やっと
「ワシ言ったよな? デル様に合わせる様にって」
「言いましてね」
「じゃあ、どうしてⅢの依頼を請けられてるんだ!? 組合にも言ってあるんじゃぞ?」
「グループではデルに合わせてⅠ、個人ではⅢを請けたんです」
「っ!! お前さん達、ワシは確かにデル様に合わせる様にと言った。それは一緒に行動するだろうから個人も合わせての事なんだがな」
「そうだとは思いましたけど、グループだけ合わせる事にしました」
「何でじゃ!? あれだけ頼んだのに通じなかったのか?」
「いえ、そうじゃないです」
「だから、どうしてじゃ?」
「組合は本来、町や国に縛られない組織です。グループだけでもデルに合わせたんですから、これは譲歩だと思いますけど」
「本来はそういうもんじゃが、実際は違う。組合で働く者はタロスから派遣されてくる訳じゃない。そこに住む者が働いているんじゃ。だから、代官や王様からの頼みってのは命令と同じなんじゃ。そうしないと、住みにくくなるし嫌がらせ等もありえるからな」
「だから、本来の組合のあり方に従ったまでです。それでも、知らない仲じゃないんで、グループは譲歩したんですよ。それなのに、これ以上強制するんですか? 俺達だって稼がないと飯だって食えなくなるんですよ。デルに合わせろとは言いましたけど、本来受け取るはずの報酬を補填するでもなし。何もしないのに命令だけは聞けって、横暴が過ぎますよ」
「っっ!!」
俺達はラウンさんと会った翌日にまたラウンさんの部屋に来ている。来ているというと自分達から来たって思うかもしれないけど、実際は馬車に押し込められてきた。そんな扱いだから、頭にきて喧嘩腰になってる訳だ。ルークなんかは馬車の中から青白くなってガタガタ震えるし、デルはデルで申し訳ないってずっと謝ってるし。
で、部屋に入ったらラウンさんは顔を真っ赤にして待っていた。椅子に座るなり、強い口調で話し出した。それを聞いていると、段々と言いたい事が溢れてきて、ああなった訳だ。ラウンさんは真っ赤な顔を更に赤くして、握り締めた拳が白くなっている。ルークは……言うまでもないな。
「これについては私からも説明しよう。冒険者になったのは、誰かからの命令でもアロ達からの頼みでもなく私が望んだんだ。それに、仲間にして欲しいと望んだも私だ。そんな私のせいで本来の依頼を請けられないのでは、位階の意味がないではないか」
「しかし、デル様にもしもの事があったら……」
「それも前話した通りだ。冒険者になったからには、怪我もするし死にもするだろう。だからと言って、冒険者を辞める理由にはならん。それに、この国で怪我をしない様にしても次の国へ行ったらどうするんだ? 危険にならない様に護衛でも雇えとでも言うつもりか?」
「いや、せめてこの国だけでもと思いまして」
「では、怪我でも何でもするのは国を出てからにしてくれって事か?」
「違います違います! そんな事は思ってません!」
「それにな、これから旅を続けるんだ。今やらないでどうするんだ? 町中での依頼は危険は少ないが、大切な依頼だと思っている。それを経験出来た事は次に活きるだろう。だが、必ずしも町中の依頼があるとは限らない。その時は荒事だってあるだろう。そんな時に、私は出来ませんって言うのか?」
「いえ、そうではなくて……」
「それに、アロ達はここで冒険者として活動していたんだぞ。全てとは言わないが、森の動物・魔物の種類は分かっているはずだ。そんな彼等が一緒なのだから、狩りの仕方や連携を学ぶには良い機会だと思うんだが?」
「……」
おお。デルが猛烈に話しかけるもんだから、ラウンさんが口を挟む余裕がない。それに、いつの間にか真っ赤な顔から赤みが消えてきている。それに黙って何か考え込んでいる。
「おい、ちょっと言いすぎじゃないか?」
「何を言う、アロだって似た様なもんだったぞ」
「そうか?」
「そうだとも。あのままアロが続けてたら、怒り出すだけじゃ済まなかったぞ」
「ふーん、そっか」
「『そっか』って軽いな」
「そりゃ、俺達は絶対にここにいなきゃいけない理由なんてないからな。嫌なら離れるだけだ」
「はあ、冒険者とはそう考えるものなんじゃな」
俺とデルが小声で話していると、ラウンさんが話に入ってきた。その顔には呆れとも疲れとも取れる表情があった。
「そうですね。強くなれる機会があるなら、今の内にってのはその通りですね、確かに。分かりました! 今後はデル様達には強制をしない様にします」
「うむ、そうしてもらえると有難い」
「いえ、ワシがもっと先を考えておれば良かったんです。デル様は冒険者を経験したいだけで、本気で続けるとは思ってもなかったので」
「そうか、それは悪い事をしたな」
「いえ、ワシが本気にしなかったのが悪いんです。お前さん達も悪かったな。こんな事に巻き込んじまって」
「いえ、別に良いですよ。これくらい」
「そうか。そう言ってくれると有難いな。お前さん達には料理大会の事で世話になったというのにな」
「まあ、俺も言いすぎたかなって少しは思いますし。まあ、王族がいたら気を遣うってのは分かりますよ。でも、離れても良いかなってのは本気ですけどね」
「ははは、そうか。もしそうなってたら、どうなっていた事か。危なかった」
「では、話はこれでお終い事だな」
「はい、何度も申し訳ないです」
「うむ、気にするな。あ、そうそう。組合の連中には何の咎はないから、罰する事のない様にな」
「もちろん心得ております」
「うむ、ではな」
おお、ラウンさんが見事に折れた。入った時には真っ赤だったのに、今は見る影もない。まあ、折れなかったらデルを外すか、この国を出るかを選んだだけだけどな。でも、王族って凄いな。代官のラウンさんを言い負かしちゃうだから。
ん? いや、あれは言い負かしたってよりは王族ってのを利用したのが正しいか。うん、この先何かあったら王族のデルを使うか。
「(ちょっと、何考えてるの? 仲間になるなら身分を持ち込むなって言ったのは誰でしたっけ?)」
「(そんな事言ったかなあ)」
「(何を恍けてるのかしら? 言ったじゃないの。仲間にするなら王族として扱わないぞって。それなのに、使えると思ったら王族を前面に出すの? 都合良すぎじゃない?)」
「(……まあ、そうかもね。ただ、王族の身分を使わないと駄目な時は遠慮なく使うつもりだよ)」
「(まあ、それしか方法がないっていうならね。この先何があるか分からないし)」
「(そうそう、使える者は何でも使うさ)」
「(そうね。死ぬよりは確実にその方が良いわね)」
「もう、アローニさん! あんなに喧嘩腰にならなくても良いじゃないですか! 俺はずっと落ち着かなかったんですからね!」
「お、おう」
建物を出たら直ぐにルークが俺に詰め寄ってきて、唾がかかる位に興奮して捲くし立ててきた。さっきはラウンさんが真っ赤だったのに、今度はルークが真っ赤になった。周りを見ると、何事かとこちらを伺ってる人達が目立つ。
「ちょっと! 聞いてるんですか!?」
「ああ、聞いてる聞いてる」
「本当ですか?」
「本当だって」
「そんなに責めるなよ。アロも悪気があっての事ではないんだ。それに、今回のは私が原因だしな。私がもっと話していれば良かったんだ」
「デル様がそう言われるのであれば……」
「これでⅢの依頼を請けられる様になった訳だが、私は一つ不満があるのだが」
「なんだ?」
「さっき、ルークが私の事を『様』付きで呼んだ事だ。一体いつになったら、私の事を仲間と認めてくれるのだ?」
「そ、それは焦ってたからで! 何もデル様を仲間と認めていない訳じゃありませんから」
「ほら、また」
「!! すいません」
おお、ここでも王族としての身分を使って、ルークを一気に落ち着かせた。いや、この場合は使ってないか。ルークが勝手にそうしてるだけだな。
「まあまあ良いじゃないか。ルークだって言おうとはしてるんだ。それが上手くいかないだけで」
「おお、ナックが纏めた」
「お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「いや、さっき何も話さなかったから無言を貫くのかと」
「そんな訳ないだろうが。さっきのは、俺が話すよりもアロとデルに任せた方が良いと思ったから黙ってただけだ」
「ふーん、そっか。それよりも気になる事があるんだ」
「何だ? 今までと同じ冒険者の活動が出来るんだぞ。他に何かあるか?」
「いや今さ、さらっと言ったけどデルはまだ仲間じゃないからな。そこんとこは違うからな」
「っち。そこは気付かんで良いのに」
「そうはいくかよ。仲間には妥協って言葉はないんだよ」
「まあ、それは俺もだな。変なヤツを仲間にして、足引っ張られて死にたくないし」
「ちょっとナックさん、何て事を言うんですか!?」
「俺、何か間違った事言ったか?」
「いいや」
「アローニさんまでそんな事を言ってぇ」
「じゃあルークは死んでも良いのか?」
「それは……嫌です」
「だろ? だったら、俺達の言った事も分かるだろ」
「そりゃ……分かります。分かりますけど、何もデル様の目の前で言う事はないんじゃないですか?」
「いいや、それはまだ私の戦う姿を見せてないから仕方ないだろう。だから、『様』を付けるなと言っただろう。これは命令するしかないのか?」
「ははは、それは言えてる。だけど、呼び捨てにするのは仲間になってから言えよ」
「っち、だからそこは流してくれよ」
それでルークを除いて大笑いをする。うん。まだ連携の確認はしてないけど、こんな雰囲気だったら仲間にしても良いかな。それに、仲間にしないっていう選択肢はなさそうだけどな。




