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Hidden Pride  作者: KTR
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第三章 悲しき予兆 3.思い出

 部屋に入るなり流れるような動作でベッドインしたぐーたら姫アリス様だったが、どうやらなかなか寝付けないらしく、彼女はやたらと僕の話を聞きたがった。


「ねえねえリオン、騎士になるって決めたとき、お前の両親はどう言ってたの?」

「僕の親ですか……実は僕両親の記憶がなくて、ずっと施設で暮らしてたんです。物心ついたときから養護施設で他の子どもたちと剣の稽古をしてましたね」

「う、ごめん……。あんまり聞いてほしくない話題だった……?」


 アリス様が申し訳なさそうな目を向けてきたが、僕は笑顔でそれを否定した。


「いえ、別に大丈夫ですよ。それに、施設での思い出は僕にとって大切なものだから、アリス様にも知ってもらいたかったりするんですよ」

「ふーん、どんなの?」

「剣の稽古ばかりしてました」


 布団の中に顔を半分うずめながらクスクスと小さく笑うアリス様。


「ていうことは、リオンは子供のころから何も変わってないのね」

「あはは……どうなんでしょ。この特訓っていうのは僕らが勝手に言っていただけで、今にして思えばチャンバラと変わらないものなんですけどね」

「でも結局は戦っちゃってるんでしょ? 戦って、負けたら泣くんでしょ?」

「なっ、ちょっとアリス様それは卑怯でしょ!」

「卑怯じゃないですぅ!」

「卑怯ですよ!」


 実は人の前で泣いたのはあれが初めてだったので密かに忘れようとしていたのだが、慰めてくれた張本人がその話を掘り返してきた。泣いている姿を見せたのが女の子――しかもアリス様ということもあり、僕は羞恥のあまり穴があったら入りたい気分になる。すぐ近くにベッドがあるのでその中に包まってやろうかとも思ったが、すでにアリス様が真ん中に陣取ってしまっているし、なんだかエイナさんと同じ姿になりそうなのでやめておくことにした。 

 ギリギリのところでエイナ化を思いとどまった僕は、一つ咳払いをして話を続ける。


「ま、まあ泣いたどうこうは置いといて」

「あ、逃げた」


 無視しなければならない。僕の尊厳のために。


「とにかく、みんなとやったチャンバラがすごく楽しかったから僕は今こうして騎士になったんですよ。とは言っても、剣術ばかり練習して能力の研鑽を適当にしてしまったから今こうして苦労してるんですけどね」

「ま、リオンの能力もアタシの能力も超弱いし、弱いなりに頑張って行きましょ」

「いやいや、アリス様の能力って実は結構強いんですよ?」

「ホントに?」

「本当です」

「優勝できる?」

「優勝したいなあ……」


 情けないことだが、僕の今の実力では優勝なんて到底無理だ――が、それは今に限った話。いつかは並み居る猛者たちを薙ぎ倒して頂点に立ちたいとは思っている。というよりも、そのために戦っているのだ。


「あっそ……」


 するとアリス様は、僕の横顔を見ながら優しい笑みを浮かべていた。


「あれ、なにか付いてます? 僕のほっぺ」

「別に。嬉しそうな顔してるなってだけよ」

「ニヤけてました……?」

「結構ね」


 アリス様は、ふふっ、と笑いながらまたも布団にこもってしまう。ケホケホと咳をして、もう一度布団から顔を覗かせた。先ほどよりも若干顔が赤くなっているような気がするが、やはり風邪気味なのだろうか。咳もしているし、少し心配だ。

 そんな心配が僕の表情に出ていたのか、アリス様は口の端をニヤリと歪めて、意地悪な笑みを向けてきた。


「なによ。お前、まさかアタシの体調を心配してくれるの? 風邪で寝込んでいる女の子を近くで見ながら心配するなんて、まるで恋人みたいね」

「は、へ……恋人っ?」

「なあに動揺してんのよ。別に心配しなくても、アタシのこれは体質みたいなものだから心配する必要はないわよ」

「そ、そうですか……」


 けろりと言ってのけるアリス様の様子に、僕はほっと胸をなでおろす。

 心配性な僕の様子を半笑いで流し見ながら、彼女はさらに話題を振ってきた。


「そういえば修業の方はどうなの?」

「あぁー……」


 僕は今日の特訓の流れを思い出す。確かに今日、ライオスとリュージさんとの一対二の勝負に勝ったものの、それは彼らが能力を使用しない状態での話だ。御前演武とはまた勝手が違う。

 というか、能力なしの状態の二人と、レオル君の本気ならば、レオル君の方が圧倒的に強いだろう。初期の頃と比べて成長したものの、僕はまだまだ弱い。

 アリス様の能力を使いこなせていないし、僕自身の能力もまだまだ完璧からは程遠い。


 けれど――。

 それはまだ僕に成長の余地があるということ。まだまだ強くなれるということ。


 僕は、弱いということが悪いことだとは思わない。だってそれは、まだ可能性が残っているということなのだから。努力をすればいくらでも高みへと昇っていけるし、教えを乞えば己の可能性の幅もまた広がる。

 まだ見ぬ自分の可能性に、僕は笑いをこぼしそうになる。なんと楽しいことか。僕はこの場所に来て本当に良かったと思う。もっと強くなれる。もっと成長できる。


 だからこそ、勝ちたい。勝って、恩返しをしたい。


「ほんっと、剣とか戦いのことになると楽しそうな顔するわよね」

「え、まさか表情に……」

「当然出てたわよ」


 ふふっ、と笑ったアリス様は、その優しい視線を僕に向けながら、さらにこう問うてきた。


「お前はいま、楽しい?」

「僕ですか? その、楽しいっていうのはどういう意味でしょう……?」

「そのままの意味よ。ここに来て、お前は充実した毎日を送れてる? やりたいことをできている? 実はアタシ不安なのよ。もしかしたら、お前がここに招かれたことを疎ましく思ってるんじゃないかって」

「そんな、とんでもないですよ!」


 アリス様の意味の分からない心配に、僕は思わず大きな声を上げてしまった。突然大声を出してビックリしてしまったのか、アリス様は肩を小さく震わせると、おそるおそるこちらを見上げてきた。

 怖がらせてしまった……。


「ご、ごめんなさい……」


 一つ謝ってから、僕はさらに続けた。


「いや、えと、僕はここに招いてもらったことにすごく感謝してるし、アリス様が心配するようなことはないです。というかそもそも、夢の舞台だった御前演武に出場させてもらえるんです。感謝の言葉をいくら並べても足りないくらいです。みんないい人ばかりですし、本当にここに来てよかったと思ってます」

「そ、そう……」


 僕の剣幕に圧倒されたのか、アリス様はまたふとんに顔を隠してしまった。やはり風邪なのだろうか、少しばかり顔が赤いような気がする。

 少しして赤い顔が元に戻ると、彼女はふとんから顔を出して僕をまっすぐに捉え――そしてこう言った。



「良かった」



 そう告げた彼女の笑顔は今まででいちばん綺麗で、美しくて、優しくて――、



 そして、

 切なく、儚かった。


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