緑茶使いの能力者、覚醒
「今日は疲れたのです……」
自宅に戻り誰にともなく呟く愚痴は、玄関の一枚鏡を通してみなもに更なる打撃を与えたのです。
どうしてこんなことになったのか。
緑茶使いの能力者? 訳が分からないのです。
みなもはリビングに到達するまでに3回は溜息をつき、そこで喉の渇きを思い出したのです。
「はぁ……」
またもや溜息。幸せが逃げまくりなのです。
冷蔵庫で冷やしておいた麦茶をコップになみなみ注ぐのです。なみなみ。
というかそもそも、今日一日“緑茶使いの能力者”になったところでみなもには何の影響もないのです。
なぜならみなもは―――、緑茶が嫌いだから。
あんな苦いお茶は飲めないのです!
操るべき対象物が無ければ操れない! しかも、あったところで使わなければいい話。
そう自分自身に言い聞かせ、みなもは、コップに注がれた麦茶を一気に半分ほど飲み干――――
「!? げほっごほッ! かは! …………はー。はー。はー。」
これは……。
みなもが嫌いな―――“緑茶”の味!?
これが―――緑茶使いの能力!?
まずいのです!!
すぐ炎歌ちゃんに報告なのです!!
そう思い受話器の前まで来ると、すると突然電話が鳴り始めたのです!
炎歌ちゃんからです。
『みなもちゃん大変!!』
「ど、どうしたです!?」
『あたし……急におにぎりが食べたくなって……。コンビニでおにぎりを買ったんだ』
「…………」
『家に帰っていざビニール袋から“おにぎり”を取り出してみると……』
「…………」
ごくりと唾をのむ。大体の予想はついてしまうのが恐ろしいのです。
『“おにぎり”が…………、“牛丼”になってたんだ……!』
「…………」
そしてその大体の予想は。あろうことか、完全的中。
『みなもちゃん? もしもーし』
みなもはみなもの体験を余すことなく伝えましたです。
『やっぱりみなもちゃんも……』
「一日持ちこたえられるか心配なのです……」
『こんなのが毎日続いたら精神崩壊しそう……』
「です。……じゃあ、その後の報告は、また学校で」
『わかった。じゃ、また明日』
「です」
切。
「はぁ……」
みなもはまたもやため息をついてしまったのです。本日5回目なのです……。
その後。
「手を洗おうにも緑茶だと全然洗われている気がしない……」
「あうー……、お肉の肉汁が緑茶の味……」
「緑茶風呂なのです……」
とにかく、みなもに触れる全ての液体(みなもが液体だと認識したもののみ)が緑茶に変わるのです。
この能力……無駄に調節が難しい。
みなもはこれ以上能力が使用されるのが怖く、いつもより2時間も早く、7時に寝たのでした。
翌日。
「……散々だったのです」
偶然登校中に炎歌ちゃんと出会いましたです。
「大変だったんだね……」
「炎歌ちゃんは何かあったですか?」
「みなもちゃんほど頻繁ではなかったけど、晩ごはんが牛丼になったよ」
「はぁ……」
「あと、ほっぺたに付いたご飯粒が牛丼に変わってた」
「ご飯粒が!?」
「うん……。たぶん、あたしが“お米”と認識したものが牛丼に変わったんだね。お茶碗に入ってる状態だとその一塊を“お米”だと認識するけど、一粒だけ孤立したら、その“一粒”を“お米”だと認識しちゃうから……」
「なるほど……」
「そうならないためにも!」
炎歌ちゃんは突然みなもの方に体を向け、みなもの手を取ったのです。
「一緒に指令を遂行していこうね! みなもちゃん!」
「お、おうなのです……」
「よっしゃー! 『みなもチーム』! ここに結成!」
代表はみなもですか……。
みなもは呆れながらもどこか少しだけわくわくしながら、校舎に入ったのです。