かつて悪役令嬢と呼ばれたお嬢様は前世がシュークリームだったと悟ったらしいです
「どうも私前世はシュークリームだったみたい」
とある日の早朝、お嬢様が開口一番そんなことを言ってきた。
「……寝言?」
「そんなわけないでしょ!」
「……すいませんお嬢様、ちょっと私町まで風邪薬を買ってこようと思います」
「……それが何のための薬かは聞かないでおくわ」
お嬢様そう言うと、とてもげんなりした顔をなされました。……正直その顔は私の方がすべきものだと思うのですが。
「それで一体何がどうしてそんなとちくるっ……考察の余地がありそうな発言にいたったのですか?」
「……あなた今とち狂ったって言おうとしなかった?」
「いえいえ。ただの使用人である私ごときがお嬢様のとち狂った発言に何かを言うなんてあるわけないじゃないですか」
「言った!今あなた確実にとち狂ったって言った!」
「お嬢様、あんまり妄想ばかりしていてはだめですよ」
「……ホント、なんなのあなた」
「もちろんただの使用人ですわ!」
「……なんかもう疲れた」
「そうですか。ではお嬢様、今日はもうお休みになられたらいかがです?神父様には私の方からお嬢様は体調不良だと伝えておきますので」
「えぇお願いするわ」
そうしてお嬢様は自室への道を歩き出しました。さて、私も早いところ神父様のところへ行か―。
「ちょっと待ちなさい、そこの自称私の使用人。なんで私部屋で休む流れになってるのよ!私別に体調不良じゃないわよ!」
なくてはと思いましたが残念ながら騒がしいお嬢様が帰ってきました。
「騒がしくないわよ!」
「お嬢様、私別に何も言ってませんよ」
「知らないわよ!」
まったく、理不尽なことこの上ないですね。
「はぁ。しょうがないですね。面倒事は早く終わらせるに限ります。それでどうしたんですか、シュークリームお嬢様」
「シュークリームお嬢様って……それ以前に仮にもお嬢様と呼ぶ相手の話を面倒事って……」
「だって実際面倒ですもの」
「……あなたよくそれで使用人になれたわね」
「それは私のお嬢様以外に対する外面は完璧ですので」
「……なぜ私にそれを使わない」
「なぜでしょう?まぁそんな細かいことは置いておいて、どうしたんですかシュークリーム」
「あなた絶対私のことバカにしてるわね……。まぁいいわ。ここで止まってると話が進まないし」
「お嬢様にしては賢明な判断です」
「だから一言……。うん、無視よ無視。それでね、さっきの私の前世の話なんだけど、どうも私の前世はシュークリームだったみたいなの」
「……突っ込まないので続きをどうぞ」
「ほら、私ってこの教会に来てもう一年じゃない」
「……そうですね」
「婚約者だった王子はあの男爵令嬢にとられて、家も追い出されて実質この教会に幽閉状態だし」
「……」
そうである。このお嬢様、わずか一年前までこの国の王子の婚約者というそれは高貴な身分のお方だったのだ。しかし一年前、とある男爵令嬢を中心とした騒動の結果お嬢様は王子の婚約者という身分の剥奪。かわりにお嬢様のポジションであった王子の婚約者という身分にその男爵令嬢がついてしまったのだ。世間では身分違いの大恋愛だなどともてはやされる一方、元婚約者であったお嬢様は王子と男爵令嬢の恋の障害、嫉妬に狂った女―いわゆる悪役令嬢―と呼ばれていた。でも実際は―。
「それでね、この一年間教会で私は自分や周りについて色々と考えてたの」
「……はい」
「王子のこと、男爵令嬢のこと、何がいけなかったのか、そもそもいけないことなんてあったのか」
「……」
「そうして気付いたの。……私の前世はシュークリームだったって」
「……はい?」
「私が調べたところによるとね、この国より東の国にはホトケとかいう神をまつってる宗教があるらしいの。その宗教ではね、修行をすると超人的な力が手に入るらしいの。なんでもロクジンツウとか言うらしくて、空を飛んだり遠くのものが見えたりするらしいの」
「……」
「そしてその中にね、自分や他人の前世が見えるってものがあるらしいの」
「…………」
「たしかシュクミョウツウだったかしら?まぁ名前なんてどうでもいいわ。ようするにね、多分私、祈ってる神は違うけど多分このシュクミョウツウっていうのに目覚めたんだと思うの。それで知ったわ、私の前世はシュークリームだったって」
「………………」
「ちなみ王子は私を作ってくれたお菓子職人さんで、あのにっくき男爵令嬢は王子の店で働いてた従業員の子だったのよ!でもかなしいかな、同じ職場にいるのに所詮私はシュークリーム。どれだけ彼を思っても彼にはこの思いは伝わらない。そんな私が見てる前であの男爵令嬢は王子のことを奪っていくの。今世だけじゃなく前世でも!」
「……………………」
「だから私は決意したの、シュークリームの前世、婚約者兼悪役令嬢の今世で勝てないなら来世で勝ってみせようって!」
「…………………………」
「具体的に何をすればいいのか今のところ全然分からないんだけどね。まあ未来はそのうち考えるとして、とりあえず今私がわかってることは私の前世がシュークリームだったってことね」
「……お嬢様」
「なに?」
「やっぱり私町に薬を買いに行ってきます」
「ちょっと、なんでよ!」
あぁ、お嬢様。おいたわしや。
こんなよくわからない話を最後まで読んでいただきありがとうございます。