第14話 銃に宿りし魂と、札に収めし魂達の協奏曲Ⅱ
「其処まで鈍くは無い」
小雪が『リンカーズ』を外すと、スマホから電話が掛ってきた。
『よ、ゆっきーたん』
聞きなれた、そして耳障りな少年の声。
「私の知り合いにユッキータンという者はいません、もう一度掛けてくるなら髪の毛全部ひっこ抜いてその禿げ頭を燃やすぞ?」
『酷っ!? というか遠まわしに二度と掛けてくんなって言ってるようなもんじゃ…あああああっ切らないでー』
「……で、何ですか? この前押し倒してきてお尻を揉んできたセクハラ変態魔人さん?」
『あれは不可抗力だ!! 女子が思いっきり背中を押してきたから』
「何をこの期に及んで見苦しい弁解を。 そういってその前も押し倒してきた挙句胸を揉んできた癖に」
『あれも不可抗力だっつーの! それに誰がお前のTTPな絶壁なんかに欲情しなくちゃならないんだ!』
「ほう…貴様がそんなに男子を辞めたい等とは思わなかったぞ?」
『ひっ!? いや、あれはあれで御馳走様でした! だから許して下さい』
「よしよし、どの道後でその減らず口を塞いでやるから安心しな」
『今すぐお前の大好きな“スペシャル甘甘クレープ”買ってやるから! 後、“ハイパー愛愛クレープ”も』
「ち…。 まぁ良い、要件は何だ? さっさと応えろ、クレープが売り切れるだろ」
取り敢えず、少年は死刑宣告を免れた様で安心する。
「『マイソロ』だ」
「お前がそれを口にする…………という事は買えたのか」
『ああ。 序でに俺『銃術士』でやってるから一緒PT組まないか?
どうせお前の事だ、テスター時のデッキで無双してるんだろ?』
「PT…か。なら手土産を家に持ってくる序でに頼みたい事があるんだが」
『お前の方からそう言ってくるなんて珍しいな。 良いぜ、もう一人の方も良いか?』
もう一人、という事は不遇ジョブの『銃術士』ユーザー人口が姉を併せて一気に三人増えたという事だ。
『開始初日に起こった対PC戦のPvP戦見せられちゃぁな。 フィーネってお前だろ? 戦い方がまんまだったから』
「其処まで視姦させられてたのかよ…」
『露骨に嫌味を言うな』
「不可抗力で毎度毎度セクハラされている身としては今すぐにあんたを滅菌したい気分なんだが?」
『ぐ…言い返せねー』
「まぁ良い。 兎に角潜行開始したら【ファルシオン】商業区にあるカフェ『差し伸べる手』にお前の言う“もう一人”を連れてきてくれ。 詳しい話はその時に話す」
『了解。 んじゃ店近いから一旦切るわ』
「おう」
スマホを切ると、丁度淡雪がけしかけてくる気配がしたので思いっきりドアを開けると何かにぶつかる衝撃音と同時に「ぶぎゅ」という間抜けな声が聞こえてきたのでドアを少し戻すと予想通り淡雪がうつ伏せで大の字に倒れていた。
小雪はそんな情けない姉を踏みつけ居間に向かい、昼食を摂る。
食後にインターホンが鳴ったので出ると馴染みの袋を持ったイケメンが息を切らしながら其処に居た。
丁度デザートが欲しかったので、二人で一緒にクレープを食べ合った。
背後から「キィィィィ悔しい、おのれイケメン!!」と聞き覚えのある嫉妬の声が聞こえてきたが二人とも敢えて無視する事に決めた。
そしてひとしきり食べ終えた時に、小雪が先程とは打って変わり真剣な表情で口を開いた。
「舞斗、そろそろ本題に入らせて貰う」
「おう」
「そろそろ、【オルセナ街道】を抜けた先に有る次の街【アムファムトラ】に向かおうと考えてる」
「まだ先だ先だと思っていたが…やるのか、攻略」
「ああ。 …それに“試したい事”もあるしな」
小雪は不敵に笑う。
「おおぅふ…」
その黒い笑みに舞斗の背筋が凍り付く。
「ま、それ以上は潜行開始してからだな」
「だな」
舞斗と別れた小雪は再び自室で『リンカーズ』を装着すると『潜航開始』した。
宿屋から出たフィーネは服装を改めて見る。
『銃術士』というジョブのお陰で何でも装備できるし、防具機能は皆無だが、現在装備している防具では、かなり派手派手に思える。
(旅立つ前に服装を一新するか)
待ち合わせは商業区、序でにと服飾デザイナーを目指す生産プレイヤーが開いている服飾専門の店『マチバリ』へとやってきた。
フィーネはそっとドアノブに手を掛け、入店する。
「いらっしゃいませ」
店内はクラシックな様相で、それにマッチした商品を配置している。
「何かお探しですか?」
店長と思しき女性PPCがフィーネに訊ねてきた。
「次の街へ行きたいからね。 どうせなら今着てる派手目な物じゃなくてちゃんとした服装で街に入りたいんだけど……」
少し、フィーネの言葉が渋る。
「βじゃソロだったし、服装の事全く考えて無かったから…その、どうしたらいいか解らなくて…」
「え!? テスターだったのに利用してなかったんですか!?」
驚いた様で、信じられないという表情だった。
「『銃術士』だし…その気になれば何でも着れるし防具機能皆無だったから」
「ちょ…初耳なんだけど…」
「βじゃ『銃術士』は僕独りだけだったし。 現在知ってるのは僕と、後から合流する二人だけだから」
『銃術士』の非効率さは第三者から見ても明らかだ。
特にテスターや『銃術士』のジョブを選択したPCが一番良く知っている。
だが、逆にデメリットを知っているからこそ、『銃術士』の利点も然り。
今回が良い例だろう。
それに彼女も彼女だ。
彼女は『付与術士』でありながら、防具がメインの生産職であった。
通常は一定の防具性能の物を量産するか、高性能なオーダーメイドを作るかする。
しかし、彼女の決意である『良い物を作ろう』は、幾ら性能が低かろうが好きなデザインを沢山作り続ける原動力にもなっている。
性能はどうでもいい、現実と同じ様に低品質ながらも、動き易くてデザインを追求する事だけ考えればそれだけで良いのだ。
ある意味、彼女の努力は良い意味で生産者泣かせのPCであった。
「…宜しければお客様のお名前をお聞かせ願えませんか?」
「フィーネ。 性別は男だけど種族特性で女性専用防具しか装備できない」
この後更に女性PPCを驚かせる事となったのは言うまでも無い。
難しい。
STと同じノリで執筆してるから難しい上にキツい。
また何かありましたら削除&修正をしていきます。