王族って厄介だ
「これはどこに運べば良いんだ?」
「ああ、それはあっし等がやりますんで! どうぞ、中で休んでいて下さい!」
「そうはいくか。これは依頼なんだから、休んでいては駄目だろう」
「いえいえ。王子を働かせたとあっては、あっし等の立場がありやせん。ですので、どうか中でお休みになっていてくだせえ」
「む、いや。しかしだな」
「本当に大丈夫ですから! どうか、どうかお休みになってくだせえ」
あの後、三人揃っていつまでも頭を上げないから、依頼に来た事をもう一度言おうとしたら、追加で四人も来た。まあ、そこからは言わなくても分かると思うけど。全員が同じ姿勢になっちゃった。もうここまで来ると、笑うしかないよ。
それで、何とか話せる状態になってもらってようやく依頼を出来る事になったんだ。なったんだけど、デルだけは仕事をしようとすると直ぐに止めにくる。人手が足りないから依頼したんだろうに、これじゃあ意味がないだろ。
「(でもさ、ああなるのは納得じゃない? ルークは一緒に仕事をする仲だけど、あの人達は仕事をさせる側だからね)」
「(ふーん、そんなもんかねえ)」
「(そういうものよ。アロだって私と契約してない時に、私に何かをさせるって出来ると思う?)」
「(あー、それは無理だな。今でこそ、キューカと契約してるからこんなに気安く話してるけど。契約前だったら、話す事も会う事も無理だったな。それに、精霊殿に行こうとも思わなかったし)」
「(でしょ? それを考えれば納得出来るでしょ。それに、デルから来たんだから驚きもするわよ。しかも、冒険者として仕事を手伝いに、よ?)」
「(なるほどねえ。でも、これじゃあ冒険者としては駄目だよな。仕事をしてないのに、依頼達成になるんだから)」
「(それはこの国にいる限り、無理じゃない? だから、今回みたいな手伝いじゃなくって、狩猟関係にしたら?)」
「(うーん、冒険者になりたてだから、色んな依頼を請けたいんだけど。これじゃあ仕方ないか)」
組合からもデルを試しで仲間にするのは良くないけど良いとして、間違っても狩猟や採集で森には入らない様にって強めに言われたからなあ。だから、町中で出来るこの依頼にしたんだけど……。これじゃあ、冒険者とは言えないな。
「デル、それは俺が運ぶから休んでろよ」
「いや、しかしまだ働いてもないのに、休むなんて……」
「や・す・ん・で・ろ」
「む。う、うむ。分かった、そうする」
それでやっと納得したのか、畑から出て行って家の方へと歩いていった。うわ、背が寂しそうだな。明らかに落ち込んでるじゃないか。でも、こうでもしないと仕事にならないからな。
「助かったよ、兄ちゃん。王子様を働かせるなんざ、恐ろしくて。まだ始めたばかりだというのに、もう終わったみたいに疲れちまったよ」
「いえいえ、俺達も依頼を素早く終わらせたいですからね。その為にはデルは邪魔と言うか何と言うか」
「ちょっと待ってくれ! 俺は邪魔だなんて少しも思ってないぞ!?」
「分かってますって。人手が足りないから依頼を出したのに、来た冒険者の中に王族が混じっていれば戸惑うのは当然ですよね」
「う、うむ。ところで、さっきから王子様の事を呼び捨てにしているが、兄ちゃん達とはどんな関係なんだ?」
「関係、ですか。シムさんとデルから仲間にしてくれって頼まれただけですよ。それに、まだ仲間にするかどうかは決めてませんよ」
「シムさん? っ!! まさか、王様の事か?」
「ええ、そうですよ」
「おいおい、王様に頼まれるって一体兄ちゃん達はどこの国の王族なんだ?」
「俺達三人はどこの王族でもないですよ。俺とあそにこいる背の高いヤツは、レントの森から来たただの冒険者です。で、もう一人はこの国の農家の子ですし」
「ほー、それでどうして王様から頼まれる事になるんだ?」
「昔、シムさんと俺の両親が旅人仲間だったんですよ。それで、仲間の子がいるから会いたいって。最初はシムさんが頼み込んできたんですけど、断って」
「断った!?」
面白い人だな。この短い間に安堵した顔や驚いた顔、色んな表情をするな。今も驚きすぎて目と口が開きっぱなしだ。
「断ってもどうしてもって頼み込んできたので、まずは戦えるかどうかを判断する為に三人と戦いましたね。それで何をどう思うところがあったのか分かりませんが、デルも冒険者になって仲間になりたいって言い出して。それで、試しで仲間にしてるって訳です」
「……凄すぎて訳分からんな。でも、気を付けた方が良いぞ」
「何がです?」
「さっきから兄ちゃんは王様達の事を気安く名で呼んでいるが、そんな事が周りに知られたら豪い騒ぎになるぞ」
「そんなもんですか?」
「そんなもんって!? 兄ちゃん、悪い事は言わねえ。せめてこの国にいる間は、呼び方に気を付けた方が身の為だ」
「その方が良いんですかね。俺とあっちのはレントから来たから、王族で偉いんだぞって言われても何も思う事はないんですよね」
「ううむ、それは兄ちゃん達がこの国に生まれてないからだろ。それでも、兄ちゃん達が何も思ってなくても周りは違うからな。町中でさっきみたいに気安く呼んでみな?」
「よ、呼ぶとどうなるんですか?」
下から覗き込んで脅すように近寄ってくる。戦ったら絶対に負ける気はしないんだけど、何故か怖さがある。
「周りにいる者で囲んで、取り押さえるだろうな。それで、後は分かるだろ?」
「ど、どうなるんですか?」
「こうっ! だ」
それは非常に分かりやすく、拳を俺に突き出した。今は一人だから良いけど、もし囲まれて同じ事をされたら……。人数にもよるけど、逃げられないかな。いや、もし中に精霊と契約してる人がいたら……。うわ、おいおいさっきまで気安く声を掛けてたのに急に怖くなってきたじゃないか。
「どうやら分かった様だな」
「は、はい」
「それにな、もし兄ちゃん達が仲間にしないって事になったりでもしたら……」
「したら?」
「こうっ! こうっ! こうっ! こうっ! だ」
さっきは一撃だったけど、今度は両手両足を使っての攻撃だ。仲間にしないだけで、そこまでするか?
「それは冗談ですよね?」
「冗談だと思うか? 試しに町中で王子様の事を呼び捨てにしてみな。そしたら、さっき言った事が嘘か本当か分かるぞ。もっとも、本当に起こるぞ。しかも、俺の予想よりも凄く」
「いやいや、まさかね……」
冗談だろ? じゃあこうやって一緒に行動してて、仲間にしませんってなれば囲まれて、攻撃される? 最悪の場合、この国で冒険者として活動出来なくなる? ちょっと待ってくれよ。じゃあ何か? 一緒に行動してるって事は仲間にするって決まってるのか?
「ちょっと! あんた、何ぼさっとしてるのさ! さっさと仕事をしておくれよ」
「お、おう。分かったって。さあ、兄ちゃんも早く終わらせちまおう」
「は、はい」
俺達は軽い気持ちでデルの事を仲間にするかどうか試そうって思ってたけど、どうやら思い違いみたいだ。ゲンさんの言う通りだとしたら、シムさんの思い通りになっちゃうじゃないか。俺達と上手く連携出来なくても、戦力にならないのだとしても仲間にしないといけないってか。はあ、これはやられたな。もしかして、そこまで考えて試しでも良いからって言ったのか? だとしたら、シムさんが上手いのか、俺達がその企みに気付かない程に馬鹿なのか。後は、俺達がデルの存在を甘く見ていた事、かな。
「(だから言ったでしょ。あの態度も納得だって)」
「(いや、ああなるのは納得って言っただけで、仲間にしないといけないとは言ってないぞ)」
「(そ、そうかもしれないけど……。そこから予想しなさいよ)」
「(予想、予想ねえ。出来なかったから、この状況なんだしな。でも、まだ仲間にしないといけないって事はないよな?)」
「(まあ、無理なんじゃない? さっきの話だとね。諦めて仲間にするしかないんじゃない?)」
「(うーん、何だかなあ。仲間ってのは命を預けあうんだから、人に強制されてってのは避けたかったんだけど)」
「(まあ、今回の事は諦めて、次に活かせる様にすれば良いんじゃないかしら?)」
「(……なんかさ、それってルークの時と同じ事言ってないか?)」
「(……まあ、そういう事もあるわよ。それにルークとデルじゃあ身分が違うじゃないの)」
「(そうだけどさ……)」
ルークの時は押し掛け、デルは頼み込み。身分は違うけど、方法は同じだな。俺達、と言うよりも俺は押されると弱いとか? うーん、これは気を付けないと駄目だな。押されたら弱いって知られたら、仲間が増える一方だ。まあ、そんなに寄ってくるとは思えないけどね。はあ、後でナック達にも相談だな。
「ほら、兄ちゃんもぼさっとしてないで、運んでくれ」
「はい、分かりました」
ナック達に相談も良いけど、今は依頼をしっかりとやらないとな。何の為に来たのか分からなくなっちゃう。それに、デルが手伝えないからなお更だな。王族を仲間にしてるから、依頼をいい加減にしてるって噂をされたら活動出来なくなるしな。
「よしっ! どんどん運びますから収穫お願いしますね」
「お、おう」




