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第50話 持たざる子 終了

リッタの持つ黒い槍が一瞬だけ光った気がした。一人はしゃぐリッタに絶句する一同、でもカークトンはまもなく歩き出してリッタの前に立つ。


「リッタ、その槍はどこで手に入れた?」

「はい? どこだっていいじゃないですかぁ」

「答えろ」

「忘れましたぁ」


槍に頬をすりすりと当ててカークトンの質問なんて二の次といった感じだ。イリンとシュリは何か言いたげにその様子を静観している。あの槍は何かあるんだろうか、そしてなんでそれにカークトンが気づいたのか。


「その槍をこちらに渡せ」

「嫌です」

「渡せ、命令だ」


手を差し出すカークトン、でもリッタは舌を出して小馬鹿にした態度をとってまったく応じない。カークトンが一歩近づいた時、リッタの表情が豹変してその槍を盾にして防御姿勢をとった。

光の宿らない目が生気を感じさせない。さっきまで笑っていたのに魂が抜けたような表情になって、カークトンを牽制する。


「リッタ、どういうつもりだ?」

「カークトン隊長は私からこの槍を取り上げてどうするんですか? また弱虫リッタになれっていうんですか?」

「持ち主に力を与える代わりに、その体を蝕む武具があるのをおまえも知っているだろう。気づいていないだろうが昨日、今日、そして今と経てわずかだがやつれている。このままだと死ぬぞ、その槍を渡せ」

「カークトン隊長は私が気に入らないんですね。だから昨日だって思いっきり引っ叩かれた」


言われて初めて気がついた、頬のあたりが少しだけど痩せた感じになっている。カークトンはこんな些細な変化に気づいていたのか。シュリはメガネの位置を直して、改めてリッタを見つめている。


「リッタちゃん、カークトンさんの言う通りにしたほうが……」

「うるさいですね、皆して私を馬鹿にしてるくせに」


ロエルが恐る恐る話しかけるも、一蹴されてしまった。

光りのない目をボクやカークトン、兵士達含めた全員に向ける。槍を片手で回し、手足のように操るリッタ。一歩も近づけさせないと言わんばかりの臨戦態勢だ。諦めたかのように溜息をついてから、カークトンは腰から二本の剣を抜く。


「強情を張るなら、無理にでも奪うぞ」

「やっぱり隊長は私の事なんか嫌いなんですね。私、必死にがんばったのに誰も認めてくれない。

皆が私を笑う、陰でなんて言われているか知らないほど馬鹿じゃない。

隊長だって私に見込みなんてないから煙たがってるんだ。だからここで私を殺そうとしてるんでしょ」


坑道内の空気が変わった。リッタの体から黒いオーラのようなものが槍に吸い込まれる。後ずさりする人や何か小声で抗議する人、兵士達の恐れが伝わってきた。ロエルや友達二人が心配そうに駆け寄ろうとするが、カークトンに手で遮られる。

今のリッタは普通じゃない、たとえ親しい人でも殺してしまいかねない。それがわかるほど、リッタの殺気が膨れ上がるのを感じた。


「力がないと何も守れない、何も出来ない。私の気持ちがわかりますか」

「話は後でたっぷり聞く。その槍を渡せ、でないと本当に死ぬぞ」

「嘘ばっかりッ!」


別人のような声を張り上げてリッタはカークトンを突き殺そうとした。難なくかわしたカークトンは反撃で槍を弾く。その隙を突いて懐に入ろうとするカークトンを槍でなぎ払うかのようにして追い払った。

バックステップでかわしたカークトン、リッタはじりじりとカークトンとの距離を詰める。

あの黒いオーラ、どこかで見たような気がする。

そんな事よりもこれ以上は見ていられなかった。リッタの豹変もそうだけど、何よりそれを心配そうに見つめる二人の友人。イリンは半泣きになりながらも、リッタから目を逸らさない。

カークトンの言葉からして、あの槍がリッタを狂わせている。止めよう、あの槍を取り上げてやる。


「カークトン、下がっていて」

「君の手は借りない」

「いいから」


一歩も譲らないボクにカークトンは諦めたのか、剣を収めて下がった。

ボクを見てもリッタの無表情は変わらない、死んだような目をボクに向けてくる。


「リッタ、もうやめよう。友達が心配している」

「リュアさんも私の事を馬鹿にするんですか? 私、リュアさんだけは信じていたのに」

「じゃあ、ボクを信じてほしい」


話すだけ無駄なのはわかっていた。ボクが一歩ずつ近づくたびに槍を構えたまま、後ろに下がるリッタ。

瞬時に接近してボクは黒い槍を握った。いきなりボクが目の前に現れたように見えたリッタは、びくりと体を震わせて攻撃に転じる事もできなかった。

槍を動かそうと力を込めるリッタだけど、ボクは離すつもりはない。


「リュアさん、離して下さい。どうしてこんなひどい事するんですか」

「こんなので強くなっても意味ないよ」

「私、リュアさんみたいに強くありません。強くないから馬鹿にされるし、魔物一匹倒せないんです。

あの日、魔王軍の人が放った魔物に私、全然太刀打ちできなかったんですよ。

お兄ちゃんが助けにきてくれなかったら、どうなっていたか。リュアさんにそんな経験もないし、私の気持ちなんか絶対わかりませんよ。それなのにこうやって邪魔をする、もう私……どうしていいのかわからないんですよッ! 私は何も持ってない子なんです!」


目に涙を溜めたリッタがボクから槍を振りほどこうとしている。

言いたいことはたくさんあるけど、わかってほしい事はたった一つ。それを教えるためにはまず、この槍が邪魔だ。


「リッタはこんなものがなくても強くなれるよ。この槍はリッタの何も支えてくれない。

でもボクの後ろにいる二人は違うと思うよ、あんなにリッタの為に泣いてくれてるんだから」


ボクは槍に力を込める。亀裂と共に槍が折れ曲がり、握りつぶした。刃のついた先端が坑道の地面に転がる。砕けた槍の片割れを持つリッタから、黒いオーラが発散された。

リッタを中心に強風が放たれて、武器を持った兵士達が飛ばされかける。でもそれも一瞬で、何かから解放されたかのようにリッタの瞳には光が戻った。

そして今までリッタを吊るしていた糸が切れたかのように、彼女はその場に倒れこむ。


「リ、リッタ!」


イリンとシュリの二人が駆け寄るとリッタは弱々しく立ち上がろうとする。また倒れそうになるところをボクを含めた三人で支えてあげた。さっきまでの禍々しい雰囲気は消えて、ボクの知っているリッタがここにいた。


「あ、あの、私……」

「ごめん、リッタ。これからは一緒に悩んであげる」

「分析……ばかりでは大切なものを見失う。私からも謝る、リッタ」

「私、皆に迷惑をかけて……」


大粒の涙をこぼしながら、リッタは二人の友達に支えられている。泣きじゃくるリッタを茶化す人は誰もいなかった。


◆アバンガルド王国 医務室◆


「しばらくの間、安静にしていれば問題ありませんでしてよ」


早期に槍から解放されたおかげでリッタの体については特に心配するほどでもないらしい。

回復魔法を使うのかと思ったけど、ユユは何もしなかった。三食とって寝て体力回復だけでいいみたいだけど、何よりそれだけで済んだのは日頃の鍛錬のおかげみたい。

医務室のベッドに横たわるリッタに付き添うイリンとシュリ、この二人がいれば安心だろう。


「リッタは起きているか?」


医務室に入ってきたのはカークトンだった。まさかここで怒りつけたりしないだろうけど、少しだけ心配だ。


「隊長……すみません、私クビですよね」

「本来ならば命令違反を初め、会議にかけられるところだが不問としよう。私は何もみなかった」

「いいんですか……? 私みたいなダメな子にそこまで……」

「今は回復に努めろ、話は以上だ」


たったそれだけを言ってカークトンは歩き出し、入り口のドアノブに手をかけた。


「万全になったところであまり無茶はするなよ。特に個人トレーニングは当分控えておけ」

「た、隊長……あの、知ってたんですか?」


リッタの質問に答えずにカークトンは出ていった。全然怒っていない、それどころかボクにはカークトンがリッタを認めているように見える。


「隊長は普段超厳しいけどね、ちゃーんと見てくれてるよ」

「私の分析が正しければ、リッタに本当に素質がなければもうとっくに追い出されてるはず」

「そ、そうなんだ……それなのに私あんな事までいって……」


赤面したリッタは再びあふれ出てくる涙を拭った。リッタの頭を撫でるイリン、こうしてみると友達という関係が本当に素敵だと思う。ボクにそう呼べる人がいるとしたら、隣でもらい泣きしそうになっているロエルだろうか。


「ふぇぐっ、よかっだねぇ。ほんどうによかった」

「そこまで泣かなくても……」


鼻水まですすっている。


「私の分析によれば、隊長は部下全員の下着の傾向まで言えるはず」

「ゲーッ! それはキモい! やめようかな!」


この二人の茶番は置いといて、そこまでしていながら今日のカークトンはどこか焦っているような気がした。フロアモンスターを抜きにしても、個人の実力差を考えるならまだあのダンジョンは危ないと思う。

動きを見た感じ、魔物との実戦経験が足りない人達ばかりだった。お城周辺の魔物ならそうでもないのに。


「いこっか」

「うん。あ、そうだ。これからの訓練はどうするんだろう?」

「依頼書には期間は書いてなかったよ。肝心なところが抜けちゃってるね」

「もう、部下の下着まで言えるならそういうところもきちんとしてほしいな」

「そ、それは絶対嘘だよ……」


なぜか恥ずかしそうにきゅっとローブを押さえるロエル。

さっき医務室を出て行ったなら、まだその辺にいるはずだ。カークトンを探す為にボク達もここを退散する事にした。


◆アバンガルド王国 宰相の部屋◆


「ふむ、これがその槍ですか。それでは預かりましょう」


ベルムンドは槍の破片を抓むと、あらゆる角度からそれを観察した。彼にその手の知識があるのかといえば、ない。しかし、国王よりも宰相ベルムンドに報告しなければいけない事項が確実にある。

カークトンはその理由に疑問を持ちながらも、それに従っていた。


「これは解析班に渡しましょう。とはいえカークトン、あなたも感づいているでしょう。

それほどまでに精度の高い呪いの武器を精製し、その扱いに長けている者など世界中をひっくり返してもただ一人しかいない事実を……」

「しかし、その手の曰くを持つ武器などいくらでも……死の武器商人の仕業と考えるのは早計かと」

「リッタの話を聞いたのでしょう? それに十年以上前に忽然と足取りを消したかと思えば、今日になって突然尻尾を出した。そして先日の襲撃。臭いませんかねぇ、これ」

「それはつまり、死の武器商人が奴らと繋がっていると?」


その問いに答えずにベルムンドは槍の破片を片手で弄びながら、首を捻っている。早計とはいったが、カークトン自身もほぼ確信していた。闘技大会出場者のクイードが持っていた剣も、死の武器商人のお手製だと解析により判明している。

死の武器商人、十年前まで今回のような危険極まる武器をばら撒いて歩いていた謎の人物。目的が一切不明で正体も不明。武器をその人物から受け取った者に話を聞いても、ある者は男だといい、ある者は女だと主張して手がかりが掴めない。

それどころか、すでに呪いの武器により命を落とした者のほうが圧倒的に多かった。

まさかここに来て再び奴が現れるとは、カークトンは己の油断に腹を立てていた。


「あなたに責任はありませんよ」


カークトンの胸中を見透かしたかのようにベルムンドは言い放った。そのシワだらけの顔はカークトンも苦手だった。歴戦を誇る彼も、この宰相にだけは頭が上がらない。


「やれやれ、まだまだこの国に平穏が訪れるのは先になりそうですねぇ。ほんっとうに……」


憎々しげな表情の宰相に失礼しました、とだけ伝えてカークトンは部屋を出た。


◆アバンガルド王国 城内◆


「あ、いたいた!」


散々探し回っても見つからないと思ったら、どこかの部屋にいたのか。そこから出てきたカークトンを呼び止めようとしたけど、一瞬だけ躊躇してしまった。訓練の時にも見せなかった、張り詰めた表情。

何か嫌な事でもあったのだろうか。


「ん、き、君達。こんなところにまで来ていたのか。いつからいた?!」

「い、今だけど。どうしたの?」

「いや、いい……」


なぜか動揺しているカークトン。疑問に思ったボクとロエルで顔を見合わせつつも、依頼書についての質問をした。


「すまない、うっかりしていた。訓練は今日で終わりだ、元々部下達に活を入れる為でもあったしな。

私からギルドのほうに報告しておこう。それより、今日はすまなかったな。また助けられてしまうとは……」

「そんなの気にしなくていいよ」

「そうか、それはよかった……」


口調がいつもより早口だったり、急に些細な事で安堵したりでどこか変だ。疲れているのかな、それならこれ以上、話しかけるのはなんだか悪い。ボク達もお礼をいってその場を離れた。


「カークトンさん、何か変じゃなかった?」

「うん、でもきっと疲れてるんだと思う。ボクもリッタの件でドッと疲れが出ちゃった」

「宿に戻ろうか。早く船の修理、終わるといいね」


リッタの持っていた黒い槍、そして今日のカークトン。なにかひっかかりを覚えつつも、考えたところで結論なんか出ないからすぐに頭からそれを消し去った。それよりも早くウィザードキングダムへ行かないと。まだまだボクの知りたい情報の手がかりが何も掴めていない。

賢者ハストという人に会えば、何かわかるんだろうか。トルッポは元気にしているかな。

まだ見ぬ地に想いを胸に秘めつつ、今日は暖かいベッドで休もう。


◆シン レポート◆


りゃくしてシンレポ!

シンレポート リュアのせいたい←かんじわからない

その1


なまえ、リュア

なかまの女のなまえ ロエル


ロエルはリュアちゃんとよんでいる。年上の男からは君、もしくはよびすてがおおい。

好きな食べ物はわからない、どれもおいしそうに食べてる

きらいな食べ物はやさいが多い ロエルの皿によそっていたら おこられていた

ちゃんとたべなさいと いわれて ちょっとへこんでいた


今日は 兵士のくんれんしどうをしていた

ひゅっとか しゃっとか バカまるだしのことばで教えていた

あまり ちのうはたかくないと思う

おんなの兵士がおこられているのをみて おこっていた

ほうっておけばいいのに お人よしなせいかくらしい


今日は ぶきを 買っていた

やすいぶきを えらんでいた

お金があまりないらしい

おんなの兵士となかよし おんなの兵士もリュアが好きっぽい

にんげん関係はりょう好


今日は ミスリルこうざん

たいりょうの 兵士どもをつれていった

あたまながい隊長が あいかわらずおこってる

リュアは そのようすが好きじゃないらしい

そのようすをみているときの 顔が ふきげんだ

仲良くしている兵士の女が ふろあもんすたーを 倒した

あのやりは たぶん あいつが作ったやつだ

いないと思ったら こんなところを ほっつきあるいてやがった

くるった女の兵士を リュアが とめた

キングエレファントが百匹のっても こわれない あいつのやりを 手で にぎりつぶした

ちのうはひくいけど 力はやばい

あの三人が やられるのも わかる気がした


「ふぅ、こんなもんでいいですかね~。まったく、偉大なる魔王様の側近である私がなんでこんな事を……こんなもの、マリオネイターのジジイにでもやらせておけばいいです。

あー、疲れた疲れた。おやすみー」

魔物図鑑

【屈強なる岩窟王 HP 2850】

洞窟内の岩石に怨霊が宿った、もしくは岩に魔力が宿って魔物化したなど

正体はよくわかっていない。

単純な肉弾戦のみの行動パターンだが、高い物理や魔法耐性を持っているので侮った冒険者は頭蓋骨を粉砕されるか、消耗して逃げ帰るかのどちらかに限られる。

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