式典って何する?
「心置きなく狩りが出来るって良いな」
「そうだな」
俺達はラウンさんからデルの事を王族ではなく、一人の冒険者として扱う事を許してもらった。許して? 何か変だだな。王族のデルよりも代官のラウンさんの方が偉いみたいだ。違うな。冒険者として扱うからそのつもりでって感じだな。だから、今は思う存分狩りをしてるって訳だ。
「ぜぇぜぇ、だからって、狩りすぎですよ!」
「そうか?」
「そうですよ! 代官様の所に行ったのは、もう十日も前ですよ!?」
「いやー、狩りが出来るってだけで嬉しくなっちゃって。すまんすまん」
「すまんすまんって軽いですよ。こっちの身にもなって下さいよ!」
「それでも、ついてこれてるじゃないか。それに、たくさん狩るから慣れるし連携も確認出来るし位階も上がるから良い事だらけだろ」
「そりゃ……そうですけど」
「いや、ルークが言った事も分かる。こんなにも冒険者とは大変なのかと思い知らされた」
「いや、絶対にこれは普通じゃないですからね。門にいる兵士や組合の人が驚いてましたから」
「普通って言われてもなあ。俺達って他の冒険者の事知らないし。知らないってよりは興味がないかな。他が凄くても自分達には関係ないし、なあ?」
「だな。他の冒険者がどうこうよりも、自分達が強くならないと生き残れない訳だし。それに、他の冒険者の事を知ってもそれが活きるとは限らない。まあ、装備品とかは知っておいて損はないと思うけどな。でも、その位だぞ」
「まあ、辛かったのは事実だ。だが、私の位階では請けられない様な依頼も請けられたから良かった。良い経験になった」
「だろ? 一人で冒険者になってたら、町中か採取依頼しかないぞ。それだと、正直に言って稼ぎが少ない。王宮で贅沢な暮らしをしてたデルには耐えられないと思うぞ。まあ、その依頼の大切さも分かってはいるんだけどな」
「言っておくが、王族だからと言って贅沢に暮らしてる訳ではないのだぞ。我々王族は民からの税で生活出来ているんだ。働いていないとは言わないが、王族が稼ぐ手段としては他国との交易だな。そこで稼ぐ事もあるが、稼ぐ事よりも信頼関係等に重きを置いているから、利益は考えてないな。まあ、一部の王族は普通の民と同じ様に稼いで生活している者もいるがな」
「ふーん」
「ふーんって、アロは王族に興味がないのか?」
「うん。面倒そうだし」
「面倒って。普通は王族に憧れたりするもんじゃないのか?」
「普通って言われてもなあ。俺達って族長はいたけど、王族なんていなかったからな。憧れる理由が分からない」
「そうだな。それに、冒険者になるのだって面倒だったんだ。俺等が想像出来ない面倒事があるに違いない」
「そうか、憧れないか……。ルークはどうなのだ?」
「俺、ですか!?」
「うむ、ルークはこの国の生まれだから、この二人とは違う見方をしているのかと思ってな」
「俺は……」
ああ、凄い困った顔してる。俺達二人が憧れないって断言しちゃったから、期待を込めてルークに向いたわけだ。だけど、その期待には応えられないだろうな。視線があちこち彷徨ってるし、手も意味不明な程動いている。憧れてないって言い難い雰囲気だよなあ。何せ、自分は農家民であっちは王族だからな。俺は分からないけど、普段の接し方を見てると身分の違いって相当面倒なんだろうな。
「うむ、俺は?」
「あ、憧れて……いま……せん」
おお、言った、言ったよ。消える様な小声だったけど、確かに憧れていないって。良く言ったと褒める場面か? 普段の接し方を思うと、ルークの中で何かが変わったのか? ここで即答で憧れてますって言ったら、まだルークはデルに対して身分を気にしてるって事になったんだけど。
「「「あ」」」
「そうか、憧れてはくれないのか」
うわ、デルの落ち込み様が凄い。この世の終わりみたいに絶望の顔だ。顔だけじゃなくて肩まで落としちゃって。それを見てルークがどうしようか慌ててる。見てる分には面白いな。でも、そんなに落ち込む事なのか?
「(そりゃそうでしょ。王族ってのは誰でもなれる訳じゃなくって、この国では三家だけなんだから。なりたいって言って直ぐになれる冒険者とは訳が違うのよ。ダイスケの国にも王族はいるけど、憧れとか畏れとかはあるみたいよ)」
「(ふーん、そんなもんかあ)」
「(軽いわねえ。アロだってシム達に会ってるでしょ? 何も感じないの?)」
「(そう言われてもなあ)」
父さん達の仲間だって言われて会ったから、憧れと言うよりも何も感情は生まれなかったな。 それに憧れるって事は、その人の事を知らないと憧れるも何もないしな。
「違いますって! 憧れないって言ったのは、恐れ多すぎて想像が出来ないって事です! 俺なんて農家の息子ですから、こうやって一緒に行動出来てるのが不思議なくらいで」
「そ、そうか?」
「そうですって! 俺みたいなのが近くにいるって知ったら、皆羨ましがりますって。『何でアイツ何だ! どうして俺じゃないんだ!』って」
「そ、そうかな?」
「そうですって。だから、そんなに落ち込まないで下さい」
「そ、そうか。そう……だな。憧れない訳がないよな。うん、そうだな。うん、うん」
一人で納得しちゃったけど、デルは気付いていない。ルークの明らかにほっとした表情を。俺は見逃してないぞ。あ、ルークが俺の視線に気付いて睨んでくる。そんなに睨まなくても言わないよ、大丈夫だよ。俺を信じろよ。
「そんな事より、早く帰ろうぜ。腹減ったぞ」
「そ、そんな事って。まあ、私も腹は減ったがな」
「だろ? 今日はさ、リアンさんのとこに行かないか?」
「今日も、だろ? まあ、肉ってのは良いけどな」
「やっぱり肉だろう。それに、肉専門ってリアンさんの所以外知らないんだけどな」
「ああ、それはあるな。肉を喰いたい時はリアンさんの所に自然と足が向かうからな」
「そうですねえ。今まで色んな肉を食べましたけど、あそこのは別格ですね。それに何と言っても、コライステーキが良いですね。あの噛んだら肉汁が溢れてくるのが堪りませんよ」
「ああ、それは激しく同意だ。あんなの王宮でも食べた事ないぞ。柔らかいからいくらでも食べれてしまう。それにあのソースが良いな、食欲が妙に沸いてくる」
おお、凄い食いつきだな。そんなに感動するか。二人とも思い出してるんだろうなあ、口の端から涎が出てるぞ。その感じは分からないでもない。最初に案内した時は初めて見るから恐る恐るって感じで食べてたけど、一口入れると止まらなかったからなあ。美味しすぎたからお替りもしたし。あの喰いっぷりには流石に驚いた。お替りもしたのに、俺達よりも速く喰い終わるし。
デルなんて王宮でもっと美味い物があるだろうに。そう思ってたら美味いのはあるけど、これは初めて食べたから印象が凄いんだと。後、喰い方を言ったら恥ずかしがってた。王宮ではあんなにガツガツ食べる事はしないらしい。まあ、それ程に美味かったって事だ。
「あれはアロが教えたって聞いたぞ。本当なのか?」
「まあ、本当と言えば本当かな」
「どうしてもっと早くに教えてくれなかったんだ!? そしたら父上達にも味わってもらえたのに」
「どうしてって言われても、言ってもここに来なきゃ喰えないんだぞ」
「それでもだ! あんなに美味い物を二人だけの秘密にしおって」
「秘密にはしてないんだけど。秘密にしたいなら、ここに着いて初日に案内しないだろ?」
「そりゃ、まあ、そうなんだが。何か、納得出来ないと言うかすっきりしないな」
「そんなに言うならさ、シムさん達に食べさせてやればいいじゃないか」
「そんな簡単に言うな……よ?」
「「「?」」」
ん? 何だ? 最後まで言わないで顎に手をやって何か考え込んでいる。今の話で何か引っ掛かる所があったか?
「どうしたんですか?」
「いや、もしかしたら出来るかもと思ってな」
「ん? どういう事?」
「えっとだな、在位五十年の式典はもちろん王都と王宮で行う。それは他国からの使者も招いているからな」
「うん、それが何の関係があるんだ?」
「焦るな。ここからが本題なんだがな。今回の五十年は節目って事もあって、特別な事をしようって考えてあるんだ」
「特別な事って?」
「うむ。式典には各町、村から代官が来る事になっている。代官達が帰るのに合わせて父上達も一緒に各町、村を回ろうって事になっている。その時にここを最初に訪れる事になっているんだ」
「ああ、なるほどな。でもそれってラウンさん達は知らないのか?」
「もちろん知らない。この試みは今回が初めてだからな」
「そっか、知ってたらあんなに落ち着いてないよな。でも、今は料理大会の事で忙しいのに、それに加えてシムさん達が来るのか。大変だな」
「いやいや、歓待はしない様に頼もうと思ってる。知らせてないから準備もないだろうしな。それに、回るのは歓待を受けるのが目的じゃなく、国民全員で祝おうって事と金を各町、村に落とそうって意味が大きい」
「ほー、なるほど。そんな事やるのか」
「でも、王様が各村、町を回るなんて聞いた事ないですから、きっと驚きますよ。と言うか絶対に混乱しますよ」
「あのさあ、俺良い事思いついたんだけど聞くか?」
「聞くのが怖いって感じるのは俺だけでしょうか」
「いや、俺もだ」
「うむ、私もだ」
何を言う。俺は怖い話をしようって訳じゃない! 寧ろ良い話だろ。いや、面白い、かな? まあ、それでも話だけはするけどな。それを実行するかは本人次第って事で。




