どうしてこんな朝に騒ぎを起こすんだか
誰かに親身になってもらえるってありがたいなあと、にわかに信仰心に目覚めた優花だったが。事態は一向に進展しない。
いや、ある意味進展したというか。
部屋に置いてあるマンガ本を視線だけで手元に持ってこれるという技をいつの間にか会得していた。
どっちかというと後退したような気がする。
優花が先日ずる休みを決め込んだことはさほど問題視されなかった。
母親が適当に言い訳をしたらしい。
優花は実質的な非行行為には手を染めていないが、最近の母親は優花に対して火のついた薪に触れるかのようにおっかなびっくりで妙にいらつく。
適当にショートカットした通学路で、適当に人通りのない道に降り立った優花はそのまま学校に向かおうとしていた。
そのまま適当に学生の群れの中に混ざる。
不意にこちらに向かって急に走り出した者がいる。
それは優花と同じ女生徒だ。長い髪をなびかせて、手には木刀らしいものが見える。
優花はまず自分の腕時計を、次いで校舎の時計を確認した。
どちらもまだ遅刻には程遠い時間だと示している。
ならなんで走り出したんだろうと優花はぼんやりと見ていた。
先ほどまでの全力疾走は助走だったようだ。ふわりと飛び上ると大きく木刀を振りかぶった。
「悪鬼退散」
そのまま振りかぶった木刀を優花の頭頂部めがけて振り下ろす。
「誰がだ?」
そう思いながら、優花は目の前の女生徒が放つ光を掴む。そのまま手を横にはらった。
光とともに本人も横にすっ飛んで行く。
そのまま校門に激突し、しばらく動かなかった。
その情景を傍で見ていた人間からすれば、何故か木刀を持った女生徒が、たまたま歩いていた女生徒に襲いかかり、驚いたのか腕を振ってオーバーアクションした女生徒の前でなぜか不自然な形で転倒したように見えた。
一瞬の沈黙ののち、あたりは悲鳴で包まれた。
「大丈夫、ほんとに大丈夫?」
そう言って優花に声をかけてきたのはクラスメイトだ。
普段は疎遠だがさすがにこういうときは声を掛けねばまずいと思ったのか。
「おい、先生呼べ」
「いや、警察だろ」
そう興奮した口調で騒いでいる男子生徒達。
何が何だか目の前に見ていてもわけがわからず泣き喚く女生徒。
阿鼻叫喚ってこんな感じなんだろうか。
現実逃避しながら優花は倒れてぴくりとも動かない相手を観察する。
長い髪が乱れて肩に散っている。ああ、校則違反だと思う。
優花のようにショートカットの生徒以外は長い髪は結うのが規則だ。
それなりに整った顔立ちだが、細面の輪郭やつりあがった目がどこか近寄りがたいものを感じさせる顔だ。
「誰よ、これ?」
たぶん別のクラスの話したこともない相手だ、そんな相手がなぜわざわざ凶器まで用意して優花に襲いかかったのか。
「知ってる人、いる?」
周りに聞いてみるが誰もかれもがかぶりを振る。
騒ぎを聞きつけて過半数の生徒がここに集まっているはずだ、しかし反応はない。
優花は目を凝らす、その女性との放つ光は金と銀、そして名状しがたい色合いだった。
 




