慣れって怖い
どんと爆発するように水面がはじけた。
そしてすさまじい勢いでほとばしる水流と長い髪の女が水面に立ちあがる。
その身体はするすると伸びていき銀鱗を光らせる蛇体へと変化した。
するすると水面をはい再び水中に潜り、またはい出すことを繰り返している。
水面で身を躍らせるその身体。上半身は腕のない未熟な少女のようだが白い下半身はうねり狂う。
「あれはなあに?」
優花はぎこちなくそれを指差した。
「エンダフィーメラ」
はららの答えは相変わらずざっくりとしている。
ふと優花の脳裏に全く別の文字が浮かんだ。
円蛇姫王と。言葉の響きは微妙に合わないのだが蛇の身体をもつ女にはふさわしい名だが。
「あれは魔物というより、現象の一種だなあれを見ろ」
波しぶきが見える。そのしぶきの向こう側に別の景色も優花の目にははっきりと見えた。
「あれはあやって次元とお前達が読んでいるものをひっかきまわしている。その目的は不明だ」
優花の目には円蛇姫王は縦横無尽に跳ね回っているようにしか見えない。
その顔は見えた限りではマネキンのように端正で動かない。
「あれを見極められたということは変化は順調に進んでいるということだな」
はららはそう言って満足げに優花を見た。はららのほとんど動かない表情の中にかすかな笑みを見つけて優花の頭に血が昇る
「あんた、面白がってるわけ?」
「退屈だからな、こんな気晴らしはめったにない」
ギリと優花は歯をかみしめる。
「帰る」
優花はそう言ってはららを睨む。
「自分で帰ったらどうだ。もう見極めはできるんだろう?」
はららはそう言って円蛇姫王を指差す。
円蛇姫王が徐々に近づいてくるのが見えた。
優花は目を凝らす。しぶきの中に見慣れた風景を探して、あるいはそれを引き寄せようと。
そして、とっさに見えた光景に優花は手を伸ばした。
そこは自宅近くの路地裏、先ほどはららといた場所よりはるかに離れた場所だ。
早朝ゴミ捨てでにぎわうが、それ以外の時は閑散としている。
優花がいきなりここに現れたのを見とがめた人はいないようだ。
優花は小さくため息をつく。結局近道ができたわけだが。
急に返ってきた優花に母親は不審そうな顔を見せる。
「風邪をひいたみたいなの」
そう言い張って小さくせき込んだ。
母親は何も言わず優花とすれ違う。
一度だけ振り返ると、買い物に行って来るとだけ言った。
優花は母親の光に触れた。だけど先ほどよりショックは受けなかった。すでにわかっていたことを確認したにすぎなかったから。
円蛇姫王のほかに珠魂もいます。 二人?の全長はほぼ一緒です。
珠魂は青金編に出てきます。




