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考えました

 「このままじゃ駄目だと思うんだ!」

 

 「いきなりどうしたんだ?」

 

 「ナック達は思わないのか?」

 

 「だから、何がだよ」

 

 「さあ、何でしょうね」

 

 ここは、一番下の町にある組合と同じ町中にある食堂リッキーだ。新人冒険者向けの食堂だ。新人向けだから、安いを売りにしている。味はまあ、言わないでおく。俺達はここに寄ってから組合に行く事にしている。それは、デルもルークも同じ所で寝泊りしている訳ではないからだ。デモも冒険者になったから、一緒の宿に泊まればとも思ったけど、ここにはデルの家族もいて寝泊り出来る所があるんだから、何もそこから無理に離れる事はないと判断したからだ。余談だが、デルが俺達の仲間になりそうだと知った宿の人は、いつデルを連れて来るのかとしつこく聞いてきた。

 まあ、それは良いとして。今はデルを除いて三人で食堂にいる。デルは王宮からだからいつも最後だ。最初はここの食堂の人も驚いていたけど、今では少しは慣れたと思う。その時は、『王子様が食べられる様な物は出せません』って言ってたな。それを聞いて、この国の王子をこんな安い食堂に連れて来ても良い物か少し悩んだ。本当に少しな。あ、後別に安いって言っても馬鹿にはしてないぞ。あ、今はそれどころじゃないんだった。

 

 「ここ何日か依頼をやってみて分かっただろ? デルが邪魔だって」

 

 「あー」

 

 「ちょ、ちょっと! 声が大きいですよ! それに、デル様を邪魔だなんて何て事言うんですか!」

 

 「だって、今までの事を思えば当然だろ」

 

 「だからって大きな声で言わなくても……。周りに人がいるんですから」

 

 ルークはオロオロしながら周りを気にし、つられて俺も周りを見ると今にも飛び掛ろうって感じで凄い睨んでいる。それも、今は客が誰もいないから給仕だ。客がいなくて暇だから、すき放題聞けるって訳だ。まあ、俺の声が大きかったから聞きたくなくても聞こえちゃっただろうけどね。

 

 「ごほん。とにかく、何か対策を考えないと冒険者として活動出来ないぞ」

 

 「そ、それは、まあ……」

 

 「ルークも感じてたんだな。ナックはどうだ?」

 

 「まあ、俺も感じてはいたさ。だけど、どうすれば良いのか分からないしな」

 

 「だからと言って、このままで良いとは思わないだろ? 組合からは町中で出来る依頼しかするなって言われてるし、それ以外だったら受け付けもしない。仕方ないから町中で出来る依頼を請ければ、依頼主達が揃って跪く。しかも全員だぞ。仕事をしようとすると、デルにはこんな事をさせられないからって休ませるんだぞ。それを俺達でアイツの分まで働く。それなのに、アイツは依頼を達成した事になる。しかもだ、俺達とデルが一緒なのは知れ渡ったから、仲間にしないって選択肢がない。これでどうしろって言うんだよ!? 俺達は冒険者だぞ? アイツが来てから森に入ったか? 入ってないだろ! これじゃあ狩りの腕が鈍っちまうだろ!」

 

 あー、一気に言ってしまった。ふう、何か言ってスッキリしちゃった。けど、言うだけじゃ駄目なんだよ。どうにかしないと。

 

 「お、おう。とりあえず水でも飲んで落ち着け」

 

 「はあはあ。んくっんくっ、ぷはあ」

 

 「落ち着いたか?」

 

 「ああ。それで、どう思う?」

 

 「どう思うも何も、アロが全部言ってくれたからな」

 

 「それで、どうすれば良いと思う?」

 

 「どうすればって……。それが分かればこんな話し合いしてないだろ」

 

 「ルークは何か思い付いたか?」

 

 「そう言われましても……」

 

 三人揃って腕組みして唸っている。そうだよなあ、良い解決策があればこんな悩まないんだよ。しかも仲間にしないって選択肢がほぼ出来ない。やったとしたら、この国では活動出来ないだろう。この国にいる間は仲間の振りをしつつ、次の国に入ったら別れるか? いや、それも出来ない事もないけど、もしそれで死なれでもしたら……。想像したくないな。

 

 「とにかく、何とかしないと冒険者としての俺達は終わっちまうぞ」

 

 「うーん、デル抜きで三人で依頼をするか?」

 

 「それだと、デルがいない事に不思議に思われるぞ」

 

 「じゃあ、お二人は今まで通りの依頼をして、デル様と俺で町中の依頼をするってのはどうですか?」

 

 「いや駄目だ。それだと俺達は狩りが出来るから良いけど、ルークが一人だけで依頼をする事になる」

 

 「それでも良いですけどお」

 

 「デルと二人っきりで平気か?」

 

 「うぐっ。そ、それは……まだ無理です」

 

 「だろう?」

 

 「さっきから駄目だって言うアロは何か思い付いたのかよ」

 

 「いや、何も」

 

 「なんだよ」

 

 「思い付かないから、こうやって話し合ってるんだろ?」

 

 「そうだけどさあ」

 

 うーん、どうすれば良いんだ? 仲間にしないと後々怖い。でも、デルは王族だから組合も含めて周りが凄い気を遣っている。そんな状況でいつも通りになんて出来ない。いつも見られてる感じがするし。

 

 「うーん」

 

 

 「どうしたのだ? 三人揃って難しい顔して」

 

 「「「あ」」」

 

 「悩みの主が来た」

 

 「は?」

 

 三人で良い案が出ない所に、何も知らないデルが来た。何とも間抜けな顔をして、自分の事を指差している。これは問題に気付いてないのか? はあ、自分で解決策を出してくれると有難いんだけど……。

 

 

 「ふむ、なるほど」

 

 「で、本人からは何かあるか?」

 

 「私も色々と考えていたんだ。何しろ、折角冒険者になったのに、やってる事は休むだけだからな。……いや、やってないな」

 

 「それで?」

 

 「これならバフに鍛えてもらってた方が良いってな。それで父上に相談したんだ。父上も王族で旅人になったからな。そしたら、王都を離れれば顔と名前が一致する者は少ないそうだ。実際、私も王都からは頻繁に出てないしな」

 

 「なるほど。その手があったか。王族とは言っても国全体に知れ渡ってるとは限らないのか」

 

 「……う、うむ。それを言われると何だか寂しい気持ちになるな。だが、それは本当だろうな。一部の本当に一部の者は知っているだろうが、国民全員となると知らない方が多いだろうな」

 

 「ふーん、そっか。じゃあここを離れるって事にして、どこに行く?」

 

 「そりゃ決まってるだろ」

 

 「だな」

 

 「「どこだ(ですか)?」」

 

 「「コライ」」

 

 「何でそこなんで? 確かに一番近いが」

 

 「まあ、それは行ってからのお楽しみって事で。じゃあ早い方が良いから今から行くか」

 

 「今から!? ちょっと早くないですか?」

 

 「いや、ここに残っても何もする事がないからな。それに、準備ったって何もないだろうが」

 

 「そりゃ、そうですけど……」

 

 「ルークは良いとして。デルはどうなんだ? 一応王族なんだから、何かあるだろ?」

 

 「一応って。まあ、ない事もないが、父上達に挨拶をするくらいだな」

 

 「ふーん、分かった。じゃあ、準備が整ったら門前に集合しよう。コライなら一日で着くけど、今回は途中で休憩を挟もう」

 

 「どうしてだ?」

 

 「そりゃ、これから仲間になるかもしれないんだ。いつも宿に泊まれるとは限らないからな。野宿も経験しておかないとな」

 

 「ふむ、なるほど。分かった、それなら準備をしてくる。では」

 

 「じゃあ、俺も準備してきますので。後ほど」

 

 二人は慌しく出て行った。ルークは直接王都に来たから大丈夫だろうけど、デルはどうだろ。準備って本当に挨拶だけだったりして。それはないか、シムさんも旅に出た事があるから大丈夫だろ。

 

 「俺等はどうする?」

 

 「んー、宿を引き払ってからプロさんの所に行くか」

 

 「あー、そう言えばちょくちょく行きますって言っておきながら、行ってないな」

 

 「だろ? 出来てるとは思わないけど、コライに行く前に確認だけはしておかないとな」

 

 「じゃあ、そうと分かれば行きますか」

 

 出る時に食堂の人達から凄い注意された。デルは王子様なんだから、もっと言葉遣いを選べって。それに、呼び捨てなんて以ての外だって。うーん、こればっかりは仕方ないか。この国にいる間だけでも、様を付けた方が良いのかな。はあ、めんど。

 

 

 

 「プロさーん、いますか?」

 

 「そんな大きな声を出さんでも聞こえとるわい! なんじゃお前さん達か、来る来ると言いつつちっとも来んじゃないか」

 

 「すいません。それで、出来てますか?」

 

 「ん? 出来てるには出来てるが、最後の調整もあるからお前さん達に確認してもらおうかとな」

 

 「もう出来てるんですか!?」

 

 「何じゃ出来てると都合でも悪いのか?」

 

 「いえいえ、早いなと思って」

 

 「まあ、良いわい」

 

 主にナックだけど、剣の具合を確かめている。その何と言うのか、あれは剣なのかって思うくらいに大きい。もちろん刃の部分も長くて幅もあって分厚いんだけど、全体の長さがナックと同じくらいだ。あんな大きいの振り回せるのか? 持ってみたけど、相当重い。俺じゃあ精霊術を使わないと無理だ。確かにナックが注文してた通りだと思うんだけど、それにしても大きくしすぎじゃないか? 弓も使うって言ってたけど、これ完全に弓は飾りになるじゃないか。だって、背負わないと持ち運べないだろうし。

 

 「どうじゃ?」

 

 「うん、良い感じですね。重さも幅も長さも言う事なしですね。ただ、持ち手が少し滑りますね」

 

 「ふむ、じゃあこれを巻いてみてどうじゃ?」

 

 どこから出したのか不明な革を巻いた。見ても何の革か分からない。生きてる状態は良く見てるけど、革になった状態は分からない。

 

 「うん、良い感じですね」

 

 「おお、そうかそうか。じゃあ暫くはこれを使って良いぞ。使ってるうちに何か不満が出るだろうからな」

 

 「いえいえ、そんな訳にはいきませんよ」

 

 「いいや、ワシは満足のいく物を作ったつもりじゃが、使ってみないと本当の使い心地が分からんじゃろ。だから、金はいらん。それに、戻ってくるんだろ?」

 

 「ええ、コライに行こうと思ってるんで」

 

 「じゃあ、戻ってきてからで良い」

 

 「でも……」

 

 そんな遣り取りをしつつも、何とか材料費だけでも払う事が出来た。払う事が出来たってのも変な言い方だけどね。まあ、払ったと言うよりは押し付けたってのが正しいけどね。材料費だけでも今泊まってる宿よりも断然高いよ。こんなにも高額なのに、満足してからで良いって本当に商売する気あるのかな。俺が言うのも何だけど。これで俺達の準備は整った。さあ、行くか。


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