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挟魔<HAZAMA>優花  作者: karon
結末に向けて
35/42

誰だあんた

 自分の身体なのに、自分の意思で動かすことができない。

 くすくすくすと笑う声、確かに自分の声なのに、笑っている自覚がない。

 勝手に言葉を紡ぎだす唇。目の前にいる家族や同級生の顔は鳩が豆鉄砲を食らったかのよう。

 笑う声は高らかに誇らしげに言う。

「我は玉響媛」

 誰だ、それは。優花は自分の声帯から出たとは思えない声に戸惑う。


 高藤茉莉はふいに変わった空気に思わず身を飛びのかせてしまった。

 それはそれほど気味の悪い不快な空気だったから。

 優花が笑う。一度も見たこともない笑顔。

 それを見ただけで分かった。あれは優花ではない。

 あまり表情を動かさない、どこか斜にかまえていた優花と、目の前で笑う優花。噂に聞く二重人格というのはこんな感じなんだろうかと思う。

 その笑いはとにかく不快だった。

 見ているだけで吐き気を催すような。

 何より目が違う。

 ギラギラと欲に燃えたその目がその場にいる人間たちを見まわしにんまりと笑う。

「我は玉響媛」

 優花の声のようで、どこかかすれたその声はまるで枯野を吹きすさぶ風の面持ちがあった。

「何がおかしくてそんなに笑っているんだ?」

 さすがにあまりにいようなそのありように優花の両親は息をのんで固まっている。

「笑わずにおらりょうかえ、ようやくの満願成就に」

 そう言って、確かめるように掌を目の前にかざし何度も指を曲げ伸ばし始める。

「ついに手に入れた、我にふさわしい器を」

「器じゃない、それは木下優花だ」

「それがどうした、もともと我が生み出した器じゃ」

 高藤茉莉を笑い飛ばし玉響媛と名乗ったそれは足を踏み鳴らす。

 どんっと直下型地震でも起きたかのように、家自体が揺れ、高藤茉莉は辛うじて持ちこたえたが、両親はそのまま打ち伏した。

「そう、最初に我が産んだ、もう幾百年も前の話じゃ」

 不意に遠くを見るようにそれは虚空に視線をさまよわせる。

「我は人と人ならぬものの間に最初に生まれた。しかし、我は力をさほどしかもたなんだ、それゆえひととして生きるよう定められた。

 なれど、我はどうしてもあきらめきれなんだよ、だからそのための仕掛けを講じた。まず一人子を産み、その血脈に取りついた。そして、適度に増えたときその血脈をより強い力を産ませるべく操って掛け合わせた。そうして我を受け止めるにふさわしい器がようやく生まれた」

 いとおしげに、両手でわが身を抱きしめるそれを、厭わしげに茉莉は睨み据えた。

「それは木下優花だ、器じゃないその身体から出ていけ」

「いいや器じゃ、我が選んだ血同士を掛け合わせて生まれた我がおらねば生まれなんだ器じゃ」

 歪んだ笑みを浮かべたまま玉響媛は両手を振る。

 台風のような風がいきなり室内に吹き、茉莉は思わずたたらを踏んだ。

「どうやって追いだす、お前ごときの力で」

 冷たい汗が茉莉の背を伝う。もともと力の差は歴然としていた。高藤茉莉が生きていられたのは最終的に優花に殺す気がなかったからだ。だが玉響媛は違う。玉響媛は虫けらでもつぶすように高藤茉莉を消し去るだろう。

 そんな硬直を説いたのは背後から聞こえてくる声だった。

「私、何も悪くなかったんじゃない」

 場違いなその言葉は木下優花の母親から聞こえた。


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