クラスマッチ編:後編
異様に長くなりました。
分割しようにも、すでに前編って書いちゃったから後編じゃないとまずいかなーと
「あうっ!」
「やはり投げられたボールがみなもちゃんの顔面に!? 大丈夫みなもちゃん!?」
「顔面セーフ!」
「しかも顔面セーフ! これじゃあ完全に犬死にだよ!」
死んでないのです……。
ドッジボールは現在、我々O組の劣勢。各組12人ずついた内野のメンバーは、O組・9人、Q組・11人と僅差なのです。しかし戦力差は大きく、このままだとO組の敗北に終わってしまうのです。
それだけは避けねば。です。
「危ないみなもちゃん!」
クラスメイト女子のみんなは、雀ちゃんの言いつけ通りみなもを守っているのです。その行為こそが劣勢の最たる理由なのです……。ここはやはり、数を減らすことに妥協して、足手まといのみなも自身が外野に出さえすれば……。
参謀係の雀ちゃんが早々にボールに直撃し、外野に出てさえなければ相談のしようもあったですが……。
「あうっ!」
そんな心配をよそに、とうとうみなもは、ボールに当たってしまったのです。
「みなもちゃんが珍しく顔以外の場所にボール当ててる……」
「みなもの顔はボール掃除機なんかじゃないのです」
しかしこれで8対11。勝負は更に劣勢なのです。
「みなもはみんなを応援することしかできないですか……!?」
「いや、ゲームに参加しろよ……」 外野にいるのは雀ちゃん、梓ちゃん、要ちゃん、纏ちゃんの4人。名前が漢字1文字のメンバーが都合よく揃っていたのです。
外野から客観的に見たところ、妙なことに気付いたのです。
さっきから、というか考えてみれば試合序盤から、Q組全体の覇気が妙にないのです。試合をやる気がないならここまで強くはないですが、かといってやる気を出さなくでも強いのならこれまでの競技で大差をつけて勝利していてもおかしくはない。
気が付けば、試合は6対12という絶望的な展開になっていたのです。
「…………」
やはりQ組は全体的に、覇気に、オーラに、士気に、生気に欠いているのです……。 それはまるで、“操り人形”みたいに……。
ともかく、炎歌ちゃんたちが頑張って持ちこたえている間に、原因を探し出して対処しなければ……!
「うおおおおおおおおおおおおおお! いっけぇー炎歌ぁぁあああぁああああああ!!」
「……………………」
「いいぞーっ! 頑張れぇぇぇー!!」
「………………」
「炎歌危なっ―――! よっしゃー!」
「…………」
「よっしゃー! まずは1人だっ!! どんどん当てていこぉぉぉぉおおおお!!」
「……!?」
いや。
やはりこれは、誰かの能力が干渉しているのです……!
ただ単にやる気がないだけなら能力干渉を裏付ける証拠にはなりえないですが、この場においては決定的な証拠があったのです。
それは、炎歌ちゃんの“炎使いの能力”による≪情熱流出≫。
炎歌ちゃんはその時の情熱が昂るにつれ、周囲の人間の感情にも情熱の炎が燃え移る習性があるのです。
実際に炎歌ちゃんが全力で試合に挑んでいる今、O組のみんなは異様なまでのテンションになっているのです。しかしQ組にはそれがない。
炎歌ちゃんの無意識的能力に敵味方の差別はない。
そして、能力と能力は相容れない。
つまり、Q組のメンバーの間で何らかの能力が働いている――――という見解が可能です。
可能性は2つ。
1つは、Q組の女子メンバー全員が能力者。 1つは、Q組の誰かが能力者で、試合に出ているメンバー全員に能力干渉している。
――――前者はありえないのです。みんなのテンションの落ち着きが均一なのを見て、後者に間違いはないと思うのです。
だったら。
能力者は誰か。
■□■□■□■□
あからさまに怪しい人間が一人いたのです。
能力の使用には集中力が必要。しかし試合の最中、ボールを避けながらこれだけ多くの人間を支配するのはまず不可能。
となると、外野にいる人間、もしくはゲームに参加していない人間。
外野の人間のなかに犯人がいるとすれば、ずっと外野に居続ける必要があるのです。しかも最初の方から。
最初から外野にいる人間ではないのです。最初から外野にいたなら、チームの誰かが外野に出てきたら交代で内野に入らなければならないルールがあるから、今頃は内野にいるはずなのです。
ならば。
犯人は、序盤でボールにわざと当たり、外野に出た後にはほとんどボールに触れず、そもそも試合にほとんど参加していない人間。
そのすべてに該当する人物がQ組に一人だけいるのです。
イギリス人留学生。
エレナ・メラクリーノ。
ここまで証拠が揃えばもはや疑う余地なし。
となると――、彼女をいかにして処分するか。問題はそこなのです。
こちらの外野とあちらの外野の間には相当な距離が存在するのです。この距離では直接攻撃はできそうにないです。
「…………」
「さっきからどうしたんだみなも? 具合でも悪いのか?」
と、雀ちゃん。
「少し……喉が渇いたのです。水を飲んでくるのです」
「ん? 今は試合中――だけど、まあ倒れられても困るし、いってらっしゃい」
「かたじけないのです」
みなもは体育館の外に出てすぐにあるウォータークーラーに向かったのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇
戻ってきたときにはかろうじて試合は継続状態。どころか、少しだけ回復していたのです。
みなもは右手の二の腕から下をびちゃびちゃに濡らし、再び外野後方に。
あいての能力を止めるためには集中を途切れさせる必要があるのです。
みなもは、右手にまとわる水を操り、人指し指に集中させ、弾丸程度の大きさの水の球体を作り出しました。そしてその照準をエレナ・メラクリーノに定め、発射。
BANG。
水の弾丸は綺麗に内野の人間を避けるようにジグザグに軌跡を描き、そしてイギリス生まれの金髪少女、エレナの目の前で―――炸裂。
「うわっ!?」
エレナのその声と共に、Q組の女子たちは自我を取り戻したのです。
「あ、あれ……あたし……、きゃっ!」
O組外野の投げたボールがQ組の一人に直撃。
これで7対8。ほぼ互角。
作戦は見事、成功したのです。
最終戦、ドッジボールは、O組奇跡の大逆転によって、勝利に幕を下ろしたのでした。