どこまで思い込みが激しいんだ
やってきた教師に件の女生徒は引っ張られていった。
そしてなぜか優花も事情聴取という形で、引きずられていく羽目になった。
職員室を通り越して、校長室で事情聴取、なんとなく泣きたくなった。
「転校そうそうで、たぶん面識はないはずだよな」
担任教師はソファに並んで座っている優花ともう一人にそれぞれ問いただした。
どうりで誰も知らないというはずで昨日転校してきたばかりだったらしい。
そして優花は昨日休んだ。
転校生の話題が出なかったのは余りにひっそりと登校してきたのでさして記憶に残らなかったらしい。
「昨日は胃炎で休んだそうだな」
そう教師に念押しされる。どうやら胃炎で病院に行ったと母親は嘘をついたらしい。こういうことに口裏を合わせる親ってどうだろう。
現実逃避しながら優花はその相手を見ていた。
切れ長な目がちらりと優花を見る。太陽のフレアのように光がほとばしる。見ていてまぶしい。
実際に目がくらむわけではない、視力とは別のもので見ているらしい光だ。しかし、他の人間の光とは星と太陽くらいその質が違う。
それでも極力素知らぬ顔を装い優花は視線をそらす。
握った木刀を掲げ誓うようにその人は言った。
「私の使命を果たそうとしただけだ」
言われた言葉に誰もが反応を示せなかった。
「あの、使命って一体」
恐る恐る公蝶が全員を代表して聞いた。
「魔物を退治することだ」
水晶のように澄んだ瞳が今言っていることは冗談でも何でもないといいきっていた。
「魔物ってねえ、高藤くん?」
頭痛をこらえるように、すだれ禿を抱えていた校長は机に手を置いて怒鳴った。
「わが校には、魔物など通っていない」
通っていたけどね、という優花の心の声は誰にも聞こえない。
高藤という女生徒は優花を睨み据える。
「見ようとしないものには見えない。だが心を凝らして見てみろ、この女の姿をした化け物を」
ずざざっとこっそり扉の影から盗み聞きしていた生徒達が波のように弾いて行くのが何故か見えた。
いや、妙な能力などなくても知ろうとする力があれば簡単にわかることだな。
そう優花は結論付けて、周囲を見回した。
無論、高藤の提案を受け入れる人間などいない。
周囲の教師や生徒達に見えるのは、髪を切りっぱなしにした、丸い目の女子高生だけだ。
知ろうとしないから見えないのではなく見えないから知らないだけだ。
どうやら自分と同じものが見えるらしい。その高藤を優花は憐れむように見た。
どんなに努力しても、見えないものは見えないんだよ。
見まいとしても見てしまうように。
優花は密やかに高藤を嘲笑う。
「なぜわからない、こんなにも禍々しくおぞましいのに、ここまですさまじいものは私も初めて見た」
心の底から、聞いてみたかった、自分はどう見えるのか。
「いや、霊能力とか、持って生まれた才能だと思うのですが」
ずっと無言を貫いていた優花がそう言ってみた。
「黙れ、そうやってごまかそうともそうはいかない」
完全に聞く耳を持っていないようだった。
「あの、教室に帰ります、なんか言っても無駄な感じなんで」
優花はそう言って事態を無理やり終わらせることにした。
結局、高藤が新しいクラスメイトだとわかった。




