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第7話 冒険者として

町のギルドに帰って依頼完了の報告を済ませた。

ボクとロエルはパーティなので二人ずつの配当じゃなくてきっちり2000ゴールド。

あのオードが2000Gをもらってるのが納得いかない。

あいつ、ボク達の後ろをついてきただけなのに。

ガンテツとエトラムはポイズンサラマンダー討伐の功績で3500Gもらっていた。

この二人もパーティなので、きっちり3500Gだ。


「皆、お疲れさん。報酬も無事行き渡ったようだな」


ガンテツが全員を顔を見渡す。


「ガンテツさんがポイズンサラマンダーを仕留めたところ、見たかったな。

 さすがはAランクってところか」


そういってケイツは自分の弓とガンテツの斧を見比べている。

しかし、こうした賞賛の言葉にガンテツは一切反応せずにいた。


「うん、私なんて必要なかったんじゃないかな」


「そんな事はねえよ、エトラムさん」


「本当はボクが倒したんだ」


和気藹々ムードから一転、シンと静まり返った。

そして皆は一斉にボクを見る。

ボクはガンテツの前までいって睨みつけた。


「ボクがソニックリッパーを放ってなかったらやられてたくせに。

 なんで隠すんだよ」


「リュ、リュアちゃん……」


ロエルはおろおろしながらボクを引っ張って下げようとする。

ガンテツは何も言わなかった。気まずそうな表情をするわけでもなく

ただジッとボクを見ていた。


「それじゃ、オレから一つ話がある。それは」


「無視しないでよ!」


ガンテツにツバがかかるほど怒鳴った。

それでもガンテツはただボクを見つめている。


「なんで自分の手柄にするのさ! 卑怯者!」


「やめなよ、リュアちゃん……」


ぐいぐいと引っ張るロエルを払いのけて、ボクはガンテツに掴みかかった。

呆気にとられていた冒険者達もやがてボクを非難し始める。


「君、一体何を言ってるんだ?

 いい加減な事をいうのはやめなさい」


エトラムが怒気のこもった声でボクを制止する。


「答えろー! クソッ! クソッ!」


悔し涙を浮かべてボクはガンテツを睨み続けた。

沈黙していたガンテツが口を開く。


「すまない、話なら後で聞く。今はオレの話をさせてくれないか?

 それにここで揉め事を起こしてみろ、冒険者登録も抹消されて報酬もパーになるぞ」


「こいつ!」


「ダメ……ダメだって……リュアちゃん……」


ボクの腕を掴みながら、か弱い力で止めようとするロエル。

涙を浮かべながら何度も呟いている。


「やめよ……私、信じてるから……リュアちゃんがやっつけたって……」


ハッとなったボクは周りを見渡す。

怒り、呆れ、嘲り、様々な視線がボクに注がれていた。

我に返ったボクはすごすごと下がる。


「馬鹿じゃねえの?」


隣からボソッと言われた。

もう何も言い返す気力もない。

ボクはただ黙ってガンテツの話を聞くしかなかった。

ガンテツはコホンと咳払いをしてから話を続けた。


「えー、その、なんだ。ポイズンサラマンダーについてなんだが。

 あいつはとても執念深い魔物でな。一度、受けた恨みは絶対忘れないんだ。

 あいつと戦って逃げた冒険者の村まで追いかけて襲撃したなんて話もあるくらいだ。

 何がいいたいかっていうとだ、誰かがベアーズフォレストに入ってあいつを

 刺激したって線があるんじゃないかってな」


「そういえば……ベアーフォレストはヘルベアーよりも

 むしろポイズンサラマンダーのほうが厄介だとよく聞くな。

 単純な力関係ならヘルベアーが上だが、ポイズンサラマンダーの執念深さは

 確実に仕留めきれなかった時こそ怖い」


エトラムが親指と人差し指で顎を支えながらうんうんと頷き、相槌をうった。


「以上だ。何も他意はない」


暗にこの中の誰かがポイズンサラマンダーを刺激したとガンテツが指摘しているように

冒険者達は受け取っていた。


「お、おまえか?」


「オレがベアーフォレストに入れるかよ……あんなところAランクでもないと

 とても戦えやしないぞ」


冒険者達の間でどよめきが起こった。

ボクにとってそんな事はどうでもよかった。

さっきよりも冷静になったとはいえ、まだ納得はしていない。

解散した後、ガンテツはボクを呼び止めた。

近場の酒場で話をすることになった。


夕暮れの酒場は仕事を終えた人や冒険者で賑わっていた。

すでにお酒を飲んで酔っ払って歌いだしてる人達までいる。

ボク達はガンテツの奢りでメロンソーダをストローですすっていた。

久しぶりの炭酸の刺激が強かったのか、ボクは思いっきりむせた。


「よう、さっきは悪かった。まずは助けてくれてありがとな。

 これを受け取ってくれ」


1750Gを手渡された。さっきの報酬をボク達にくれたみたいだけど

確か3500Gのはず。と思ったら、エトラムと分け合ったのかと思い直す。


「あの、これは受け取れません」


ロエルが遠慮してテーブルの上に置かれたゴールドをガンテツのほうへ押し返す。

しかしガンテツは手でそれを阻止する。


「いや、オレは命を救われたんだ。

 それくらいさせてくれ、頼む」


両手をテーブルについて、頭を深く下げるガンテツ。

これ以上のやりとりは不毛だと思ったのか、ロエルは手元にお金を置いた。


「あの場でオレが何も言わなかった理由は二つある。

 一つはそれを認めてしまうとおまえ達の報酬がなくなるからだ。

 いくら奴を倒そうが、依頼内容は絶対だ。例外を認めてしまうと

 厄介な事がいろいろあるからな」


水を飲み干して一息ついてから、ガンテツは続けた。


「もう一つはだな、冒険者がランク分けされているのには意味があるんだ」


「意味?」


ボクはまだガンテツの言いたい事がわからなかった。


「説教できるほど偉くはないが、言わせてくれ。

 下位ランクにはそれなりの仕事がある。冒険者にとっては取るに足らない

 依頼だったとしても、依頼人は必死なんだ。

 それが解決する事によって助かる奴が確実にいる。

 ペット探しだろうと隣町までの護衛だろうと、そういった悩みを知る必要があるんだ」


ボク達はただ黙ってガンテツの話を聞いていた。

酔っ払いの騒ぎもまったく気にならなくなっていた。


「これがな、上のランクにいっちまうと見えなくなってしまう。

 いや、見なくなってしまうといったほうが正しいか。

 人に対して鈍感になり、例え上位ランクに上がったとしても

 そういう奴はいい加減な仕事をしちまうんだ。

 このくらいでいいだろう、報酬分だけやればいいかなんてな」


ふぅ、とガンテツはまた一息ついて水をグラスに注ぎ込んで一気に飲み干す。


「そういうのが時として重大な事故に繋がる事だってある。

 おまえさんが見たあのオードだってそうだ。

 このくらいでいいか、で済ませてちゃいけないんだよ。

 だからオレはあいつをこの酒場に連れ込んで徹底的に話した。

 鼻糞ほじりながら、聞いていたがな」


「そうか……」


ガンテツの言葉はボクの胸に深く響いた。

ランクを上げよう、それしか頭になかったボクにとって依頼人の事なんて

まったく視野に入ってなかった。


「下積みといえばドロ臭く聞こえるかもしれないが、おまえ達にはそれを学んでほしい。

 例えポイズンサラマンダーを一撃で倒せようとな。

 Aランク、Dランクどっちが偉いなんてないんだ。

 それぞれやれる事を精一杯やってる奴が偉い」


「ガンテツさん、ごめんなさい……」


ボクは心の底から謝った。


「いやいや、別に説教のつもりはなかったんだがどう聞いても説教だよな」


ガッハッハと笑うガンテツ。

やれる事をやる、か。ボクはまだDランク。

駆け出し冒険者として何が出来るか、よく考えよう。


「と、固い話はここまでだ。メシはまだなんだろ?

 今日はオレの奢りだからジャンジャン食ってくれ」


今までの雰囲気とは一転して、ガンテツは豪快にビールを注文した。


「依頼金までもらったのに奢ってもらうなんてとんでもないです」


ロエルは慌てて奢りを辞退しようとしたがガンテツの頭の中にはすでに

お酒の事しかないようだった。その証拠にしっかりとお酒の絵が書かれた

メニューを眺めている。今、ビールを注文したのに。


「もちろん、おまえ達は未成年だからダメだぞ?」


いらない釘を刺したガンテツは運ばれてきたビールをものの数秒で飲み干した。

ボクはロエルに頼んで料理を注文してもらった。


「気が向いたらいつでもアバンガルド王国城下町にこい。

 いつでも歓迎するぞ」


お酒で顔を真っ赤にしたガンテツに負けまいとボクもメロンソーダをガブ飲みした。

10年ぶりに飲んだ炭酸は、思い上がったボクを叱咤するかのように

喉の奥ではじけた。

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