知りたくないことに限ってすぐに情報公開するのはなんでだろう
数日たっても光は消えてなくならない。そのうち、顔が判別できないくらい遠い場所からでも光の色合いだけで個人が判別できるようになってしまった。
「いや、便利に使ってる場合じゃないな」
最近は無生物からも妙なものが見えるようになってきた。
このままいけば幽霊を見るのも時間の問題だ。
さざ波が立つようにあっちのシャッターが下りた店が歪んでいる。
なんでこんなものが見えるんだ。
「どうしたの、優花?」
今までにないくらい至近距離に、友人がいた。
友人を包む光が、優花の身体に触れる。伝わってきたのは悪意。
優花の生まれた事情を親から聞かされたのだろう。にこにこと笑いながら優花をさげすんでいた。
吐き気が込み上げてくる。
急にうずくまった優花を不思議そうに見ている友人にさらに吐き気がこみ上げる。
「なんだか、風邪ひいたみたい、胃腸風邪かな」
優花はそう言ってごまかした。
その時聞こえてきた声。はっきりと聞こえた。
この子のお母さん、同じくらいの年で、生んでるんだよね、まさかどっかの顔も覚えてない男の子供作っちゃったのかしら。
ひくっと唇を震わせる。
優花は実の父親の所業ゆえにあまり異性に心を開かない性質だ。特定不特定の男子とろくに口をきいたこともない。
そうした優花の日常を知っていてこの言い草だ。
「ごめん、先生に言っておいてね」
そう言って優花は踵を返す。
そのまま家に帰って不貞寝を決め込もうとしたのだが、気がつけば目の前にはららが立っていた。
「やはり、影響はあったか」
はららは感情の読めない平坦な表情で、それでも面白がっている目の端の光で分かる。
それからはららを優花は凝視してみた。
はららからはあの様々な色彩を感じない。
どれほど目を凝らしても皆目だ。
「ああ、俺は今閉ざしているからな、今のお前では見ることなどかなわない」
はららも本来なら光を発しているのだが、意識的に閉じ込めているらしい。
「気がついているわけ?」
はららは優花の手を取ると、歪んでいるシャッターのほうに歩いて行く。
さざ波のようなそれは、本気で水に映った像のようにはららの腕を呑み込んだ。
腕が呑み込まれそのまま全身が飲み込まれる。はららに腕を取られている優花も続いた。
そこは静かな湖のほとり、無論近所に湖があるという話を優花は一度も聞いたことがなかった。
小鳥が遊び、雲が流れる。
今日もいい天気だと優花は一瞬現実逃避に走った。
はららを見ればどす黒い霧に包まれている。
閉じるのをやめたということだろう。
「桃花源を覚えているか」
「あれを忘れるのはちょっと難しいかも」
「あのとき、取り出したもの、あれがどこに消えたと思う」
そう言ったはららの指先は、優花の胸に突きつけられていた。