第10話 無茶苦茶な論理が武器に通用する時Ⅳ
「生産偏ダヨ! ぱーとすりー」
「眠い…」
「お…起きている、だと!?」
淡雪が驚愕の表情で項垂れる。
「どうしちゃったの、小雪ちゃん!?」
「ん…珍しくゲーム内で徹夜しちゃって……ふぁ~」
「ほほぅ…」
小雪の台詞に反応したのか直ぐに立ち直って、怪しい笑みを溢した。
「伝説系の鉄鉱石のインゴット量産までした訳なんだけどお陰で鍛冶スキルの最高位まで取得できたんだけどね…」
「……へ?」
どうやら淡雪は妙な勘違いをしていたらしく、直ぐに呆気に取られた表情に変わった。
彼女の事である、恐らく思春期擽るいかがわしい何かに手を出したのでは、と勘繰っていたのだろう。
当てが外れた訳である。
「何の…ゲーム、かな…?」
恐る恐る、訊ねる。
「……話題の『マイソロ』…だけど?」
眠気のせいで無愛想な顔で、殆ど無意識の状態で姉の言葉に応えた。
「え、『マイソロ』って、あの!? ちょっと、どういう事!? 姉に黙ってそんな凄い物をやってるなんて!! ね、何かの間違いよね…?」
軽いパニック状態で両肩に手を置いて、小雪をぶんぶん揺さぶる。
「こちとらC版からやり込んでる古参何だから当たり前じゃない…あ」
どうやら今の淡雪のアクションで眠気が吹き飛び意識が戻った様で、誘導尋問で隠し事が明るみに出てしまいげげっという言葉を洩らし、あからさまに嫌そうな表情をする。
「…確か姉ちゃんも『リンカーズ』持ってるんなら僕の机の棚にソフトがあるからインストールでもしといたら? ――――但し、箪笥漁って下着を持って行くなよ? 問答無用で母さんに報告してやる」
仕方なく諦めて、初回版のソフトがある場所を教える。
実の所姉・淡雪はゲーム廃人で、特にFPSシューティングアクションのゲームを得意としている。
この辺りは流石、姉弟と言った所だ。
「…良いの?」
「ソフトひとつあればインストール出来るでしょ? …姉ちゃんの事だからジョブはある程度限られてくるけど」
「もしかして…あるの、あれが」
「ある」
「有り難ら、小雪大明神様ぁ~んぶっ」
嬉しいのだろう、小雪にダイブを敢行してきたので、横にずれて避ける。
小雪が避けたために、勢い余って壁に激突してしまうのであった。
「うーん…また睡魔が…」
「どうした、雪坊」
「西村さん…あ、マルイの『CZ75・ファーストモデル』ですね? ¥1,800になります」
西村と呼ばれた人物は、僅かに無精髭を残した、三十代くらいのちょっとしたおじ様と言った感じの男性だ。
「んー…VRMMOゲームで銃を撃ちまくってるんですけど…どうせなら自分にあったのを作りたいので生産まがいな事をしていたら…」
「そこでも銃たぁ、銃マニアとしては良い心掛けだな」
「一応現実では銃刀法違反になりますからね…。 まぁ、ネチケットも含めてですけど銃作成のアイディアが止まらないんです」
「どんなゲームだ?」
「『MYTHOLOGY ONLINE』です」
「お前が銃と剣を持って無双しているイメージしか無いな」
「”銃士”スタイルは一種のロマンですよね。 でも銃と剣を合わせた二丁のガンブレードを使用する銃剣士も捨て難いです」
「その口振りからすればβテスターか?」
「ええ。 Cからです」
「お前等、何をくっちゃべってんだ?」
「氷室先輩」
「ひ・む・ろ…と、何時も言っているだろうが。 刑事みたいな呼び名は止めろとあれ程こないだ言ったばかりじゃないのよ、もう…」
やけにスタイルの良い、ジト目で無愛想な表情がデフォルメのポニーテールの女性が二人の会話に割り込んできた。
「いや、雪坊がオンゲの中でも銃を使用してるらしくてな、ついつい」
「全く…。 泡沫…ゲームも良いが今はバイト中だ、気を抜かれるのは此方としても非常に困る。 もう少し、自分の体の事を考えろ」
「解りました、以後気を付けます」
「……氷室先輩は相変わらず雪坊に甘いねぇ。 まぁ、そう言う俺もだけどなー」
茶化す様に氷室をからかう西村。
「可愛いは正義だろ?」
「ああ、その通りだな」
「…………何見てるんですか先輩方? ハラスメント行為でGMコールしますよ?」
「はいはい。 んじゃ、俺は今度新たに入荷するエアガンの試し撃ちに上の階に上がってるわ」
「…私も、先程から呼ばれているから客の要望に応えに言ってくる」
「行ってらっしゃい」
バイトを終えた小雪は夕食を終えた後風呂に入り、『マイソロ』の中へと『潜行開始』する。
「さて、今日は…っと」
【オルセナ街道】へ向かったフィーネは一振りの剣をインベントリから選択し、装備した。
『伐採剣斧“与作”』:Str+150 Dex+150 剣技使用不可 最高品質 大木の伐採を目的とした半刃の両手剣。 どんなに硬い待望をも、バターの様に斬る事が出来るという『伐採』に特化した創作剣。
モンスター等での攻撃力判定は皆無だが、その代わりに樹木等の植物に絶大な効力を持っている。
しかもスキルのお陰で最高品質になっている。
それでいて“創作“の範囲なのでフィーネの閃きはげに恐ろしいものだ。
『伐採』に特化しているのでアーツは使用不可能だが、それでも充分脅威である事には間違いは無い。
四、五本斬り倒した所で十分と判断し【オルセナ街道】を後にすると、『木工技師工房ランバージャック』に赴いてチュートリアルを受けた後に丸太からブロック状に加工すると、徐に目的の物を作っていく。
「一通りサンプルが出来上がったから引き上げるか」
と、早々に引き揚げた後に今度は『細工工房アーティファクター』を訪れ、同様にチュートリアルを完了させる。
少々駆け足になり気味だが、そうでないと目的の物が作れない。
此方は時間ぎりぎりまで粘り、やっと『細工術』のスキルLvを32に上げた時点で作業を終了した。
収穫は屑宝石を手に入れた事だろう。
フィーネはこの手の世界では“宝石を媒介に魔法を発現”させるのが定番だと読み、それを考えればMPを動力とした物が作れると考えている。
解り易いのは主に魔法使い等が所有している杖だろう。
あれらは先端に発動媒体である宝石を使用する事で威力の向上を計っているのだ。
つまりは、杖以外でも宝石を使用すればMPに依存した高威力・高火力の武器が作れるのではという結論に達した。
久々にステータスを覗いてみる。
Name :フィーネ
Level :16
Race :精霊
Sex :男性
MJob :『銃術士』
SJob :無し
Hp :1200
MP\TP :950\450
Str :112(225)
Def :112(+75)
Int :112(+30)
Agi :112
Dex :117(+300)
Mdef :112(+80)
Luk :102
Money :18500Cz
SP :0P
EXP :5P
Head :ゴシックドレスブリム
Acce :無し
Bady :ゴシックドレスジャケット
RArm :伐採剣斧“与作”
LArm :シェル・シールド
Waist :ゴシックドレススカート
Leg :ゴシックドレスブーツ
Skill :『銃術』Lv15『剣術』Lv10★『鍛冶神』Mster『千里眼』Lv20『調薬術』Lv10『細工術』Lv10『木工術』Lv10『伐採術』Lv8『魂撃(種族特性・控え移動不可)』Lv20
SesS :『黄泉送り』 『錬金術』Lv1『合成術』Lv1『盾術』Lv10『潜入』Lv10
「取敢えず『発見』と『探索』のスキルが加われば言う事無いかな」
『剣術』は『銃術』と組み合わせ『銃士』スタイルにすれば戦略が広がる。
それとは別に『銃剣士』スタイルも中々侮り難く、捨て難い。
『発見』は罠『探索』は『潜入』や先程の『発見』と併用すると相乗効果により凶悪な効果を発揮する。
そういえば、とフィーネが考えたアイディアで作られたサンプルのひとつを取りだした。
銃では無い…が、だからと言って全く役に立たない物でも無い。
「ニケさんの装備していた武器…と組み合わせれば…」
金属なら此処に在る。
後は足りない知識は現実世界で培った知識を応用すれば良いだけである。
「閃いちゃった!」
この上なく「ウザい!」と言われてしまう程目をらんらんと輝かせ笑顔になる。
すぐさま工房へ向かうと、脇目も振らずにブロック状の木をインベントリから取り出すと、それを削り、組み立てる。
何度も試行錯誤を重ね、途中『木工術』スキルが限界値の50になったために派生でアンロックされた派生スキル『精密製作術』Lv1に変換させた。
これにより、木材はおろか、モンスターの素材・骨・金属まで手を加える事が出来るようになった。
「此処をこうして…と出来た」
試作型技巧式鞭剣“ミミック”(木製) 良質 評価6 これまでにない機能を持たせた鞭剣、サンプル品なので攻撃力は皆無。
見た目はパタの様な形である。
刃を収納し、唾を180度回転させると説明文もそれに合わせて変わった。
試作型技巧式盾拳“パンドラ”(木製) 良質 評価6 これまでにない機能を持たせた盾拳、サンプル品なので攻撃力は皆無。
「これこれ…と」
作成したサンプルをインベントリに収納すると、毎度お馴染である『鍛冶工房タンレン』へと赴いた。
「おう、フィーネ。 ご機嫌じゃねーか」
「うふふふふ。 こんばんは親方。 今さっき良いの思い付いたんですよー」
「そうかい。 楽しみにしてるぜ」
「良し、早速」
とインベントリからミスリル・アポイタカラ・オリハルコン等…そして今しがた完成したサンプルを取り出した。
「先ずはサンプルを解体して…」
部品別に並べていく。
「こっからが本番!」
と、インゴットを鍛えて次々と部品を作成していく。
最初は基本となる外装部分。
これはオリハルコンを使用する。
厚さ0.5cmの鉄板に加工。
それを曲げ籠手部分を作る。
横に拳部になる部品も同時に作成する。
鍔も忘れない。
次に刀身。
小分けし摘み沸かして皮鉄と芯鉄になる部分をそれぞれ鍛え、糸状の物を通せるくらいの穴を開けるために真中を通す工夫をする。
炉に入れ、刀身が赤らめ来たのを見計らうと、切っ先となる部分をVの字に斬り落とすと叩いて行く。
切っ先が出来上がり、冷ますと、刀身の凸凹を削り取り、焼刃土を塗り炉にくべ刀身を赤らめ焼き入れる。
そして水で冷やし、てこ棒を切り取ると刀身を砥ぎ、何個かの刃に小分けする。
次に刀身と外装を繋ぐ鋼糸の作成に挑む。
ミスリルとアポイタカラのインゴットを折り返し鍛えそれを鍛接し、伸ばす。
そうして出来た0.1mmからなる鉄糸を縒り、太い鉄糸にするとそれを数回作り上げ束ねる。
何度もそれを繰り返し、1cmの鋼糸を完成させた。
丁寧にそれを組み立てると、サンプルと同じ様な形に出来上がった。
「此処から一気にスパートを掛ける」
先ず、『合成術』スキルで沢山集まった屑宝石を宝石(大)に変え『精密製作術』で宝珠にする。
『精密製作術』を使用し宝珠の内部へ『循環』『貯蓄』『帯留』『放流』の方陣を刻んで行く。
以前図書館と呼ばれる場所で『付与術』の本を読み、方陣をメモしていたのでそれに倣い慎重に、且つ丁寧に彫っていく。
『調金術』と『付与術』のスキルが無いためアシストが全く効かないので、何度も何度も失敗を繰り返す。
『精密製作術』のLvが20になった時点で失敗が減って来たのを目安に根気よく刻んでゆく。
「できた」
前もって作成しておいたミスリルとオリハルコンで出来た幾何学模様が刻まれたプレートに宝珠を嵌め、これも前もって作成していた充魔機に接続すると宝珠の内部で光を帯びていった。
充分に魔力が補填された事を確認すると、宝珠を嵌めたプレートを先程の武器にセットしこれを持って完成する。
魔導技巧式鞭剣“ミミック” 最高品質 耐久度100 Str+150 充填MP100 これまでにない機能を持たせた鞭剣。 内部魔力を動力としてギミックを発動させる事が可能。
「もうすぐ時間だ…て、何だそれは!?」
「或る人に向けて作ってみたんです。 それ以上の情報料高く付きますけど?」
「そうか…まぁ、あまり無茶をするなよ?」
「はい」
宿屋で浮上開始する前にフィーネは念話ならぬ、ウィスパーを起動させ、フレンドリストから“ニケ”を選択し通信を入れた。
『もしもし? こんばんは。 今、暇?」
『その声は…フィーネさん?』
『ちょっと面白い物が出来たんだけど、時間取れる?』
『今、ですか?』
『僕は浮上開始するけどその前に言いたい事があるんだけど』
『手短にお願いしますね』
『明日、『和み亭』の前に来てくれるかな? 新しい武器を作ったんだけどそれを検証するために一緒にPT組んで狩りを行いたいんだ。 今の所ニケさんしか扱える物が居ないから』
『え…随分と駆け足過ぎないかい?』
『今の所、銃を作成する工房が見つからないからね。 それまでは狩り(ハント)か、生産しかないってのが現状』
『確かに。 君は『銃術士』だったね。 良いよ、僕も楽しみだし』
『有難う! 途中同行者が出来た場合はどうする?』
『良いんじゃないですか?』
『有難うございます。 ではお休みなさい』
『お休み』
ウイスパーを切ると、期待を胸に膨らませてフィーネは浮上開始した。
無いのならば作ればいい。
また何かありましたら削除&修正をしていきます。