衝撃の事実です
優花はひたすら困惑していた。だから食べないでってなんだ?
えぐえぐ泣いているのを見ているのもいいかげんうっとうしくなってきた。
「五月蠅い」
それだけ言うと襟首をつかみ上げた。
「あんたなんか食べたくもないわ、いい加減に泣きやみなさい、あたしはこれから学校に行くの、あんたにつきあってたら遅刻するでしょ」
べそっとした顔をあげて不思議そうにそれは優花を見上げる。
「食べないの?」
「食べません」
優花はようやくこの相手がもしかして人間じゃないのかと予想した。
「とりあえず学校に行こう」
そう言って優花は相手に手を差し伸べる。
ようやく泣きやんだそれは優花の手を取って歩きはじめる。
優花は歩きながら、周囲をうかがう。隙間隙間に別の風景を見ながら目指す場所を油断なくうかがっていた。
「そろそろ出ますよお」
間延びした声でそれは言った。
「そう言えば、どうして学校にいたの」
もし不穏な目的でいたなら、そこまで考えて優花は頭を抱えた。
妖怪退治なんかできないし。どうすればいいんだろう。
「気を吸っているんです。あそこは若い人がいっぱい集まるから、気も濃いんです」
どうやら杞憂だった。おそらく残留思念とかあるいは優花がたまに触れるあの光の残滓を食っているだけだ。
優花は安堵のため息を漏らす。
「ここは普通生きた人間なんか入らないですよお」
それは間延びした口調のまま不思議そうに優花を見る。
「たまに死霊なんかが紛れ込みますけど、すぐ消えちゃいますね」
どうやら幽霊を見る日も近いらしい。
「つまり、まあ、学校で、空気を吸ってるだけなのよね」
優花はそう言ってたしかめる。
「まだそれしか食べられないから」
まだ、なんとなく不穏な言葉を聞いたような気がしたが、あえて優花は書かなかったふりをすることにした。
「あたしたちみたいなのは何となく生まれて、一番最初に目についたところに行きますね、まあ、別のに見つかって食べられなければですけど」
鮫かと優花は突っ込みそうになった。
同族でもお構いなしに食らいあうその生態はあの魚に似ていた。しかし、会話ができるだけの知能もある。
優花の理解できない審理で行動しているらしい。
「ほら、ああやって生まれるんです」
そう言ってそれが指さす方向に目を向ければ、金色の光の粒のようなものがどこからか漂ってきた。
それは少しずつ凝り、大きな光になる。
そして一瞬で消えた。
「ああ、食われましたね」
何事もなかったかのように呟く。
優花はカメレオンやカエルの舌を連想した。それにからめとられたように喰われて消えた。
「あたしは、ああそうだ、あんな姿をした時、死霊とぶつかったんだ」
死霊を取り込んで今の姿になったらしい。
あれ、と優花は引っ掛かるものを感じた。
優花の高校は新設校で、確か優花が入学する一年ほど前に、交通事故で生徒が死んでいるというのを聞いたことがある。
受験前に縁起が悪いと思ったから覚えている。
そうすると、目の前にいるこれは。
「まさか、二歳?」
それは不思議そうな顔をしていた。
サメのほかにマグロとか、共食い前提で生まれる魚は多いですよ。




