よく考えると全く何の解決にもなっていない
それは樹木の捕食。根を張り緩やかに吸い上げるだけ。
根に絡まった石は邪魔になる、だからそれをよけて吸い上げる。
滋養を含んだものそれは人の心。
優花は無数の根にからまれた人の姿を見ていた。
それは裸の少女に見えた。
そしてその少女がチマチョゴリの少女だと気づいた。
少女の姿がぼやけ情景が浮かび上がる。それは彼女の見ている夢だろう。
なんとなくおぼろげにどこかで見たような韓国の風景が見える。
家族と思われる人の顔が浮かびかき消えて元の少女に戻る。
夢を食われるとはこういうことなのかと、優花は戦慄した。
風景と少女その入れ替わりが激しくなってその後、少女の姿は消滅した。
心をすべて食いつくされて、少女は先ほど見たようにその身体も粉々に砕け散ったのだろう。
じわじわと、やすりで削られるように心を削り取られゆっくりとゆっくりと消滅する。冗談じゃないと優花は舌打ちした。
優花の周囲にも根がざわざわとまとわりつく。
それは長い髪に肌を撫でられているような感触だった。
ざわざわと優花の身体がからめとられていく。
顔に這ってきたそれをとっさに食いちぎる。
喰われてたまるかと優花はからみついてきたものを渾身の力で引きちぎろうとした。
その両手に激痛が走った。たぶん、これは生身の体ではない。だけど感じる激痛は間違いなく本物で。一瞬意識が途切れそうになる。
それを根性で優花は押し切った。
意識が遠くなってしまえばそのまま喰われる。
あれは単に死ぬというのじゃない。魂までの消滅だ。
ここで死んだら幽霊にすらなれない。そんな気がした。
それでも強引に意識をつながれる。そして優花とそれは同調した。
それは苦しんでいた。
その中心に光る芯のようなものがある。それは強引に成長を強要されていた。
本来は緩やかなそれを急速にせかされ、悲鳴をあげていた。
もうあの場所に誰もいない。すべて食いつくされた。
餓えは優花にも伝わってきた。
なぜだかわからないけれど、優花はその光る芯を手に取ってみたいと思った。
そう思った時にはそれは優花の手の中に映っていた。
それもそうだったのだと思う。これを見つけ、触れた、その瞬間に捕らわれた。
そして成長を狂わされた。
解放されたそれは優花を手放した。何かわからないけれど、危険そうなそれは優花の手の中にある。
「どうすりゃいいのよ」
そう叫んだ。そして記憶が途切れる。
気がつけば目の前にはららが立っていた。
「行ってしまった」
そう言って右へ振り返る。遠ざかっていくピンクの桃の花が見えた。
「ああやって移動するわけ」
なんとなく乾いた声で呟く。
そして何かを思い出した優花は両手を広げる。
先ほどまでつかんでいたはずのものはなかった。
「大丈夫、なの?」
はららはその様子を目を細めて見ている。実際に彼が何を見ているか。優花にはわからなかった。
ふと気がつけば、一番最初の記憶の場所だった。うち捨てられた、公園だった場所。
「夢?」
そう思って両手を見れば、爪がひび割れて、血がにじんでいる。
あれは、桃花源は滅んでいない。いなくなった住人の補充をするためにまた誰かがあちらにいるかもしれない。
家に帰ってからようやくそのことに優花は気がついた。
この国で、世界中で、ある日いきなり消息を絶つ人間は無数にいる。その中のどれくらいがあれの犠牲になっているのか。
しかしそれはすでに優花の手を離れていた。