たぶんあたしのせいじゃない
目を覚ますとポルターガイストが起きていた。
棚に収まっていたはずのマンガ本がびゅんびゅん飛び交っている。
それに混じって教科書も飛び交っている。壁にかかっていたハンガーのジャケットは風もないのに翻り、ショルダーバッグは反対方向に浮いていた。
「止まれ」
呟いた途端、本はすべて床に落ちた。
「ええと?」
優花は首をかしげる。そして視線を落ちている一冊に落とす。
ふわりと浮きあがって優花の視線をずらすままにもとあった棚に戻る。
「あたし、寝ぼけた?」
優花は寝乱れた髪をくしゃっとかきあげる。
狭い部屋の中は結構な惨状を示していた。
優花は起き上がって散らばったものを拾う。布団の上にも何冊も本や服が散らばっている。
もともと狭い部屋で、私物もそう多くないので、すぐに片づけることができた。割れものがないのが幸いだ。
時計を見れば起きる時間よりだいぶ早い。
不幸中の幸いだなと思いながら、優花は部屋を出る。
ダイニングキッチンが崩壊していた。
テーブルはひっくり返り、そばに置いてあったテレビが、床に墜落してお亡くなりになっている。
「あれ?」
どうやらポルターガイストは家じゅうを暴れまわったようだ。
台所を見れば、食器棚がひっくり返り、中の食器が散乱し、割れた食器のかけらで、まきびしでも播いたような状態になっている。
そして冷蔵庫もひっくり返ってお亡くなりになっていた。
「ええと?」
さすがにこれを片づけるのは不可能なので、優花はしばらく台所の前で呆けていた。
優花が呆けていると、食事の支度に起き出してきた母親が、台所の惨状を見て悲鳴を上げた。
「どうしたの、あれ」
「あたしじゃないよ、あたし一人で冷蔵庫をひっくり返すなんてできるわけないでしょ」
優花はそうしらばっくれた。
「でも」
そう言って、母親は散乱した食器の欠片を指差した。
「踏んだ跡がないわ、あれをやった人はどうやって台所から出たの?」
食器は砕けたままの状態で床に散らばっている。
人が踏めばさらに細かくなるはずだし、素足で歩けば血まみれ、何か履いたとしても欠片が刺さりまくった履物が出現するはずだ。
意外に鋭い意見に優花は思わず感心してしまった。
優花が履いているスリッパにも、他のスリッパも欠片が刺さってはいなかった。
「とにかく、警察に電話する?」
優花の提案に母親は難しい顔をしていたが、そのまま頷いた。
警察が来たが、タンスや金庫ではなく、台所が荒らされるという事件は結構珍しいと言われた。
窓や周囲の様子を調べ、家族の指紋も取られた。
採取した指紋から家族のものを取り除くために必要なのだと言われたが、何となく嫌な気分になった。
警察が現場写真を撮ったり、指紋を採取したりした後、片付けていいという許可が出た。
余計にちらかった気がした。
「どうやったんだろ、あれ」
「まず冷蔵庫を倒して、食器棚を倒したんだろう」
「いや、それが後か先か関係なく、食器のかけらを避けて、あの場所を通ることって出来るかという話なんだが」
ひそひそと話す声がする。
そして床の視線に気づくとあわてて咳ばらいをした。
「その、外部から侵入したという形跡は一切発見されませんでした」
「あの、今朝見つけたんですよね、相当大きな音がしたはずですが」
警察官たちは口々にそういう。夫婦二人その言葉に途方に暮れた子で、破壊された台所を見ていた。




