バラバラ死体の真ん中で目覚めるさわやかな朝、なわけあるか
変な夢を見た、そう優花は思いながら目を覚ました。
そして、自分の横に少々節の目立つ長い指の長い手があるのに気がついた。
きょとんとしばらくその手を見ていた。
そして視線をずらす。黒い袖に包まれた腕が伸びて、そしてあるべき胴体はなかった。
優花は全身の毛を逆立てて飛び起きる。
ベッドの下に長い黒髪を散らせた生首が転がっていた。
部屋の隅に足がまるで折り取られた枝のように無造作に落ちている。
胴体はベッドの足もとに転がっている。
パクパクと口を開閉させたが、悲鳴も出てこない。
うつぶせていた姿勢の生首が不意にひっくり返り、口を開いた。
「どうかしたのか?」
はららだった。夢であってほしかったのだが。
「どうしてあたしの部屋でバラバラ死体になっているの?」
生きているようなので、死体ではないのかもしれないが、これで血糊が飛び散っていたら猟奇殺人現場だ。
「くつろいでいただけだが?」
部屋中に散乱していた身体のパーツがわさわさと動く。
四畳のベッドと机を入れれば後は座るスペースしかないその部屋にバラバラ死体?がうごめいている。
「なんであたしの部屋でくつろいでいるのよ」
優花は畳の上の生首の長い髪をつかんだ。
「暇つぶし」
優花はその首を畳にたたきつけてやろうかと思ったが、首はふわりと宙に浮いた。
別の身体のパーツも浮き上がり人の姿になった。
優花は枕もとの時計を確認する。
そろそろ母親が起こしに来る時間だ。
「あの、出ていって」
こんなものが家の中にいるのが見つかったらひと悶着起きる。下手すれば警察沙汰だ。
もし押入れがあれば、ばらばらになって入っていろというところだが、あいにくそんな収納スペースすらこの部屋にはない。
「優花、いつまで寝ているの?」
ふすまを開けて母親が入ってきた。
しばし硬直していた優花を怪訝そうに見る。
「どうかしたの?」
目の前に立っているはららに全く気付いていない。
「なんでもない、おはよう」
優花の言葉はほぼ棒読みだったが気づく様子もなく出ていく。
「どの道、見えていない」
「そのようね」
そして優花はかけてある上着をはららに投げつけた。
「着替えるから出ていけ」
娘の部屋から出た母親ゆかりは小さくため息をつく。
なんだか娘の様子がおかしかったようだが。
優花の父親が失踪し、路頭に迷いかけていた母娘を引き取ってくれた今の夫に感謝はしている。
しかし、最近娘の様子がおかしい。いや最近ではなくもっと前から家庭内に不協和音が響いていた。
結婚直前に婚約者と子供を捨てて逃げた元恋人。そんな二人をそれならばと引き取ってくれた今の夫に感謝している。
夫は評判の善良な人間だ。
そう、みんなが夫を褒めたたえる。キズものの妻子を引き取ってくれたことに。
いつの間にかそのことに、軋みを感じていた。
だが今は違う。優花に起きているのは別のことだ。
扉を開けるとき感じた寒気。何事もないようふるまったけれど、優花の様子のぎこちなさから、気のせいではなかったのかと思った。
ゆかりはため息をつくと、台所に向かう。
朝食の準備が途中だ。