私自身が食べ物だって
ちょっとサブタイトル変わりました。
最終的に結論からいえば何もなかった。
台所を備えた家は一軒もなく、家の周囲に畑もなく家畜も飼われていない、とどめに井戸もなかった。
ここにいる数十人単位の人間はいったい何を食べているんだと優花は真剣に疑問に思った。
そして、差し迫る危機に気づいた。
自分はいったい何を飲み食いすればいいのかと。
もしかしたら、ここにいる人間は人間に見えるけれど、幽霊なのかもしれない。
だとすれば飲み食いしないだろう。
しかし、優花は違う。
その危機はそこまで来ていた。
グウーと重低音を立ててお腹が鳴った。
キュルキュルキュル。腹の中にエンジンでも入っているのかというくらい異音が響き続けている。
その音を聞いていると、立っているのもつらくなった。
ちょっと近所を歩くだけのつもりだから荷物に食べ物は入っていない。
「お前、まだ食われていないね」
低い不思議な響きの声だった。
優花はうずくまった地面にいきなり現れた顔と目が合ってそのまま硬直した。
能面を少しごつくしたような男の顔。なぜ能面を連想したのか、それは地面に落ちた仮面にしか見えなかったからだ。
その茶色い地面の中で浮き上がった白い顔は周囲に徐々に黒い縁取りがされ、それは顔を覆う長い髪になった。
いつの間にか漆黒の顔だけが異様にま白い男に見降ろされていた。
なんとなく優花は安心した。
起こるべきことが起きたと思った。
「食われてないって」
得体のしれない、確実に人間ではない男、しかし先ほどまでの時代錯誤集団と比べればこちらの方がましだと思った。
相手の目に明確な意思がある。
「ここは夢喰いの巣、ああ、あの子供は食いつくされるな」
時代劇にしか出てこない、頭の頭頂部を残して剃り上げた着物姿の子供がいる。
まるで小麦粉の袋をひっくり返したように子供の身体が飛び散った。
あとには何も残っていない。
子供は完全に微粒子まで分解されたらしい。
粉末すら地面に落ちていない。
「あれらは夢を食われているのさ、夢を見たまま食いつくされる。子供はさして長く持たないな、見る夢が少ないから」
長くというのがどういう基準なのか、優花には理解できない。
優花の基準ではあれは百年以上前の風俗な髪形のはずだ。
長いとはどれくらいなのか。
「食われてないって、ああいう状態になるってこと?」
確かに子供が消えたのを見たはずなのに、うつろな顔でそのまま突っ立っている老人。
このままでは優花もそうなるとこの男は言っているのだ。
「まあ、ここから逃げられなければ、じきだ」
不吉な言葉に優花は怖気はふるう。
逃げなければ、と、この場所から離れようと、すり鉢状の坂を上る。
行けども行けども、近づいてこない桃の花。
『じきにああなる』
黒づくめの男の言葉が優花の胸に響いた。
優花はそのまま膝をついた。ずるずると蟻地獄に落ちた蟻のようにずり落ちていく。
優花は地面に爪を立てた爪が折れ血がにじんでもひたすら底までずり落ちていった。