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第64話 ボクの強さ

◆ アバンガルド城下町 宿屋前 ◆


 たった数日しか離れてなかったのに、この風景がなつかしかった。ハスト様達の魔法がなければ、多分一週間くらいになっていたと思う。船で何日もかけて移動するほど遠い大陸からここまで、一瞬で移動できるなんて。やっぱり魔法はすごすぎる、なんでボクは魔法が苦手なんだろう。


「ねぇ、ロエル。魔法ってすごいね」

「あの、リュアちゃん……」

「うん?」

「その、踏んでる……」


 ロエルが控えめに指を指したボクの足元。そういえば何かおかしいと思った、人だ。人を踏んでいる。瞬間移動した拍子にこの人の上に落ちてしまったんだろうか。だとしたら、すぐにどけてあげないと。


「あの、ごめん」

「ぬっがーーーー! どこのどいつだ、急に現れやがって! ん?」


 ガバッと立ち上がったのは鎧を着た垂れ目のおじさん、確か闘技大会予選決勝で戦ったグリイマンだ。いつか武器屋の前でも会ったっけ。それにしてもこの人、また違う装備をしている。今度は軽装で肩が露出した鎧を着ていた。派手好きなおじさんというイメージがあったけど、そうでもないのかな。


「お、おまえは! しばらく見ないと思ったら、まーだいやがったのか!」

「しばらくって、たった数日だよ」

「うるさい、揚げ足とるんじゃない! それで私に何の用だ? 言っておくがこの装備はやれんし、金も貸さんぞ!」

「いや、別に。たまたまここにおじさんがいただけで会いにきたわけじゃないし」

「こいつ、つくづく生意気なガキだ……」


 別に間違った事は言っていないのに、喋るだけ怒らせてしまう。何が気に入らないんだろう。負けた事をまだ気にしているのかな。あ、あの試合の時に鎧に穴あけちゃったっけ。弁償しろとか言われたらどうしよう。15万ゴールドで買えるのかな、でもそんな事で使いたくない。


「フン、それよりも呑気なものだ。闘技大会優勝者というのも大変だな」

「なに、それどういう意味?」

「おーい! ここに闘技大会優勝者のリュアがいるぞぉ!」


 突然、街中で大声を出してどういうつもりなんだろう。と思ったら、至るところから物騒な人達がわんさか寄ってきた。若い男の人や女の人、歳をとった人まで様々だけど全員に共通しているのは誰もが戦いにでもいくかのような格好をしている。剣、槍、斧、ナイフ、手にしている武器もいろいろで、中には素手の人もいる。

 この人達は冒険者なのかな。目つきがギラギラしていて、獲物でも狙っているかのような集団だ。全員がボクを注目している。


「この子があのマスターナイトを破って優勝までしたのか?」

「どれほどの者かと思えば、まだほんの子供でないか……」

「馬鹿な連中だ、自分との実力差もわからんのか」


 なんか好き勝手に言われている。何なんだこの人達は。そしてこの騒ぎを起こした張本人のグリイマンはニヤニヤしている。さぁどうすると言わんばかりだ。腹立つ。


「リュアちゃん、この人達もしかしてリュアちゃんと戦いに来たんじゃないかな」

「え、えー? なんでまた……」

「おまえの噂はすでに大陸中に広まったぞ。Bランクの少女が次々とAランクを破り、闘技大会優勝。王国を襲った新生魔王軍とかいうのを撃退した事や、王国兵隊数千人相手に地獄を見せたとかな。

そんなもん、猛者どもが放っておくわけがないだろう?

それどころか、もっと広まれば各国からのスカウトだってありうるかもな」


 なんか尾ひれがついてる。そういう事か、ボクがいない間にこの人達はここを目指してきたのか。だとすれば、これからもどんどん増える可能性だってある。この人達、何人いるんだろう。数えるのも嫌になるくらいたくさんいる。

 Aランク昇級試験はまだ先だから片翼の悪魔の情報でも集めつつ、近くの町にでも行こうかと思っていたのに。あ、そうだ。この人達なら何か知っているかな。


「さて、ここではなく場所を変えようか。この爆殺魔・バースが暴れるには広い場所がいい」


 何がさて、だ。勝手に決めないでほしい。ボクは戦うなんて一言も言ってない。


「待て。子供とはいっても相手は闘技大会優勝者だ、賞金首上がりでは話にならん」

「まず死ぬのはお前か、斬手刀のクトウ。武器は一切使わず、素手で鋼鉄の塊であるフルメタルスコーピオンすらも切り裂いた、切り裂きモンク」


 どんどん人が集まってきているよ。まぁいいか、ちょっと聞いてみよう。


「あの、この中に片翼の悪魔を知ってる人いる?

翼が片方しかない魔物なんだけど……」


 静まった。ボク、何か変な事いったかな。確かに戦いに来た人達に対して言うセリフじゃないかもしれない。なんだか、眉間に皺を寄せて怒ってる人まで出てきた。にじり寄るように何人かが、ボクとの距離を詰めてくる。


「そんなもの知るか。それより、決闘の申し出に対する返答がまだなんだが?」


 やっぱり知らないか。それじゃ、と言いたいところだけど絶対逃がしてくれない。うーん、この人達を怒らせない方法はあるかな。やっぱり、戦うしかないか。


「そうだ、これだけ多いと時間がかかるから全員一気に戦おう!」


 今度こそ本格的に静まった。いくらボクにだって、完全に怒らせてしまったとすぐわかる。喋ってからすぐに後悔した。あの人なんか額に血管まで浮き出てるし、あっちの人はなんかナイフでお手玉みたいな事を始めて、戦闘準備が整っている。

 この人達は真剣にボクと戦いたがっている。それなのに今みたいな事を言ったら、馬鹿にされてると感じて当然だ。やっぱり戦うしかないのか。


「おーい、こりゃ何の騒ぎだ」


 聞き慣れた声、大剣を背負った若い男。そう、セイゲルがこの人達の背後から歩いてきた。一斉に振り向き、そしてほぼ全員が驚愕する。その反応でセイゲルがどれだけ一目置かれているか、よくわかった。


「ド、ドラゴンハンターセイゲル?!」

「まさかアバンガルドに滞在していたのか?」

「おや、お二人さん。もしかして騒ぎの原因はおまえ達か。

うんうん、大体の察しはつくぞ。おい、君達! ここにいるかわい子ちゃんは大変お疲れなんだ!

というか挑戦者なんだから、まずは礼儀を弁えるべきは君達のほうじゃないのか?」

「う、それは確かにそうだ……」

「どーしても戦いたいってんなら、あの子の言う通りにしな」


 あれだけ鼻息を荒くしていた人達を一気にまとめてしまった。なるほど、そう言えばいいのか。セイゲルはこの手の扱いに慣れているのかな。この場はひとまず収まった、と胸を撫で下ろしたのも束の間。その中の何人かが、構う事なくボクの前へ歩いてきた。


「冗談ではない。私は数日かけてアバンガルド王国にまで来たのだ。

おまえに勝てば、この斬手刀の威力をより世界に認知させられる。もちろんこちらとて、生半可な覚悟で挑もうとは思っていない。そこを理解して頂きたい」


 他にも爆発魔だかの人とナイフでお手玉してる人も睨みをきかせている。事情はわかったけど、結局この人達は自分の力を示したいだけだ。そこにたまたまボクがいただけ。つまり、ボクなんか踏み台程度にしか思ってないって事だ。闘技大会含めて、ボクはこれまでの間、勝負に対して少しは真剣に思い直したつもりだ。アマネさんみたいに、それぞれ磨き上げてきた強さがある。もちろんここにいるグリイマンや、あのヘカトンだってそうだ。

 でも、ふと考える。ボクが奈落の洞窟を攻略しようと思ったのも、自分の力を示したいから? そう思うと、ボクもこの人達と大差ないのかもしれない。考えれば考えるほど、わからなくなってくる。


「なんだなんだ? あれ、もしかして闘技大会優勝者の……」


いつの間にか多くの人がボク達を取り囲んでいる。この挑戦者の人達のせいで思い出したけど、ボクはこの町では特に有名人なんだっけ。これはもう引くに引けなくなってきた。といっても、悩んだおかげで答えはすでに出ている。


「いいよ、全員戦おう」


 ボクの返事に挑戦者の人達が沸き立った。それからは流れるようだった。町の人達含めて大騒ぎになり、挙句の果てにはミニ闘技大会だなんてはしゃぎ出した。人事だと思っているけど、この人達全員と戦うのはボクだ。もしかして連戦なんだろうか。いや、もしかしなくてもそうだ。全員なんて言わなければよかった。


「ところでグリイマンさんよ、あんたは挑まないのか?」

「あ、あぁ。ちょっと体の調子が悪くてね」


 そのセリフとは裏腹になぜか目が泳いでいたグリイマンだった。


◆ アバンガルド王国 アバンガルド大橋前 ◆


 街中はさすがに迷惑がかかるというか、本気で捕まりかねないので場所を変えた。外ならどこでもよかったんだけど、あまり遠くに行くのは面倒だし、ここなら魔物が襲ってきても弱いので心配はない。

 なんだかんだでかなりのギャラリーが取り囲む事になった。純粋にボクを応援するロエルとなぜかうれしそうなセイゲル。町の人達もついてきちゃって、よくわからない団体になっている。


「一番手は私だな」


 誰が最初に戦うかでかなり揉めて、最終的にジャンケンで決めたみたい。大人達が大人数でジャンケンをする姿はボクから見ても、ちょっと引く。それで見事、ジャンケントーナメントに勝利したのがこの斬手刀のクトウだ。ボウズ頭に痩せた体型で、あまり力強そうには見えない。


「武器は使わないの?」

「この鍛え抜いた素手に勝る武器など、存在せんよ」


 そういうボクも剣を抜いていない。だって大怪我させちゃったら、後でロエルに治療させてしまうハメになるから。 


◆ VS "斬手刀"クトウ ◆


「いきなりで悪いが、決めさせてもらうぞッ! 百斬刀手ッ!」


 空をも切り裂きかねない連続での突きはなかなかの迫力だけど、遅すぎる。


「この突きの前では……ハッ?!」

「遅い」


 一つの突きを繰り出す間にこうやって懐に入れてしまう。そしてアゴの横あたりを軽めに弾いた。意識を失ったクトウはふらりとよろけて、その場に倒れた。


◆ VS "爆殺魔"バース ◆


「ハッハァーーー! ショータイムッ! この日の為に作った特製レインボムを受けるがいい!」

「や、やばいぞ! バースの奴、ここら丸ごと焼け野原にする気だ! 巻き込まれるぞぉ!」


 それはダメだ。たくさんの爆弾の垂れ下がったマントを広げた瞬間にボクはそいつに接近して、軽めにビンタした。頭がすごい角度に曲がったまま地面に叩きつけられるように倒れ、そのまま動かなくなってしまった。


「や、やりすぎた……あの、生きてるよね?」

「おい! 首がやばいくらい曲がってないか?!」


 幸い、命に別状はなかった。周りの被害も考えないで戦おうとした奴にまで献身的にヒールをするなんて、ロエルは優しい。


◆ VS "ナイフジャグラー"ハミル ◆


「フッフッフッ……口ほどにもない相手ばかりで退屈しただろう?

宣言しよう。君はこの無数のナイフで切り刻まれる」


 キラリとナイフを光らせたと思ったら、またお手玉みたいな事を始めた。なんかすごく楽しそうだから、しばらくは見ていたけど飽きたのでそのまま突進してひじうちを当てた。それと同時にこの人のコントロールを失ったナイフが空中からバラけて落ちてきた。危ない危ない、確かに切り刻まれるところだったかも。なんて。


◆ そして ◆


「あの、まだやるの?」


 まだ半分近く残っていたけど、ボクが勝つに伴って盛り上がりが消えていた。とっくに戦意なんて消えているのが嫌でもわかるほどの沈黙。喜んでいるのは戦いに参加していない町の人達だけだった。

 まるで芝居でも楽しんでいるかのような歓声。反面、クトウやバースなんかは負けた事すら自覚できないまま気絶したみたいで、目が覚めてから周りに説明されてようやく理解したみたいだ。


「……次元が違う」


 その一言がなんだか突き刺さった。単純に褒められているようには思えない。そう呟いた挑戦者の一人は虚空を見つめているようだった。どこを見ているともわからない視線、その先には当然ボクはいない。認めたくない現実から目を逸らしているようでもあった。

 クトウはこれでもかというほど、拳を地面に打ちつけて血を滲ませている。自分の信じてきた力が打ち砕かれた、口には出さなくてもその行動だけでわかる。

 なぜかって、ボクも奈落の洞窟で嫌というほど味わったからだ。自信をつけて挑んだのにまったく敵わなかった。そんなのは一度や二度じゃない。でも、そこで諦めたら本当の意味で負けだ。悔しかった、ただそれだけでボクは戦っていた。

 ボクが、出来ている事だから他の人にも出来るだろう。漠然とそう思っていたけど、そうじゃないとわかった。


「おい、もう挑戦者はいないのかー!」

「全員、戦意喪失ってか?」


 心無い声まで聴こえる。悪気はないのかもしれない。それらは戦った事がない人達だから、言える事だ。


ボクの強さって何なんだろう。


 沈む挑戦者の人達を見てボクは改めて思った。自分の手の平を見つめても、当然答えなんか書いてない。そんな風にまじまじと見ていると、セイゲルがボクの肩に手を置いた。


「これでお開きかな? さすがにもう挑戦したいって奴はいないだろう。

だがなおまえら、相手との実力差を感じ取るってのはそれだけで強さだ。

うん、まぁなんていうかな。そう落ち込むな。オレだって結構最近、負けたぞ。死にかけた」


 慰めになっているのかはわからない。それでもセイゲルはこの場を何とかしようとして言ってくれた。勘違いかもしれないけど、そう思った。相手との実力差があっても強くなれたボクとそうでないかもしれない人達。一体、何が違うんだろう。


「いやー、しかしアバンガルド祭は終わったってのによくもまぁこれだけ集まったもんだ。

やっぱり、諸君はアレ目当てかい?」

「セイゲル、アレって?」

「おまえ、知らないのか? 今、城で面白い事やってるんだぜ」

「面白い事? この人達はボクと戦いたくて集まってきたんじゃ?」

「おいおい、そりゃ自分大好きすぎだろ。まぁそういう奴もいるんだろうが、大抵はアレ目当てだ」

「え、それじゃグリイマンは……」


 ボクがグリイマンを見ると、露骨に頭を明後日の方向に向けた。どうやらボクはアレ目当てという奴のついでみたいだ。そう解釈するしかなかった。それじゃ、この人達はその為に集まったのか。


「セイゲル、アレって?」

「城に行こうぜ。アレをやろう。言っておくが無料だからな」


 アレって何だろう。ロエルは何か勘違いしているのか、わずかに涎をすすっていた。そういえば、お昼まだ食べてなかった。

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