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挟魔<HAZAMA>優花  作者: karon
結末に向けて
40/42

消えていく

なんかどす黒いです。そして主人公不在。もう一度主人公不在が続きます。

 荷物を持って十数年暮らした家から出ていく。

 ゆかりは扉にかかった表札をしばらく見つめる。

 木下、離婚手続きは終わっているのでもうゆかりのものではなくなった表札。

 優花がいなくなってすぐに、ゆかりは住込みの仕事を探した。そして電車で二つほど向こうの土地に家政婦派遣会社の職を求めた。

 夫であった男とこれ以上暮らすのは無理だった。

 娘が行方不明になってすぐに離婚を決めたゆかりに近所の目は厳しかった、あらぬ疑いを口にするものも多い。

 それを真に受けたのか最近警察官が周囲をやたらと歩き回っている。

 だが、ゆかりが法に裁かれることなどあり得ない。具体的な証拠は何もないのだ。

 優花は勝手に出て行った。そしてゆかりは捜索願を出して、すべては終わっている。

 捜索願を出したとしても警察に優花を見つけることなど出来ないだろう。

 ずっと抱えてきた重みをすべて捨ててゆかりは晴れ晴れとした顔で木下家を後にする。

 そんなゆかりを避けるように、近所の主婦たちが顔をそむける。

 冷ややかな視線に見送られながら、ゆかりは颯爽と歩いて行く。

 ゆかりは解放されたのだ。

 足取りはどこまでも軽い。邪悪な魔物に歪められていたゆかりの人生はようやく正しく修正された。

 晴れやかなゆかりの頬笑みはどこまでも不穏な噂を増長させるものでしかなかったが、それすら気付かずゆかりはどこまでも歩いて行った。


真一郎は扉の閉まる音を背後で聞いていた。妻はさっさと出て行った。捨て台詞のように、愛も感謝も何一つなかったと言い残して。

 ゆかりは何を思ってここにいたんだろう。

 初めてそんなことを考えていた。

 子供のころから人に尊敬されるような立派な人間になれと両親から言われてきた。だから誰かが困っていたら、手を差し伸べるのが立派な人間だと疑いもせずに生きてきた。

 手を差し伸べられたゆかりと優花が自分に感謝するのも当たり前だと思って生きていた。

 だから二人が実際は自分を軽蔑していたなんてことは想像すらしたことがなかった。

 ゆかりの両親も、それはそれは感謝してくれていた。立派な息子さんをもってご両親は本当にお幸せだ。本当に素晴らしいと手放しの絶賛を産まれて初めて受けた。

 ずっとそれに酔っていた。みんな、口に出さないけれど、自分のことを立派な人間だと尊敬してくれていると思い込んでいた。

 まず優花がいなくなり、そしてゆかりが去って行った。

 二人がいなくなった後、ようやく自分の本当の立ち位置が見えてきた。

 誰もが自分をつまらない男だと笑っている。

 嘲笑が幻聴となって耳の奥で響いている。

 コップを床にたたきつける。

 甲高い音、我に返って片づけるのは自分しかいないと気付き、うなだれる。

 優花がいなくなった時あまりに非現実すぎて、それを受け入れることができなかった。

 魔物に取りつかれた家系。幽霊。できの悪い三文番組かと思った。

 優花を病院に連れて行かねばと、そう思っていた。優花が、目の前からかき消えるまで。

 それは真一郎の理解を超える出来事だった。

 いまだに理解できていない。ただなんとなく優花は二度と自分の前に姿を現さないだろうということは分かっていた。

 幻想が消えてても、あすは仕事に行って、いつも通りの一日を過ごさねばならない。この空虚な家の中で。


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