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徒然みなもの非日常  作者: でぃあぼろ
みなもディスターブ
19/19

夕波ディスタンス

新章だぜイエイ!!

 ご存じの方もいらっしゃいましょうか。わたしは、夕波 梓ともうします。

 わたしという人間を語るにおいて、『普通』という単語を外すわけにはいきません。サラリーマンと保育士さんの間に生まれ、普通の保育園に通い、普通の小学校に通い、今だって普通の中学校で普通に過ごしています。物語の主人公のように、ある日とつぜん異世界に転生したりだとか、吸血鬼に出会ったりだとか、そういうことは一切ありません。そして、これから先もそんなことは一切合切ないと思います。

 わたしだってもう中学二年生です。小学生みたいに主人公に憧れているわけにはいかないのです。自分の立場くらいわきまえているつもりです。

 わたしは主人公にはなれないって。



 ――――――――



 わたしは友達が大好きです。

 あいにくと、クラス内ヒエラルキーの下層部に位置するわたしにはあまり友達がいません。

 休み時間に話してくれる人は、幼馴染みの枕木 炎歌ちゃんと、入学したての時に最初に席が隣どうしだった紅葉橋 雀ちゃんと、今年同じクラスになった徒然みなもちゃんの2人くらいです。

 あともう一人、エレナちゃんという留学生の女の子がいるんですが、その子とももうすぐお友だちになれそうです。今は頑張ってアプローチしています。私なんかと友達になってくれれば嬉しいな。

 しかし最近は、その3人と距離を置くことが増えている気がします。というよりか、きっとわたし自身が彼女たちから遠ざかっているんだと思います。

 4人ともすごく変わった人で、何の個性もないわたしなんかが一緒にいて大丈夫なんだろうか? と疑問に思うときがたまにあります。

 きっとこれをみんなに言うと、「そんなことないよ」なんて優しい言葉をかけてくれるでしょうが、わたしは、お世辞が聞きたいんじゃないんです。

 自分自身を変えたいんです。

 変わって、彼女たちの相応しい友人でありたいんです。

 もっともそんな事ができれば、最初からこんな悩みを抱くことはなかったのですが。


 放課後の教室。誰もいない教室。

 わたしは今日偶然、家の鍵を忘れてきました。家族が帰ってくるのは7時を過ぎてからなので、それまでは家に帰れません。

 ので、わたしは学校に残って宿題なんかをやっていました。本当なら炎歌ちゃんたちを誘って7時まで時間を潰すはずでしたが、そんなことをお願いできるだけの勇気を、あいにくわたしは持ち合わせていません。

 せめてもう少し勇気があればみんなともっと仲良くなれたかもしれませんね。

 卓上の空論ですかね。


 教室の壁掛け時計にふと目をやると、時刻は既に5時を越えていました。5時22分の電車に乗れば、家に変える頃には7時になっているはずです。

 わたしは文房具の一式を鞄に詰め、教室を出ました。



 たとえば、ある日とつぜん異世界に転生したり、吸血鬼に出会ったなら。

 わたしは“主人公”になれるのでしょうか?





 夕波ディスタンス・終――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――?










 「――――?」

 靴を取ろうと靴箱を開くと、中から見慣れないものがひらひらと落ちました。

 これは―――、手紙? 靴箱に手紙といえば、女の子ならどうしても、ラブレターを想像してしまいます。

 しかしこんなわたしを好きになる人なんかいませんよね?

 たぶん他の人と間違えたか、果たし状かのどちらかでしょう。

 わたしはその手紙を拾い上げます。

 白い封筒にピンクのテープという簡素な作り、いえ、誰かの想いが詰まった手紙です。簡素だなんて失礼が過ぎましたね。すいませんごめんなさい。


 「――――?」

 いえ、これは誰かの想いが詰まった手紙なんかじゃありません。

 封筒の裏には、『夕波 梓さんへ』と書かれています。

 どうやら果たし状の方だったようです。

 愛想を振りまいた覚えはありませんが、怒りを買ったことはもっとありません。ないはずです。

 嫌われないように生きてきたのに、これで果たし状だったら人生を否定されたようなものです。

 わたしは、希望と絶望をぐちゃぐちゃに混ぜた複雑な感情で、中の手紙を開きました。

 「…………」

 そこには、こう書かれていました。







 超能力者になりませんか?



   はい/いいえ








 たったその一文だけ。

 「…………」

 何も感じませんでした。

 いたずらだってことくらい分かっています。

 しかし、わたしはきっぱりと意思表示をすべきなのだと思いました。

 自分を変えるためにも。

 わたしが選ぶのは、もちろん『いいえ』です。

 わたしが欲しいものは非日常なんかじゃありません。

 みんなと過ごす平穏そのものが、わたしの唯一の居場所だから。







 超能力者になりませんか?


  ×はい/いいえ○







 わたしにとっては、これが正しい選択なんです。

 さあ、帰りましょう。

 「…………」

 「………………」

 「……」

 「……………………」

 「……は」

 「……あ、ははは」

 「は、はは」

 自分の気持ちに正直に?

 これがわたしの正直な気持ち……?

 平穏な日々を心から望んでいるのは本当です。戦争なんか大っ嫌いです。

 でも。

 そんな“異常”に憧れていた気持ちも、事実なんです。

 わたしが夢見がちな女の子だってことは認めます。

 少しくらいなら空想したっていいじゃないですか。

 だってわたしは、中二なんですから。









 超能力者になりませんか?


   ○はい/いいえ×











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