付き合っていられません
ゆかりは眼を見開いて、嘲笑う娘を見た。
自分を産ませるためにゆかりを利用したと言ったのだ。
馬鹿みたい馬鹿みたい、愛せないことに罪悪感を抱いていたなんて、愛せなくて当たり前なのに、ゆかりのすべての不幸は娘優花のせいだったんだから。
生まれる前からゆかりを操って、自分の身体を作らせた。そしてゆかりの人生をめちゃくちゃにしたのだ。
夫が何か言いたそうな顔をしてゆかりを見ている。
ただ忌々しいだけの存在だ。
「何よ、過ちを犯した私を引き取ってなんて恩着せがましいのよ。あんたが一度でもあたしのことを考えてくれたことがあった!? あんたは自分の見栄のためにあたしを引き取っただけじゃない、立派な人だって言ってほしかったんでしょ、いやらしくて卑しくてみっともない男」
今までため込んできた恨みつらみを一気に吐き出す。
今までは負い目があった、しかしその負い目も消えた。だってゆかりは何も悪くなんかなかったんだから。
「何よ、傷ついた顔なんかして、みっともないのよ、本当のことでしょ、あんたは単に恩に着せる相手がほしかっただけでしょう。そうやって自己満足に浸っていたかっただけでしょう、みじめよね、そんな事をしなければ誰もあんたなんかに感謝してなんかくれなかったでしょうね」
ゆかりは心からの嘲笑を夫として今まで立てていた男に向ける。
ひきつってこわばったその笑みは、誰よりも醜かった。
そして再び娘だったものに向ける。
「お前のせいだ」
嘲笑っていた笑みが消えた。
母親の狂態は玉響媛すらあっけにとらせることができるものだった。
そのわずかな隙を利用して優花は身体の使用権を奪い取った。
目の前では一応両親と呼んでいた二人がもめていた。
「あんたが余計な口出しをするから、あの厄介者を引き取ることになったんじゃない、ほかに押し付けるあてがあったんだから」
鬼のような形相でそうわめいている。
高藤茉莉はいきなり降ってわいた修羅場に半ば硬直している。
下手すれば、玉響媛が現れたよりも驚いているかもしれない。
押し付けるあてというのは実父の姉のことだろうか、年の離れた姉で、その時点で家庭と優花よりも年上の子供もいた。
その人が優花を養女として引き取りたいと申し出たのだ。
少なくともあの今もめている二人より、優花の将来を案じていてくれた感じだった。定期的に顔を見に来たし、クリスマスやお正月には何かしら届けてくれた。
あちらに引き取られていたらと思ったことは何度かある。
「そうすればすべて丸く収まったのに、お前のせいだ」
それはそうかもしれないと優花も思った。
見ていれば確実にこの夫婦に育てられるよりはあの伯母に育てられたほうがはるかにましだった。
それでも優花は、まだ体の制御がきくうちにこの場から立ち去ることにした。
空間のほころびを探りそれに手を入れて大きく引き裂く。
そしてそのまま体を滑り込ませた。
父親だった男の驚愕の表情が妙に記憶に焼き付いていた。
 




