第6話 勇気と無茶
「オード……さん? 負傷者は見つかったの?」
ボクが問いかけるとオードはそれを拒否するかのように手の平を前に押し出した。
「それより見てたぜ、おまえすげぇじゃん。
なんだよあの身体能力」
「そ、それより早く救出しないと」
そそくさとその場を立ち去ろうとしたけどオードが行く手を遮った。
「オレと組まないか? おまえとならあのポイズンサラマンダーをやれそうだ」
「戦っちゃダメだって散々言われたよ」
「なに、結果オーライだよ。倒しちまえばギルドだって認めてくれるさ。
あのおっさんばっかりにいい格好させていいのか?
あいつ、なんだかんだでオレ達より報酬多いんだぜ」
「チームの和は乱しちゃダメだよ……」
か細い声でロエルがうつむき加減に反論する。
「うっせーな、おまえじゃなくてそっちの青髪のショートカットの子に聞いてんの」
「ロエルはボクとパーティを組んでるんだよ。馬鹿にするな」
「あーあー、わかったわかった。もう頼みませんー」
子供みたいに口を尖らせると、オードはくるりと向きを変えて足早に歩き出した。
その方角は間違いなくポイズンサラマンダーのいるところだ。
「あの人、もしかして」
「うん、危ないんじゃないかな……」
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「マイトフォース!」
【エトラム は マイトフォース を唱えた! ガンテツ の攻撃力が上がった!】
ガンテツは空高く飛び上がり、ポイズンサラマンダーめがけて一気に斧を振り下ろす。
【ガンテツ は 大切斬 を放った!】
重力に身を任せたガンテツの一撃がポイズンサラマンダーの頭部に落下した。
奇声をあげたポイズンサラマンダーの頭部からは緑色の血が噴出した。
【ポイズンサラマンダー に 462 のダメージを与えた!】
【ポイズンサラマンダー HP 622/1520】
「かってぇな……だが大分痛めつけたはずだ」
ポイズンサラマンダーは血が噴出す頭部をもたげて、ガンテツを捕捉する。
次の瞬間、口から紫色の液体がシャワーのように放出された。
【ポイズンサラマンダー は ポイズンスプラッシュ を放った!】
ガンテツはとっさに右方向に飛びのいたが、左半身に浴びてしまっていた。
【ガンテツは 毒 を受けた!】
【毒のダメージ! ガンテツは 80 のダメージを受けた! ガンテツ HP 214/440】
「うぐぉッ! ここにきてか! だが頼んだぜ、エトラムさん!」
「エンジェルキュア!」
【エトラム は エンジェルキュア を唱えた! ガンテツ の体から毒が消えた!】
ポイズンサラマンダーはガンテツから受けたダメージが効いているのか
足元がふらついて、うまく追撃に転じる事が出来なかった。
「さぁて、一気にたたみかけるぜ!」
「あれがポイズンサラマンダーか! でっけぇな!」
エトラムの後ろで、オードは槍を構えていた。
「なっ、なんでここに! 作戦は聞いてなかったのか?!」
驚いたエトラムを意にも介さずにオードはポイズンサラマンダー目がけて走り出した。
「てめぇ、おっさん! オレを馬鹿にするんじゃねえよ!
オレの実力を見せてやるぜ!」
「馬鹿野郎ッ!」
ガンテツの一喝も空しく、オードの頭上にはポイズンサラマンダーの両足があった。
「へ?」
空中から自由落下した両足はオードを直撃、するはずだった。
飛び出してきたガンテツがオードを体当たりで跳ね飛ばし、そのまま下から上へ
斧を振り上げる。
ガンテツはこの重量をどうにかできるほど、慢心してなかった。
しかしこのまま踏み潰されるよりは最後の反撃を選んだ。
「オレもここで終わりか……」
えぐり込むような衝撃がポイズンサラマンダーを襲った。
それはそのままポイズンサラマンダーの前足から胴体まで一直線に切断し
二つに分かれたその巨体はガンテツとオードを避けて落下した。
【リュア の攻撃! ポイズンサラマンダー に 302701 のダメージを与えた!】
【ポイズンサラマンダー HP 0/1520】
【ポイズンサラマンダー を倒した!】
斧を振り上げたままのポーズでガンテツは遥か後方にいた少女の存在に気がついた。
ボクも剣を振り上げたままのポーズだった。
ソニックリッパーがギリギリ間に合ってよかった。
それにしても、この剣の追加効果は直接斬らないと発動しないのか。
とっさの事だから考えてなかったけど、もし発動していたらあの二人が巻き添えに
なっていた。そう思うと素直に喜べない。
「はぁ、はぁ、リュ、リュアちゃん待ってよ」
息を切らしながらロエルが追いついてきた。
ただでさえ歩きにくそうなローブを着ているので、その疲労は容易に伺える。
「すっ、すごい! ガンテツさん、あんな技があったならもっと早く使って下さいよ!
もう人が悪いなぁ!」
エトラムがガンテツに駆け寄る。
力が抜けたのか、尻餅をついたままのオードはまだ放心状態だ。
「よかった、無事に退治できたんだね」
ロエルもすっかりガンテツがポイズンサラマンダーを倒したと思ってる。
ボクの手柄なのに。
「……ミッション完了だ。帰るぞ」
はしゃぐエトラムの脇を通り抜け、そそくさとその場を立ち去ろうとする。
そして視線がボクを捉えたと思ったら、すぐに目をそらした。
ようやく状況を把握したオードがガンテツに後ろから声をかけた。
「お、おっさん……オレ、オレは」
「確かに命あってのものだな」
自嘲気味に笑って、ガンテツはまた歩き出す。
エトラムもそれを追うように走り出した。
「おい、リュアとかいったな。
そのポイズンサラマンダーの髭を切って持ってこい。
そいつは倒した証拠になる上に、高値で売れる。
ただし根元までは切るなよ、毒があるからな」
「え、あ、あぁ、うん」
唐突の指示に一瞬戸惑ったけど、ボクはポイズンサラマンダーの髭を切った。
追加効果の発動があるかなとびびったけど、何もなかった。
もしかしたら何か条件があるんだろうか。
「ガンテツさん、なんであの子にやらせたんですか?
倒したのはガンテツさんなんだから、あなたが持つべきですよ」
「疲れた」
はぁ、と釈然としない様子のエトラム。
「リュアちゃん、帰ろ」
ロエルがボクの手を引く。
ロエルもエトラムって人もオードも皆、あのおじさんが倒したと思ってる。
おじさんは帰ったら散々自慢するのかな。
魔物図鑑
【ポイズンサラマンダー】
全長30メートルもある巨大なトカゲ。
ベアーフォレストに生息するが、一度危害を加えると
どこまでも追ってくるほど執念深い。
ヘルベアーに次いだ凶暴性で、毒よりも巨体から繰り出される
暴虐のほうが危険だといわれている。