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慢心

 「今日はさ、大物を狙いに行かないか?」

 

 いつもの三人が集まって直ぐに、そう提案してみた。なんで大物を狙いたいかと言うと、もう直ぐ大人への儀式があるので、皆を驚かせたいんだ。

 

 「なんで急にそんな事言うんだ? いつも通りの獲物じゃ駄目なのか?」

 

 「そうだよ、大物なんて私たちには早すぎるんじゃないかな?」

 

 二人ともに大物を狙うのは消極的か。まあ、いつも通りでも問題ないんだけど。ここは、俺の我侭を通させてもらうか。

 

 「いつも通りでも良いんだけどさ。ほら、もう直ぐ儀式があるだろ? だから、その前に大物をもう狩れるんだぞって示したいんだよ」

 

 儀式と言う言葉を聞いて、二人とも考え出した。

 

 「儀式かあ。でもさ、何も大物を狩れないからって儀式に参加できないって訳でもないじゃない?」

 

 そう言うのはキューだ。この5年で背も伸びて、大人らしくなった。ついこの前までは大人しかったのに、今は自分の意見も結構言える様になった。性格は慎重だ。だから、今まで通りでも良いと思ったんだろう。

 

 「確かにキューの言う通りだな。儀式の参加条件が大物を狩る事じゃないからな。だが、俺は賛成するぜ。なにより、面白そうだからな!」

 

 ナックは賛成の様だな。こいつは俺よりも背が高くなって、大人と言われても間違いじゃないだろう。それに、森人族は全体的に細身の者が多いのに、こいつはがっしりとした筋肉質なのだ。何より、面白い事が好きというのが俺と同じで気が合うのだ。

 

 「もう、ナックが賛成したら私だけ反対しても意味ないじゃん」

 

 「じゃあキューは行かないって事で」

 

 俺がそう言うと、キューが慌てた。キューだって本当は大物に興味があるはずなんだ。だけど、儀式後じゃないと大物を獲れない事になってるから、一応反対したって事かな。

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ。何も反対って言ってないでしょ!?」

 

 「じゃあ、賛成なのか?」

 

 「う、うん。でも、儀式前に大物を狩る事は禁止されてるから、今まで通りでも良いかなって思ったの。まあ、私も興味はあったし」

 

 「よし! じゃあ、いつもの池を目指して、大物を探して更に奥に行ってみようか」

 

 俺がそう言うと、二人とも頷いてくれた。俺たちは池の周りを狩場にしてるから、奥には行った事がないんだ。だから、初めての場所に足を踏み入れるって事と大物を狩る事で不安がある。けど、新しい事に挑戦して、尚且つ自分たちでも大物を狩れると言う自信で興奮もしていた。まあ、大物を狩った事もないのに自信もあったものじゃないけどな。

 

 

 

 「ねえ、今更だけど。大物って何を狙うつもりなの? 言い出したんだから何を狙うのかは決めてるんでしょ?」

 

 池に着いて獲物を探そうかって時にキューが聞いてきた。本当に今更だな。何を狙うのか知らないで来るなんて。まあ、大物としか言ってない俺が悪いのかな。

 

 「本当に今更だな。目標は親ルスだな」

 

 「親ルスかあ。確かにそれは大物だな。でも、狩れたとしてどうやって持ち帰るんだ?」

 

 「そんなの決まってるじゃないか。ナックが運ぶんだよ、当然だろ?」

 

 俺が当たり前に様にナックが運ぶ事を考えてた事を言うと、二人から待ったが掛かった。

 

 「ちょっと待て! 確かに力には自信があるが、親ルスを運ぶなど無茶だぞ。精霊術を使えないんだから」

 

 「そうだよ。幾らナックが力持ちでも無理だよ。じゃあ、狩るのは私たちでやって、運ぶのは大人たちに頼る?」

 

 「ごめんごめん。ちょっとからかっただけだよ。俺が大物を狩るって言い出したんだぞ? 何も考えてないはずがないじゃないか」

 

 「そ、そうだよな。それを聞いて安心したよ。運ぶのにどれだけの時間が掛かるのか分かったもんじゃないからな。で?」

 

 ナックが明らかにほっとした表情になった。そりゃそうか。親ルスを運べなんて、精霊術を使えないんじゃ無理ってものだ。幾ら力自慢だと言ってもな。早く精霊術使えたらな。

 

 「小屋に親ルスも運べる頑丈な荷車を用意したから、それで運ぼうかと」

 

 「良かったぁ。ナック任せなのかと思ったよ。まあ、それでも私は力になれないんだけどね。でも、荷車に載せるのが大変そうだね」

 

 「まあ、それ位なら大丈夫だろ。集落まで運べって言われてから、荷車までになったんだ。絶望からは開放されたよ」

 

 そうだろう。最初に事実上無理な事を告げて、それから策を告げる。そうるすと、無理な事から出来るかもって思えちゃうもんだ。

 

 「じゃあ、運ぶ手段も分かった事だし。そろそろ、探しに行くか」

 

 

 それからは、一応荷車を確認してから奥に進む。初めてだからなのか、いつもと違う雰囲気の様だ。何が違うかって言葉には出来ないけど、こう湿っていて薄暗い感じかな。二人も何か感じるところがあるのか、いつもより緊張しているみたいだ。ここは、俺が場の空気を和ませるか。

 

 「なあ、二人とも。親ルスを狩った事を見た事あるか?」

 

 「俺は兄たちが狩る時に一緒に行ったよ。まあ、俺は狩りには参加していないんだが、勉強だな」

 

 「そうなんだあ。私はないなあ。狩るとしてもランが主だし、後は野草を摘む位だから」

 

 「そっか。俺も父さんについて行った時に偶然狩ったなあ。まあ、その時は俺も参加してないんだけどな。でも、解体は手伝ったな」

 

 いやあ、あの時は怖かった。幾ら気性が穏やかで好物は果物だとしても、当時のいや今の俺よりも大きかったからなあ。もし、攻撃されてたら死んでたかもな。

 

 「ナックの兄貴たちはどうやって狩ってたんだ?」

 

 「えーっと、遠くから弓で一斉に、だな。一応剣は持っていたんだけど、接近は危ないって注意されたな」

 

 「やっぱりそうだよな。俺の時も弓だったよ。あんな大きいのに剣で狩るとか想像できないしな。因みに、どれだけ射掛けた?」

 

 「ん? んー、そうだなあ。それぞれ3射だから合計6射だな。そういうアロの親父はどうだったんだ?」

 

 「そうだな。2射だったかな。最初に右目を撃ち抜いて、それから暴れて突進して来たから頭にもう1射だったな」

 

 「へー、それは凄いな。やっぱりアロの親父さんは凄いんだな。内の親父でも2射は無理じゃないかな?」

 

 「私のとこなんて、親ルスを狩った事ないと思うから凄さが分からないや」

 

 まあ、狩った事がなくても不思議じゃないかな。小型の獲物と野草だけって家も結構あるしな。それに、基本的には親ルスは一人では狩りをしないんだ。まあ、俺の時は偶然見かけたから狩ったって言ってたし。

 

 「いや、凄いって。親ルスは大きいから当てやすいってのはあるんだけど、基本的には二人以上いないと駄目なんだよ。暴れて突進して来ると、もの凄い怖いんだ。参加してない俺だって怖かったんだから。あんな勢いで来られたら手元が狂っちゃうよ」

 

 そうなんだよなあ、1射目は大丈夫なんだけど、それ以降がなあ。あの暴れるルスに的確に狙わないとこっちが危ないし。だから、目標を絞らせない為に複数で狩るのが基本だ。ただ、父さんは偶々見つけたからって理由で狩ってたけど、普通は気軽に狩るものじゃないし。父さんは異常なのかな。

 

 「俺も怖かったよ。親ルスだと分かったから見逃すかと思ったら、ついでだからって理由で狩っちゃったんだぞ。俺としては心の準備どころの話じゃなかったよ」

 

 あの時は生きた心地がしなかった。あ、獲物がいた。それも大物じゃないか。って軽い感じだったからなあ。

 

 「うわ、ついでに狩る様な獲物じゃないぞ。というか倒せたのは良いとして、どうやって運んだんだ?」

 

 「ん? ああ。父さんは精霊術を複数使えるから能力強化が凄いんだよ」

 

 「へー、てことは樹の精霊術だけじゃなくて他のも使えるんだぁ。私のとこは樹だけだったかな。他の精霊と契約したって言ってなかったし。じゃあ、アロのお父さんは外に出た事あるんだ」

 

 「うん、そうみたい。族長の話を聞いて、外に興味を持ったんだって言ってた。あ、族長って言っても今のじゃなくて先代ね」

 

 「そっか、精霊術を複数使えるからアロの親父さんは凄いのか。上の兄が土の精霊術も使えるけど、アロの親父さん程じゃないからなあ。てことは、3つ以上と契約してるのか。強くなる為には外に出て色んな精霊と契約した方が良いのか。ところで、アロは外に出るのか?」

 

 ナックが親父さんも外に出たんだからお前はどうなんだって感じで聞いてきた。

 

 「んー、外には興味ないな。だって、森の中で生活出来るのにどうして外に出るんだ? 余程、外に面白い事があれば別だけどな。だから、父さんの話を聞いても興味は沸かないな」

 

 そうなんだよな。父さん、いや母さんもだけど、一度は外に出た方が俺の為になるって言うんだよなあ。それに、兄姉にも言ってたみたいだけど、二人とも出てないみたいだし。だからかな、俺に外の魅力を力説してる。

 

 「そういう二人はどうなんだ? 外に興味はないのか?」

 

 「私は興味ないかな。と言うよりも、森の外は怖いって聞くし」

 

 「森の中でも十分怖いと思うけど?」

 

 「いや、そうじゃなくて。母さんがね、昔に外に出た事あるんだって。何人かで出掛けたんだけど、攫われそうになったんだって。だから、動物が怖いって事じゃなくて、他の種族が怖いって事」

 

 「なるほどなあ。俺も父さんから色々聞くんだけど、怖い思いをしたってのが一回や二回じゃないんだよ。だから、俺は興味よりも恐怖の方が勝ってるって事。ナックは?」

 

 「俺は……一度は出てみようと思うんだ」

 

 動物よりも他の種族が怖いって話をしたのに、それでも外に出たいのか。何か、強い拘りがあるのか?

 

 「なんでだ? 森の中で生活できるんだぞ? わざわざ外に行く必要がないじゃないか」

 

 「んー、そうなんだけどな。俺の目標は強い男になりたいんだ。だから、外に出て他の精霊とも契約をしたいんだ」

 

 「強い男ねえ。樹の精霊術だけじゃ駄目って事か? 樹だけでも十分だと思うけどな」

 

 「いや、そうなんだけどな。何と言うか、こんな事を言うのは恥ずかしいんだけど。憧れなんだよ……アロの親父さんが」

 

 最後の方は小声になっていったけど、しっかりと聞き取れた。いや、まあ。父さんを憧れているのは嬉しいよ、俺だってそうだから。でも、それで外に出るかと言われると違うと思う。キューは女だから憧れとかはしないんだろうな。

 

 「ふーん、そっか。父さんを憧れているのは俺としても嬉しいよ。さあ! 話はこの辺で切り上げて、そろそろ本格的に探そうか。緊張も解れたろ?」

 

 話をしながらだけど、周りはしっかりと注意していた。そして、池から結構奥に入ってきた。さあ、話はここまでで狩りの心構えにならないとな。二人も頷いて真剣な顔になった。


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