これからどうなるんだろう
見られないように異次元に沙依を引きずり込んで優花は沙依の襟首を締め上げながら問いただした。
「あんたはあたしのために、ああいうことをしたわけね」
締め上げる手を緩めず。歯の隙間から洩れるような声でそうささやいた。
「ええ、だって私は貴方様にお仕えする身、不快なものを排除するのも私の仕事です」
「勝手に仕事にするなよ」
優花はそう言って沙依をさらに締め上げる。
「沙依、今後一切あたしの周りの人間に何もするな、気に食わないことがあったらあたしは自分で始末する。お前の手は借りない」
優花はできるだけ重々しく聞こえるようにそう言う。
沙依は毒気を抜かれたようにはいとだけ答えた。
まずいことになったと優花は爪を噛んだ。
よもや沙依が暴走するとは思わなかった。このまま優花にかかわりあった人間や通りすがりに不快だと思った人間に気ままに危害を加えられたら優花の生活がめちゃくちゃになってしまう。
無論よっぽど曲解する思考回路の持ち主でもない限り優花とかかわりがあると考えないだろうが。ある程度の量を超えれば疑いの目が向けられるかもしれない。
なんとなく周りに人氏にが多い時、たとえ何もしていないとどんなものが機関や常識が証明していても死神月などという不名誉な渾名をちょうだいすることもあるのだ。
とにかく、命令があるまで動くなと命じた。
ふと、優花は目の前の食卓を見る。
味噌汁が暖かな湯気を立ち上らせ、白いご飯もその横の色鮮やかな鮭もおいしそうだ。
食べ物だ。
美味しそうな匂いも漂ってくる。なのに食べたいとは思わない。
身体が要求していないのだ。
優花は空腹を感じていない。
今頃の時間だったら、間違いなく空腹を感じているはずだ。体調が悪くて空腹を感じていないのではない。
食事をとりたいという欲求がまったく感じられないのだ。
自分の身体が変わっていく。
何かが作り替えていく。そんな感覚に優花は身震いした。
「どうしたの?」
ご飯茶わん片手に不思議そうに母親が箸を持ったまま固まっている優花を見ている。
優花は味噌汁を口に含んだ、味はいつもと変わらなかった。
優花はもう学校へ行く気も失せていた。
それに、心のどこかで、優花はいつか普通に戻れるのではないかと思っていた。
戻るために具体的に何をすればいいのか見当もつかなかったけれど。しかし今は沙依がいる。沙依は優花と密接につながりあっているという。
優花が普通の人間に戻った時、沙依はどうするのだろうか。
どういうわけか、今は優花の方が強いと沙依は認識している。
しかし、それが逆転した時、沙依はこのまま優花を放っておいてくれるだろうか。
下手すれば、優花は沙依に食われるかもしれない。
相手は魔物なのだ。
優花はたまたま目についた次元の隙間をこじ開けて、その中に飛び込んだ。
行き先など考えていなかった。