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Hidden Pride  作者: KTR
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第二章 御前演舞 2.知らせ

「お前ぇ……っ!」

「あ、あはは……すみません」


 全身を青痣だらけにしてベッドへ仰向けにもたれかかる僕を、アリス様が恨みがましい視線で睨んでいた。


「午後からはアタシと買い物に行くって言ってたのに! なんでそんなにボロボロに擦り切れちゃってるのよっ! これじゃあ街を連れ回せないじゃないの!」

「いや、本当はもっと早く一本取って次の修行に移行したかったんですけど……ちょっと無理がありましたね」


 結局あの後、二時間ほど休みなしでリュージさんと打ち合いをしていたが、僕はただの一本も取れず体を打たれ続けてしまった。


 時に斬撃を流し、時に『光屈折(リフレクト)』を使って翻弄しても、こちらの意識の隙間を縫うように放たれる斬撃に対応出来ない。リュージさん曰く、今まで斬り合いを能力頼りにしてきたツケが返ってきてしまったらしい。これからは、能力を自制するという訓練も兼ねて、本格的に『人心断聞(ヒアフラグメント)』を封印しなければならない。

 この能力は生理現象みたいなものなので、相当難しい訓練になるだろう。


 逆に『光屈折(リフレクト)』は訓練中にどんどん使っていけとのことだった。今はとにかく新しく得た能力に慣れることが大切なそうな。

 これからの課題をあらかた整理した僕は、ベッドから背を離して立ち上がった。


「じゃあちょっと、お風呂に入って買い物の準備をしてきますね」

「え、行けるの?」

「はい、休んでたらだいぶ楽になりました」


 士官学校で非公式決闘をした後の傷と言ったら今の比じゃなかった。それを思えば、この程度の傷、買い物をする程度なんら障害はない。

 アリス様に少し待ってもらうよう頼み、僕は支度を始めた。


☆ ☆ ☆


 支度を終え馬車に揺られること一時間。

 僕とアリス様、他数名の見習い近衛兵は商業区にやって来ていた。


 中央圏から僅かに離れた場所にあるものの、ここらでは唯一の商業地区ということもあって大変栄えており、辺り一帯は大勢の人で埋め尽くされていた。騎士が暮らす、中央圏の外周部と隣接しているためか、士官学校で見たことがある顔もちらほらある。


「さ、じゃあ今日はいっぱい遊ぶわよ。別に何が買いたいと言うわけではないけど、こうして気分転換も大事だしね」


 そう言ってアリス様はぐぐぐと伸びをした。伸びきってしばらくした所でアリス様がふらりとバランスを崩したので、それを抱きとめて支えてあげる。その瞬間近くの近衛兵達から殺意を向けられたのがハッキリと分かったが、僕は気にしない。


「さ、行くわよ!」


 元気そうに声を上げて、アリス様は歩き出したのだった。


☆ ☆ ☆


「あのさ、いくらお腹が減ってたからってライスを四回もおかわりする王族がどこにいるのよ」

「い、いやあ……、だってリュージさんとの特訓後なにも食べてなかったんですよ。仕方ないでしょう?」

「それはそうだけど……だからって食べ過ぎでしょ」

「ま、まあ大食いなのは認めますけど。でもアリス様だってコーンスープ三回くらい頼んでたじゃないですか」

「そっ、それは良いのよ。だってアタシは三回だし! お前は四回。アタシは三回! この違い分かる?」

「ふっ――数の差なんて大したことじゃないですよ。僕もアリス様も、馬鹿みたいに料理を食べたことに違いはないんですから」

「馬鹿って言ったわね! 主に向かって馬鹿って! もうムカついたっ! お前なんてクビにしてやる!」

「あちょっ、すみません! それだけは勘弁して下さい!」


 ある程度買い物を済ませた後、僕とアリス様は近くのレストランに足を運んでいた。メニューには、王族が口にするにはどう考えても不釣り合いなほど安価な数字が印字されていたが、アリス様は美味しそうに食べている。実際、ここの料理はおいしかった。


「それにしても、アリス様って凄い自由が許されてますよね」

「そ、そうかしら?」


 僕の質問を受けたアリス様の声が僅かに上ずり、なぜか頬を一滴の汗が流れ落ちた。


「はい。護衛を引き連れているとは言え、普通なら一国の姫が気楽に街に降りるなんて状況ありえないと思うんですけど」


 護衛というのは、アリス様に近付こうとする不審者がいないかを僕らの見えない所で監視している近衛兵見習い達だ。

 僕は純粋な疑問からアリス様に問いかける。

 だが――、


「まあアタシの家は特別なのよ……」


 そう言ってアリス様は僅かに目を逸らす。


「あの……」

「そんなことよりも次はどこに行く? 特別にお前が決めていいわよ」


 アリス様がすくりと立ち上がった。

 僕もそれに続く。

 彼女が断ち切ってしまった会話。それが何なのか、僕にはまったく分からない。


 だけど一つだけ。彼女が僕に何かを隠していることだけは分かり、胸の中に暗く重い物が落ちてきたような気がした。


☆ ☆ ☆


 買い物も済ませ、次にどこへ行こうかという折になり話し合っていると、一羽の鳩がアリス様の肩に止まった。


「ん? これ伝書鳩だわ」

「あ、ホントだ」


 アリス様が鳩の足に(くく)り付けられた小さな紙を手に取ると、鳩はどこかへと飛び去ってしまう。

 バタバタとアリス様の間近で翼を羽ばたかせたことで彼女の顔に羽根がかかってしまった。


「きゃっ! ちょっと! あの鳩めぇ……っ!」

「いや、鳩にキレてどうするんですか。子供ですか?」

「お前ちょっとアタシに慣れてきてるでしょう。いい加減にしないとホントにクビ――」


 ジャンピング土下座を発動した。石張りの地面に膝を打ちつけて無言で悶絶したが、自業自得だ。手を差し伸べてくれたアリス様の助けを片手で制する。こんな僕にでも、ちっぽけなプライドがあるのだ。


 激痛から立ち直った僕は、立ち上がってアリス様と寄り添うようにしてその手紙を覗いた。


「なんでしょ、これ」

「待ってなさい。えっと……、アリス=エーゼルク殿下及びその目付騎士・リオン=クローゼ殿へ……。貴殿らの御前演舞初戦の日程、及び対戦相手が決まったことをお知らせする……日程は……」

「――――っ」


 ごくりと、僕は生唾を飲み込んでいた。

 とうとう決まったのだ。

 相手が誰なのか、いつが初試合なのか。

 僕の御前演舞が。



「――――貴殿の初戦は五日後に行う。場所などの詳細は後日追って連絡する」


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