私、役小角か安倍清明みたい
優花は腕時計を見た。まだ一分もたっていない。ずいぶん経っているようにも思えたが、時間の経ち方が違うのかもしれない。
雲のようなものの隙間から銀色の砂のようなものが立ち上る。
あれは命のもと、不意にそんな連想が浮かび上がる。
単細胞生物が集まって多細胞生物に変化するように、あれもまた少しずつ寄り集まり凝っていく。
「あんなふうにして生まれるんだ」
「あたしはね、でも違う生まれ方をするのもいるし、普通の生物から変化してしまうのも見たことあるねぇ」
普通の生物から、変化。不吉な言葉を聞かなかったことにしようと優花は誓う。
絶対元に戻れると信じて。
「名前がないと不便だな」
そう言ってそれを見る。
「名前?」
どうやら名前がないようだと判断した優花はしばらく考えて、それを指差した。
「沙依と命名する」
それは次の瞬間、カッと目を見開いた。
「さ、よ、り」
優花の言葉を反芻するように繰り返す。
ざわりと肩までの髪がうねり狂う。まるでそれの周りだけ水中になってしまったかのように。
「え、え?」
自分でしてしまったにも関わらず、優花は何が起こっているのかさっぱり理解できずにいた。
ゆらゆらとゆれていたそれは優花の前に跪く。
「何があったの」
わけもわからずそれを見下ろしていた優花の前にはららがいつの間にか立っていた。
「いやー、食べないでっ!!」
先ほどの優花の時よりも大きな悲鳴をあげて、それは飛びのいた。
「お前のような食べでのない雑魚などいらん」
はららはそう言ってそれをつき倒す。
「なにもそこまでしなくても」
慌てて優花はそれを助け起こした。
「何をしたか、理解していないのか」
はららはつまらなそうに優花を見た。
「何をしたか分かって下なら面白かったのだがな」
はららのこういう言いようにはすでに慣れかけていたが、不愉快なことには変わりない。
「何をしたって言うの」
「名前をつけただろう。お前がした名付けはかなり強固なものだ、もはやこれは生涯その名を背負う。それほどまでに重い名をつけた以上、これはお前に縛られる。お前が消滅する時までな」
「重いって」
実際かなり軽いノリで名付けた自覚のある有香には理解しがたいことだった。
「これはお前の使役するべき存在」
優花はそれ、もとい命名沙衣をしげしげと見降ろした。
「つまりずっとそれはお前についてくるということだ。そう言う名付けをしている」
どういう名付けだと突っ込みそうになったが、つまり、これは自分の式神」というものになったということだろうか。
「まじですか」
力なく呟いた。