第6話 現実
「羨ましいか?」
「ふう…」
『リンカーズ』を外すと、ゆっくりと上体を起こし、一息吐いた。
(初日早々、出会いフラグがおっ建つなんてな…)
掌を眺める。
詳しく突っ込めば“伊予”に触れた右掌であるが。
VRの筈なのだが、そこには現実と変わり無い、人肌の温もりの感触が未だに脳内で反芻していた。
「…再限度、半端無ぇ」
実の所、小雪という少年はあまり人と触れ合うのは好きではない。
だからといって人と交流するのは別に嫌いという訳でもない。
問題では無いのだ。
幼少の頃にちょっとした出来事から苦手意識を持ってしまって以来、苦手意識を持ってしまっているのが原因である。
「駄目だな…まだ……」
性別は関係ない。
“自分から肌と肌の触れ合いを求めた”という事実が、小雪にとっては重要なのだ。
初めてのフレンドと一緒に傍に居たかったからなのか。
それとも本能で逃れられないと悟ったからなのか。
再現率の高さが、小雪の半端に閉じた殻を否応無しに小突いてくる。
「小雪ちゃ~ん、もうすぐお夕食だから手伝ってね~」
いきなり女性がドアを開けて部屋に侵入してきたと思うと、両腕を広げ小雪目掛けて飛びかかってきた。
小雪は小動物よろしく素早くベッドから逃れると、標的を逃したのかぼふりと勢いよくダイブの音を響かせる。
「ノックも無しに急に入って来るな、どピンクブラコン」
「ちょっとぉ、酷いよ小雪ちゃ~ん」
小雪から“どピンクブラコン”と呼ばれた女性は恍惚の表情で顔を赤らめながらくんくん、はふうとまるで匂いを楽しむかの様にベッドの布団に包まる。
「うぇへへぇ~、小雪ちゃんのにほい~」
「流石にブラコンにも限度があるぞ、淡雪姉ぇ。 というかキモい」
やれやれ、と溜息を吐きながら腕を組むと淡雪の頭を踏ん付けた。
「全く…弟煩悩なのは良いがな、節度を弁えやがれ!」
「むぎゅ…。 むー、小雪たんの意地悪ぅ~」
「ったく…。 兎に角、俺は先に居間に行ってるからな」
「ちょ…待って小雪たぁぁぶ!?」
思いっきり部屋のドアを閉めた拍子に淡雪は目出度く、ドアと一夜限りの熱い口づけを交わしてしまう羽目になってしまうのであった。
「しくしく、お母様ぁ~」
「あら、何かしら?」
「兎に角小雪ちゃんが酷いのぉ~、反抗期なの~」
よよよ、と瞳を潤めながら懇願めいた台詞を母と呼ばれた女性に話す。
「…淡雪?」
「ベッドの下を探しても~健全なエアガン雑誌しかないし~、箪笥の中なんて小雪ちゃんの匂いが染みついたお洋服とかしか見付からないの~」
「あらあら…………これは後できつーいお仕置きを据える必要があるわね?」
「ふきゅーん」
(毎度毎度、よくまぁ似た様なカオスな光景を繰り広げられるよ)
我関せず、の表情で味噌汁をずずずと吸う。
「小雪、貴方からも何か言いなさい」
「明日俺はこう言うでしょう…『昨夜はお楽しみでしたね』…お代わり♪」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
素っ気無い表情で冷たく焼夷弾を投げ入れ、姉・淡雪の絶叫を無視しながらお茶を飲み干して一息吐いた後この上ないくらいの笑顔を母親に送った。
既にご飯、味噌汁、オカズを食べ終えており、母に味噌汁の碗を突きだし催促する。
「んふふ。 やっぱり息子のその美少女顔で催促されるとお母さん、無性に応えたくなっちゃうのよね~」
「母さんの料理が美味しいのがいけないんだよ?」
「あら~、じゃあ今度久し振りに一緒に作ってみようかしら?」
「わ、私も混ぜてぇ~」
「貴女は駄目よ……我が家の錬金術師、さん?」
「ひーん」
食後、小雪は食器洗いを終えた後風呂に入り、それからすぐに布団に入って眠りに着いた。
次からはSTには無い追加分が待って(ry。
また何か在りましたら削除&修正していきます。