神様教えて
アメノウズメノミコトは境内を指差した。
「お前は、この虚空から飛び出してきた。だから最初は魔物の類と思ったが、それは少しおかしいのだ。この境内には結界が張られており、魔物の類は入れないようになっている。だからよほど強い魔物なのかと思ったが」
結果胃と言われて優花は周囲に目を凝らす。
しかし何も見えない。だけど、風が吹いているにもかかわらず、何かが閉じていると感じた。
「お前は魔物に近いが、なりきっていはいない、その人の部分が、結界をすり抜けさせたのだと私は思う」
アメノウズメノミコトの言葉に優花は食らい付いた。
「私、まだ人なの?」
アメノウズメノミコトは優花の胸の中心を指差した。
「胸の中心に、光がある。その光が引力のように周囲の力を呼び寄せている。それがお前の生来持っていなかったはずのものならば」
胸と言われ心臓を抑える。ことこととなっている。
だけど、その光を確認することはできない。
人の光は見えても自分の光が見えないのと同じように。
「でも、わからない、私の胸の中にあるものなんか見えないの、どうやって取り除けばいいのかも」
そう言えば、桃花源も苦しんでいたのかもしれない。あの光に取りつかれて、そして光は優花に乗り換えたのだ。
妙な能力がついたことと謎の食欲不振のほかに今のところ生活に支障はない。しかしそれがいつまで続くかはわからない。
「それは徐々に力をためていく」
アメノウズメノミコトはそう言って優花の胸を指差した。
「それでどんどん妙なことができるようになっていったわけ?」
優花は自分の手を見た。他の存在にはどういうふうにこの手は見えるのだろう。そう言えば最初に会った時の沙依のビビり方はすごかった。
いったいあいつ何を見たんだろう。
そう思いながら見ても普段通りの自分の腕だ。
「生きているうちにそれが起きるのはとても珍しい」
そう言って、機を織る手を再開させながら、アメノウズメノミコトは言う。
「アメノウズメノミコトと名乗っているが私にはひらぶがいに手を挟まれて死んだつまなどいない」
え、女に見えるけどと優花は不思議そうに彼女を見る。
微妙に言っていることが理解できなかった。
女に見えるけど、妻っていったい?
そんな疑問符を張り付けながら優花は黙って聞いている。
「ナマコなど見たこともないがな」
「ああ、そんなにおいしいものでもないけど」
優花の返しに不思議そうにアメノウズメノミコトは首をかしげた。
「ナマコとは食べ物なのか?」
食べたことがあるからたぶん食べ物。と優花は呟く。
「それに私は誰かに語ってもらった気がするのだ、アメノウズメノミコトの物語を」
ふいに気づく。この人は沙依と同じものだと。
たぶん死者の魂に祈りの力で神に仕立て上げられた。
「私はここを出ることができない、この結界の中でしかな、だから暇なときは来てくれると嬉しい」
そう言ってアメノウズメノミコトは境内の端を指差す。
「あそこからお前は入ってきた」
優花の目に歪みと、そこから入ってくる何かを感じた。
それがこの存在を支える糧になっている。
「また、来るかもね」
「楽しみにしている」
二人は笑いあって別れた。
つまという言葉は古代は男女共用でした。多角関係や同性愛もすべての対象がつま。夫と書いて妻と呼びます。恋人と訳したほうが近いでしょう。
ひらぶがいやナマコのくだりは天孫降臨のあたりです。猿田彦と結婚した下りです。
優花は岩戸隠れの話しか知りません




