私は騎士なのだが初めての女子会で話す内容がアレとは思わなかった
本当はこれの三倍くらいの文量を目指したかったのですが、話を膨らませられるだけの技量は、今の私にはありませんでした。
フレイファス公爵領の中心にある冒険者の店『暁の月桂樹亭』で、私達は食事を楽しんでいた。
召喚されてきた勇者によってもたらされた、女子会という文明。
素晴らしいではないか!
いかに男ばかりの騎士団の出だった私であっても、四六時中男と一緒だと疲れるというものだ。
たまには聞かれたくない話をしたい!
かくして私は、初の女子会デビューをしたのだった。
「――それで騎士さん」
「ん?」
私は盃から口を離し、声のする方へ向き直った。
すっかり出来上がった僧侶が、ジョッキいっぱいのビールを掲げていた。
この会合では、肩書で呼び合う決まりがある。
だからみんなの本当の名前は知らないし、私も教えない。
「騎士さんは生理の時、どうやって戦ってます?」
「え?」
え?
そこ訊いちゃうの?
まずくない?
「え?」
「え?」
いやいやいやいや!
き、貴様!
私にそれを喋れと言うのか!
「……」
私は、恐る恐る振り向いた。
他の皆は各々別の話に花を咲かせつつ、しばしば視線を私に寄越す。
何だ、貴様ら。
つまり「空気を読め」と?
その……すまん。
「あ、僧侶さん! またいつもの話かい?」
魔法使いが横合いからやってくるなり、僧侶にしなだれ掛かる。
なるほど、これが絡み酒か。
「だって最初にそれなりにエグい話を振っておけば、それくらい話してもいいじゃんってなりません?」
「まあね~。ちなみに、アタシゃ水魔法で都度、洗い流してるよ」
嘘だろ……!
私は思わず立ち上がってしまった。
「ま、魔力の無駄遣いではないのか!?」
「血の匂いに誘われてやってくる魔物もいるからね」
それは、一理ある。
ただ、もう少しコストを抑えた対処法でも良かろうに。
「匂い消し付きの綿瓜を入れれば良いのではないのか……」
私の消え入りそうな声に、周りからは苦笑いが漏れ出た。
綿瓜は、実がケーキのスポンジのような柔らかさであり、水分をよく浸透させる。
「欠点があるのは認めなくもないが……」
あれ一つで一日は保つが、難点もある。
僧侶もそれには覚えがあるらしく、浮かない表情だ。
「アレ、引っこ抜いたら中に残るんですよね……」
「ああ。しかも血が乾いて中でくっついた日にはもう、目も当てられん」
私が同意を示せば、二人も頷いた。
「それに、匂い消しも万能じゃないですからねえ」
と僧侶。
「まあ時には役に立つから、そいつを瓶詰めして保存料と混ぜたりもしているよ」
と魔法使い。
……ん?
待ってくれ。
瓶詰めして保存だと!?
それは、些かの問題があるのではなかろうか!?
「――やっ、役に立つとは何だ!? そ、その、高く売ったりするのか!? 霊薬と称して!」
思わず立ち上がってしまった。
私はまるで天啓が如く、あらぬ想像をしてしまった。
瞬時にそこへ思い至ってしまう己の突拍子もない思考が、ひどく恐ろしい。
「その……アタシの場合、調合して触媒にしたりとか、なんだけど、さ。とりあえず、着替え、用意するかい?」
「えっ」
「下を」
「ふむ、下……」
……嗚呼!
なんという事だろうか!
下を見れば、こぼれた赤ワインが見事に股から滴り落ちていた!
う~ん……南無三、やらかした……。
たとえ酒に気を惑わされていたとはいえ、この恥辱は永きに渡って私を苦しめる事だろう。
それは、堪え難い!
いっそ火の中に身を投じてもろとも蒸発したい……!
……くっ、殺せ!
この斜め上にしか頭の働かぬ酔っ払いを、誰か殺してくれ!
「あのぉ、アタシの魔法で良かったら、洗うけど……」
「聞こえてないみたいですね」