本当にグロッキーなんです
優花は布団の中に潜り込んでいた。
身体がだるいと言って学校もさぼった。
実際顔色は非常に悪く若干やつれていたので仮病とは思われなかったようだ。
母親は保険証を持ってきて、後で行けとかかりつけ病院の住所を書きつけて、パートに出かけた。
体調は非常に悪い。ガンガンと耳鳴のせいで頭痛がひどい。
病院に行けと言われたが、今は立ち上がる気力さえない。それにこれは心霊現象かそれに近い減少なのだ。医者に行ったとしても治るわけがない。
横になっていたとしても、それは気休めにしかならない。どのような姿勢を取ろうと優花の精神と身体は蝕まれていくことには変わりない。
その苦痛は意識を失うことすらできない。
ため息をつく。
「おい」
人が入ってくる気配に気づけなかった。妙な力を得る以前から、この狭い空間に人が入ってくることに気づかなかったことはなかった。
だいぶやられているようだ。
「あの、本気で弱っているから」
布団にもぐりこんだまま優花はうめいた。
高藤茉莉はそんな優花を冷たく見降ろす。
食べ物ものどを通っていない。最近、人が見ていないときは何も食べていなくて、摂取カロリーは激減しているのだが、それに対する身体の不都合はなかったがその揺り返しのように最近やたらと弱ってきている。
「お前が病気になるなど信じられなくてな」
実際には病気じゃないけどねそう優花は心の中で呟く。
「だがそう見えるな」
息が荒くなっているわけではないが、雰囲気が儚くなってきている。
「というか、うちの住所をどこで聞いた?」
もし教えた奴が分かったら、それなりの報復はさせてもらおう。
優花はどす黒くそう決意する。
「学校の名簿を見た」
それは生徒が勝手に見ていいものじゃない気がした。
「いや、あんたに常識を期待したあたしが馬鹿だった」
ただでさえ衰弱している身体に新たな負担が加わって、優花はこのまま布団を通り抜けて、床もすり抜けて地中深くに沈んで行きそうに思えた。
「今の体力で、殺れるだろうか」
体調の悪さは思考の余裕も奪う。真剣に高藤茉莉を殺害し、死体をどうしようか考えてみた。
死体の処理は簡単だ、次元の挟間に放り込めばいい。今の体力でもそれくらいはできる。
高藤茉莉は優花を見下ろしたまま動かない。その様子はどこか戸惑っているようにも見えた。
「で、何しに来たんだ」
もはや、覚悟は決めた。殺ろう。
優花は軽く眼を細めて相手の出方を窺うべく、姿勢を起こす。
「どうしよう」
その間抜けな言いざまにせっかく起こした体勢が崩れる。
「だから何しに来たんだあんたは」
優花は弱った身体に鞭打って怒鳴った。
「てっきり嘘だと思ったからな」
布団を握る手が小刻みに震えている。
優花は先ほどからの物騒な考えを実行に移そうとした。
「あら、お友達が来ていたの?」
母親がパートを早めに切り上げて帰ってきていた。
「友達じゃない」
舌打ちしながら優花は呟く。
「ごめんなさいね、今お茶を出すから」
そう言って母親が部屋に入ってくる。
高藤茉莉も戸惑っているようだ。
身体を半分起こした姿勢で、忌々しそうに優花は二人を睨んでいた。
その凶相を体調の悪さゆえだろうと母親は受け流し、優花の熱を測ろうとそばに寄ってきた。
その時二人の表情が凍り付いた。
高藤茉莉は凍り付いた。
ずるりと優花の身体からはがれおちたもの。シャム双生児のように優花の身体と半ばくっついたそれは優花と同じ顔でにたりと笑った。
 




