロさんに頭を下げて、俺達に向かい合う様に立った。そして、

 

 「この方はこの国の初代国王だ」

 

 と、こんな事を言い放った。

 

 「「「ええ!?」」」

 

 俺達三人は揃って目を見開いて驚きでプロさんを見れば、プロさんは『よろしく!』と軽く手を上げて笑っている。その横でデルは右手で両目を塞いで、上を見ている。ため息と共に。

 

 

 「で、詳しく話してくれるよな?」

 

 「ああ、もちろんだ。この人はおじい様と言ったが、厳密には私のおじい様ではない。だが、周りの人達がおじい様と呼んでるから私もそれに倣ったんだ」

 

 「うん、おじい様の説明は良いから。さっき初代国王って言ったよな?」

 

 「ああ、言った」

 

 「その初代国王が、何でここで鍛冶屋なんてやってるのかって事を聞きたいんだが?」

 

 「それはワシから説明しよう。まあ、簡単な話でな。国王を退いた後に何時までも政治に係われる立場にいるのは、後の者にも良くないだろうからな」

 

 「はあ」

 

 「もっと簡単に言うと、政治より鍛冶の方が好きなんじゃよ」

 

 うわ、いきなり説明が簡単になったよ。こっちの方が分かりやすいから良いけどさ。でも、元国王が町中で鍛冶屋って良いのか?

 

 「なるほど。俺達は国王だと知らないで偶然入った訳か」

 

 「国王と言っても元じゃぞ。それに、国王より鍛冶屋をやってる方が長いわ」

 

 「へー、そうなんですね。そんなに長いのにいつ来ても客がいないんですね」

 

 「大きなお世話じゃい」

 

 「それは私から言わせてもらうと、組合も紹介出来ないんだ。組合にもアッチャ族はいるから、ここが初代国王の鍛冶屋だってのは分かってる。そこに迂闊に変な者達を紹介出来ないってのがあると思う。だから、客が少ないのは当然だ。寧ろ、アロ達が良くここに辿り着いたな」

 

 「本当に偶然だぞ。町中を何となく歩いてたら、プロさんの鍛冶屋が目に入っただけだし」

 

 「本当にアロ達は幸運だな。私の知る限りでは、おじい様の打つ装備品は一級品だぞ」

 

 「へー、そうなんだ」

 

 「そうなんだって、そこはもっと驚くところだぞ」

 

 「だって、他の鍛冶師の事を知らないから比べ様がないしな」

 

 「まあ、俺は納得出来るかな。この剣の具合も良いし」

 

 「おお! そうかそうか。それを聞きたかったんじゃよ。何か直すところはあったか?」

 

 「いや、ないですね。ただ、これから旅をするので手入れの方法が知りたい位ですね」

 

 「うむ、分かった。ワシも良い状態のまま使ってもらいたいからな。弓も改良は終わってるから、試してみてくれ。で、さっきから黙っとるお前さんは何か欲しい物はあるか?」

 

 「……」

 

 一斉にルークに視線が行く。黙っていると言うよりは、固まってる? まあ、シムさんに会った時の事を思い出すと、固まるのは当然か。

 

 「おい、ルーク?」

 

 「ははーっ!!」

 

 ええ!? 動き出したかと思ったら、突然頭を地面に付けて平伏しちゃったよ。シムさんの時にはこんな事しなかったのに。


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