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挟魔<HAZAMA>優花  作者: karon
新たな始まり
34/42

家庭崩壊かもしんない

 ゆかりは薄気味悪そうに少々荒れた台所を見まわす。

 最近妙なことばかりが起きる。

 毎日のように起きる怪奇現象。

 思わず怪しげな新興宗教のチラシに見入っている自分に気づく。

 こんなことではいけないと首を振ってチラシを握りつぶす。

 こんなチラシを配布するような団体に何ができるというのだろうと苦笑する。

 娘は学校、夫は会社、今この家にはゆかり一人だ。

 いや、一人でいるほうがまだましかもしれない。

 あの、娘と二人でいるくらいなら。

 子供のころから、何を考えているかわからない娘だった。

 無表情でどこか冷めた感情というものが感じられない。

 それは実の父親に幼児のころに母親もろとも捨てられた過去ゆえかととも思うし、血のつながりのない父親にあまり愛情を持って接してもらえなかったからかとも思う。

 あるいは少しずつ自覚していった、ゆかり自身が娘への愛着を失ったことに敏感に感じ取ったからかもしれない。

 あるいはすべて。

「ここまでそろえば、そりゃひねくれるわよね」

 改めて考えて笑えてくる。

 それでも娘がぐれたぐらいの話なら、まだ救われる。

 だけどあれは……


 ずるりと娘の体からはい出したもの。それが笑う。

 あの日からこの家の平安は失われた。

 いきなり室内が破壊されたのが最大の出来事だったが、それ以外も壁の向こうにある謎の気配。

 その壁の向こうは隣家で、その間には幼児だって入り込めないぐらいの狭い隙間しかないにもかかわらず、その場所から足音が聞こえる。

 その足音はいつの間にか始まりいつの間にか終わる。

 ものが勝手に動く。

 片づけたはずのものがいつの間にか別の場所にある。

 たとえば台所の泡だて器が、いつの間にか居間に置いてあったりもする。

 泡だて器を台所から出すなどあり得ないにも関わらずだ。

 ほかにも思い返せばいろいろある。

 複雑な家庭環境のせいで娘がぐれるならいくらでも聞くが、怪奇現象が頻発するなど聞いたこともない。

 だが、最初のきっかけは娘だ、だから娘がいるのが一番怖い。

 それに娘がいれば現象は活発化しているのは気のせいではないだろう。

 最近では夫の帰りも遅くなってきている。

 家に帰りたくないのだ。

 何かが壊れていきつつあるのがわかった。だがそれを強いて止めようと思わない自分にも気づいていた。


 優花が家に帰ると、台所でぼんやりと母親がたたずんでいる。

「おかえりなさい、あら、お友達?」

 母親が怪訝そうな顔をする。

 そういえば、母親の隣で高藤茉莉は怪奇現象を目の当たりにしていたのだ、それでもなお優花と友達づきあいができるなどただ事ではないと思っているのかもしれない。

 高藤茉莉は無言で会釈して優花と連れ立って歩いて行く。

「何か?」

 高藤茉莉にそう言われて少々のけぞって言い淀む。

「あれ、今日は早いね」

 父親は最近十二時前に帰ってくることがほとんどない。

「いや、なんでもない」

 どうやら時間をつぶす予定が何かでつぶれたらしい。

 たぶん誰も予想していなかったことだが、ふいに空気が変わる。

 その時それは起こった。

 優花は自分の意思とは無関係に、自分の唇がつりあがるのを自覚した。


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